第6話

「ミュゼット、目が覚めたか!」

「ミュゼット、大丈夫?」

 目を開ければ、両親に覗き込まれていた。

 頭が混乱していることに、ミュゼットは気づいた。自分の名が歌子だと誤解してしまう。

「倉庫で倒れていたんだよ。青年もいたけれど」

「ちょっと、あなた」

 この美しい母も、夢の中の歌子の母と似ても似つかず、ミュゼットはにわかに頭の整理が必要だった。

 起き上がることはできたが、頭が痛い。

「あの人は?」

 スギサキクン、という言葉を口の中で用意したが、発語には至らなかった。

「我が家だけの内緒にしてくれるか?」

 難しい読み書きができない母の代わりに、父が今日の朝刊の見出しを指差した。

 『我が国の第2王子が行方不明』

 しかし、ミュゼットはその近くの小さな見出しに目が止まった。

 『小説家マリー・マンステール失踪か?』

「マリー・マンステールが失踪⁉」

 ミュゼットの声が裏返り、部屋の出入口にいた人物が驚いて身を震わせた。父が言ったように、青年という年代の男性だ。

 青年が顔を上げ、何か呟いた。タナカサン、とミュゼットには聞こえた。

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