第7話
青年は自らを、ジョフロアと名乗った。マルグリット王国第2王子と同じ名だ。二十歳に届くかどうかという外見で、これまた第2王子と共通している。
ジョフロアは、身の上を語らない。
もしも本当に第2王子だとしたら、ひとりでこんな庶民の場所をふらふらしていたことに理由があるのかもしれない。ミュゼットの両親はそう判断し、頭痛を繰り返すジョフロアを家に置くことにした。
ミュゼットも頭痛が多くなり、父を手伝う日が少なくなった。
今日もミュゼットは朝寝坊をして、ジョフロアとふたりで食卓に向かい合う形になった。会話は、ない。気まずさも、ない。ジョフロアが来てから、あの夢が鮮明に記憶に焼きつくようになった。頭痛と寝込む時機は、ジョフロアと同じだ。
ジョフロアは厳密には肌の色が白いわけではなく、蜂蜜を垂らしたような若干の黄色みがある。顔の彫りは深いわけではなく、平たくはないが、あっさりしている。黒い瞳は、闇夜がとろりと溶けたようだ。「塩顔で男の色気だ」と父が評したが、父は何を言ってるのか、ミュゼットはちょっとよくわからない。
フリュイにチーズを添え、ミュゼットは牛乳たっぷりのカフェオレを、ジョフロアは砂糖を入れずにコーヒーを飲み、朝刊を読む。ミュゼットが連載小説を中心に読むことを知ったジョフロアは、連載小説の頁をミュゼットに譲ってくれた。
「こんなに若い読者もいたのか」
ジョフロアが呟いた。発語の訓練を受けているような、明瞭な声だった。
「刺激が強かったかな」
「何が?」
聞かれていたとは思わなかったようで、何でもない、とジョフロアは口をつぐんだ。少ない荷物の中から帳面を出した。しかし、すぐに顔をしかめて頭を抱えた。
「ジョフロア!」
ミュゼットは席を立ち、ジョフロアに駆け寄る。ミュゼットも頭が締めつけられるように痛くなり、意識を手放した。
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