第4話
ミュゼットは夢の中で、弟の世話をしながら、家事も担っている。はっきりとは覚えていない。何度も見る夢を、目覚めてから分析すると、そのような結論になる。
夢の中の世界は、ネージュの町より文明が発達している。おそらく、マルグリット王国や他国よりも、遥かに。石畳よりも平らに整備された道路を、自動車が走っている。なぜか夢の中で自動車だと認識しているそれを、ミュゼットは実際に見たことがない。
夢の中の国にもパン屋はあるが、主食はパンではない。夢の中のミュゼットは、食事もろくに摂れない。
夢の中では、「つらい」という感情が常に心に住み着いている。
昨夜の夢は、パン屋の前で男の子とパンを食べる夢だった。どんなパンを買ったのか考えるうちに、鼻先が冷たくなって目が覚めてしまった。
寝坊した。階下からは、パン生地を作業台に打ちつける音が聞こえる。
怒られる。ミュゼットは、冷や汗をかく心地がした。
「お父さん、お母さん、ごめんなさい!」
折檻されるような気がした。両親は、そんなことをする人ではないのに。
「ミュゼット、おはよう。朝食ができているわよ」
母に促され、ミュゼットはひとり祈ってから朝食を摂る。母は父と食事を済ませたようだが、ミュゼットにつき合ってくれた。
昨日の売れ残りのバケットにジャムをつけ、もぐもぐしながら、夢の中で食べたパンを思い出そうと試みる。柔らかいパンだった気がする。それこそ、ミュゼットが育てている酵母でつくるようなパンだ。
朝食を終え、父のところへ向かい、生地に
「シュトーレン!」
「ミュゼット、もう起きたのか! 起こさないように静かに作業していたはずなのに」
「お父さん、あたしもやるよ」
「すまない。じゃあ、倉庫から干果物を追加で持ってきてくれるか?」
「了解」
ミュゼットは、父が倉庫と呼ぶ、材料を保管している部屋に向かった。建物の裏口でもあり、路地裏に出ることもできる。
倉庫から、冷たい風が入っていた。扉が空いている。扉にもたれるように、人が倒れかけていた。
「大丈夫……?」
ミュゼットが声をかけると、その人はわずかにまぶたを動かし、ミュゼットを見た。暗くて相貌はわからないが、目が合ったと思った刹那、ミュゼットは激しい頭痛に襲われた。
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