商業都市リール
商業都市リールの裏路地で二人の男女が向かい合っていた。
ロインと謎の人物、もとい銀髪碧眼の少女である。
少女の背丈はリアラよりも若干低く見え、透き通るような長い銀髪と微笑むだけで万人を癒やせそうな柔らかな顔立ちが特徴的だった。
一言で表すと、天使と聖女を足して2で割ったような少女。
年はロインと同じくらいに思える。
あのボロ布―実際はフード付きのボロボロの外套だった―からそんな少女が出てくると思っていなかったロインは口をポカンと開けて呆けていた。
「あの、助けていただいてありがとうございます。なにかお礼でも。―...あの?」
ハッ!
少女の言葉でロインは我に返った。
「ああ、ごめん。ちょっと驚いただけだ。―それにしてもなんでこんなところで倒れていたんだ?」
ロイン問いに少女は暫し考えるように頭を俯け、
「実は、私はここからはるかに遠い国に住んでいました。しかし、私の魔力を狙う悪者に追われ、国を出るしかありませんでした。ある日、私はこの力を守るため行くあてもなく逃げていたところ、ある街でリールの近くに元剣聖様いると聞いたのでこの街にやってきたんですが、そこでお腹を空かしてしまい...」
意を決したようにロイン見つめると、言った。
―こいつの力を狙う悪者。
美少女を狙う変態(たまにおっさんを狙う変態もいるが...)は聞いた事があるが、個人の魔力を狙うとなると大分話が変わってくる。
というのも、この世界の人間は得手不得手はあれど大抵の魔法は扱う事が可能なため、ただ単純に魔力が欲しいのなら魔力石(魔力のこもった石)を使えばいいはずなのだ。わざわざ個人の魔力を欲する必要は無い。
―こいつ、怪しいな。
ロインはそう結論付けた。
そもそもこんな人気のない路地裏でぶっ倒れている時点で怪しい。
もう剣聖を引退したアランを狙う理由は分からないが、他の狙いがあるのかもしれないとロインは推察する。
―ただ、こんな神話に出てきそうな美少女がいるなら何かしらの噂くらいあってもいいと思うんだが...
「ところで、名前はなんて言うんだ?」
一抹の疑問を脇に押しのけ、少女の名を尋ねるロイン。
「―....私の名前はマリアと言います」
「へぇー、...ミルレス神聖国の聖女マリアと同じ名前なんだな」
「え!?あ、はい!そうです!両親が聖女様を慕っていまして。それでこの名前に」
何気なく呟いたロインの言葉に少女、マリアはなぜか驚き、そのせいか若干声が上擦っていた。
「―あ、ああ。そうなんだ」
突然のマリアの変化にロイン驚き、返答が若干遅れる。
「あの、あなた様の名前はなんと言うのでしょうか?」
「んあ?俺?」
マリアの問いにそういえば名前を名乗っていなかったなと思い、
「俺の名前はロイン。ロイン・アースヴァンド」
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商業都市リールは王都からほど近い距離―馬車で20分ほど―にある都市で品物だけでなく傭兵や情報なども売っている。
また、その利便性から貴族や王族もよく立ち入るエンデルス王国最大の都市である。
その都市は四つの区画に分かれており、
剣や防具、魔法石や魔道具など主に戦闘などに使う物―傭兵もここで売っている―がある武具区画。
宿や本屋や劇場、風俗店―一応大人向けのは分けられている―などがある娯楽区画。
食べ物や道具などを売っている生活区画。
三つの区画の中央にあり、都市を防衛、警護する衛兵詰所とこの都市を治める首長の住む屋敷がある中央区画。
しかし、この都市にはもう一つの区画、暗黒区画―人々が勝手にそう呼んでいる―が存在する。
暗黒区画は他の四つの区画とは違い決められた土地などは持っておらず、その規模も不明である。
そして暗黒区画では人身売買や飲んだだけでハッピーになれる薬、持ってるだけで命を狙われるような情報などとにかく普通では手に入らないヤバイモノが日々売買されており、この都市で起こる犯罪の大半はこの区画のものだと言っても過言ではない。
本来ならこの都市の衛兵がそれらが取引されないように警備しているが、衛兵に賄賂を渡して見逃してもらったり、衛兵に見つかる前に拠点を変えたりして今でもずっと存続しているのだ。
そしてこの都市では中央に行くほど高価で豪華なものが売っており、この都市に住む商人達の目標は中央へと昇り詰めることであった。
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そんな商業都市リールの中をロインとマリア―そのまま放置する訳にも行かないので連れてきた―が歩いていた。
「あれ、見てください!キラキラ光ってますよ!」
マリアは星が出てきそうなほど目を輝かせながら素人目でも分かるようなポンコツ魔道具―特定の系統の魔法を扱うための補助をする道具―を見ていた。
ここは武具区画の主に魔法関連の道具を売っている場所だ。
その武具区画の入り口とも呼べる場所でロインは道草を食っていた。
マリアがいろんなものに目移りしてなかなか思うように行動できないのだ。
「少し見てもいいですか?」と言ってきたマリアに対して「好きなだけ見ていいよ」と言ってしまったのが悪かったのかもしれないとロインは今更ながらに後悔していた。
―こいつの狙いは何なのか、観察して見極めるために言ったんだが...
いろんなものに目を輝かせるその様はまるで子供。
そしてマリアは誰がどう見ても美少女ということで嫌でも衆目の目を引いている。
その外套は汚れていてボロボロだからと外してもらったのが悪かったかもしれないとロインは再び後悔した。
ちなみに外套の下は普通に綺麗な白を基調とした服だった。
「...マリア」
「なんですか?」
マリアはキョトンとした顔でこちらを振り向いた。
―こいつの顔を隠す物を買わなければ。これ以上注目されるのは避けたい。
「外套を買いに行こう...」
「分かりました!」
なにか疲れている様子のロインに全く気を留めず、マリアは再び目を輝かせて元気に頷く。
それを見てロインはまたやってしまったかもしれないと思うも前言撤回するのもあれなのでおとなしくマリアを生活区画へ連れていくことにする。
ロインの中でマリアに対する警戒心が徐々に薄くなっていた。
「綺麗な服ばかりです」
マリアは服飾店の主に外套などが売っているコーナーでいろんな服を見ていた。
武具区画よりもおもしろい物がないためか、さっきよりも幾分かおとなしいがやはり目を輝かせていた。
そしてロインはアランの財布とは別の自分の財布―買い出しの時に欲しいものがあったら買えるように用意している―の中身を確認していた。
―あんまり入ってないな...
想像以上にお金が入っておらず、ロインはさっきまでの疲れと相まってガックリとうなだれた。店員が心配そう声をかけてくるが気にしない。
一週間前に買ったアレがいけなかったのだろうか...
ロインのお金はすべて家事の分も含めたアランからのお小遣いであり、それはリアラも同様である。そのため家事争奪戦が起こっている。
仕事をして稼ぎたいとアランに言ったことはあるが、それでは修練の時間が減るということで却下された。ただ、仕事をしたいと言ったのはお金が欲しいからではなく、師匠として指導してもらい、さらにはお金をも貰うのは申し訳ないと思ったからだ。
「これにします」
と、そんなロインの前に外套を持ったマリアが戻ってきた。その口調は落ち着いていたが、鼻息が若干荒かった。
マリアの持ってきた外套は白基調の生地に金色の刺繍で飾り付けたフード付きのものであった。そしてなぜかフードには可愛らしい猫耳が付いていた。
肌ざわりもいいし高そうだなーと思って値札を見ると、なぜか割引されまくってお手頃価格になっていた。
店員に聞いてみると猫大好きの店主が猫耳外套をたくさん仕入れたところ思いのほか売れず、結果、どうせ処分するからと割引チキンレース―お客様が買ってくれるまで割引するゲーム(?)らしい―を始めたのだそう。
ちなみに隣の店の犬大好きの店主は犬耳外套をたくさん仕入れて大成功したのだそう。
最近の流行は分らんのお、と時代に取り残された老人のようにロインは思うのだった。
フードを被ったマリアを横に連れてロインは再びさっきと同じ武具区画へと来ていた。
わあ、と目を輝かせるマリアの腕を強引に引っ張り、武具区画の奥へと向かう。
武具区画を少し進んで若干煌びやかになった店達の陰に隠れるように目当ての店はあった。
棚に様々な魔道具が置かれている店に入ると様々な魔道具が棚に並べられており、黒いとんがり帽子に黒を基調にしたドレスに身を包んだ女性がそれらの魔道具を顎に手を当てて眺めていた。
この店の店主だ。
「あら、ロインちゃんと―あなたは?」
彼女はロインとは買い出しで何回か会っており既に顔見知りだが、当然マリアとは初対面である。
「マリアと言います」
「そう。素敵な名前ね。私はミレーネ。ミレーネお姉ちゃんと呼んでちょうだい」
「はい、ミレーネお姉様」
「ふふ、お姉様も悪くないわね」
満足気に微笑んでいるミレーネを見てはあ、とロインはため息をついた。
ミレーネはアランと並べても遜色ないほどすごい人なのだが、もう40代だというのに未だにお姉ちゃんと呼ばれるのにこだわりを持つのはどうかとロインは思う。
まあ、ミレーネの容姿は変に妙齢な美少女と呼ばれても納得出来てしまうので違和感は無いが。
「ところで今日はなにを買いに来たのかしら?」
「これです」
と、ロインはメモを渡す。そこには必要な魔道具や魔法石、他にも関係なさそうなものまで丸が付けられていた。
それを受け取ったミレーネはちょっと待っててと言い、店の奥に姿を消す。
マリアは店に置いてある色々な魔道具を目を輝かせて眺めていた。
「これでメモに書かれてあった物は全部ね」
ミレーネはパンパンに膨れたバッグをドサッと置いた。
「60527ダモね。本来ならこれの3倍の価格なんだけど、可愛い天使様を見せてくれたお礼とアランの頼みって事で割引よ」
「は、ははは」
ロインはこれを冗談では無いと知っているから笑えなかった。
ミレーネが売っている魔道具は市場で売っている物よりもはるかに高いが、性能がいいらしい。ただ、その性能に対して値段が高すぎるのだが。
ではなぜこの店で買うのか。それはアランとミレーネが旧知の仲というのもあって市場の値段まで割引してくれるからだ。
「ロイン」
店を出ていこうとするロインを不意にミレーネが呼び止めた。その眼はなぜかマリアを見ている。
「なんですか」
マリアに店の入口近くで待っているように言い、ロインはミレーネに向き直る。
「あの娘はなんなの?」
ミレーネのその声はまるで得体の知れないものに対して尋ねるようなものだった。
その声音をロインは訝しむが、ミレーネにはいろいろとお世話になっている節もあるため話さないのもどうかと思い、マリアと出会ってから今までの事を話す。
ミレーネはその話を聞いてなぜか真剣に考えこむように頭をうつむかせていた。
その数秒後、ミレーネが口にしたのはさっきの話と全く関係なさそうなものだった。
「これは確かな筋からの情報なんだけど、ミルレス神聖国の方で異変が起きてるらしいのよ」
ミレーネの店では魔道具の他に情報も扱っておりその信憑性はかなり高い。メモに書かれてあった関係なさそうな物もあるものに関する情報だ。
「―異変、ですか」
「そう。なんでも今までは『聖女マリアの祝福』、つまり聖女マリアの治療をいつでも受けられたそうなんだけど23日前あたりから治療を受けつけなくなったそうなのよ」
聖女マリア。
200年ほど前から今も生きているとされている伝説の回復魔法士。聖女の容姿に関して書かれている書物は全くなく、本当にいるかどうかすらも不明。ミルレス神聖国が約200年間ずっと保護していると宣言しているが、そもそも人間が200年間生きること自体ありえない。
そしてミルレス神聖国は『聖女マリアの祝福』と称して、それを希望する負傷者及び病人―特に命の危機にあるものほど優先されるようだ―をいつでも無償で治療しているのだという。
「それは確かに変ですけど、なんでそれを俺に教えるんですか?」
「あの娘のオーラが異質なのよ。普通の人間とは明らかに違う魔力。ここまで違うと基礎的な魔法すらも扱えないはずよ」
普通の魔力とは全く違う魔力―
つまりそれは普通の魔法は扱えない代わりに普通は扱えない魔法を行使できるということだ。
そして回復魔法は歴史上、聖女しか扱える者がいない。
ロインはミレーネが何を言いたいのか察した。
「―...もしかして、マリアは聖女でここまで逃げてきたというんですか?そもそも聖女が本当に今も生きているのか分からないんですよ?」
「確かにそうね。でも『聖女の祝福』を受けた者は腕を無くしていても、もう治らないであろう病気に罹っていても、致死性の毒を受けていても、皆何事もなかったかのように完全に回復しているのよ」
「でも、だとしても、マリアが聖女と同一人物とは限らないじゃないですか」
「勘よ。元魔法士としての勘」
そして返ってきた答えは勘―だった。
ロインはなぜ自分がここまで怒っているのか理解できなかった。
もしかしたら一緒にいるうちに情が移ったのかもしれない、魔道具を見て子供のように目を輝かせているのを見たからかもしれない―
とにかくロインはマリアが聖女だと認めたくなかった。
たとえもしそうだとしたら、あまりにもかわいそうではないか。約200年もの間閉じこまれ、国の利益のためにただ利用されるのは。
「マリアが聖女だという理由が勘?もういいです、あなたの戯言に付き合ったのが間違いでした」
そう言ってロインは名残惜しそうに魔道具を見ているマリアを連れて店から出て行った。
ロイン達が店から出ていくのを見届けて、ミレーネは大きなため息をつきながら先程までのやり取りを思い出し、
―もうちょっと言い方を変えるべきだったかしら。
とひどく反省した。
マリアのオーラが異質なのは紛れもない事実である。ロインもそれは疑ってはいないだろう。そしてそれがどれほど異常な事かも分かっているはずだ。
だが、それでもマリアが聖女であることは認めたくないのであろう。
なにせ聖女マリアはミルレス神聖国にとってミルレスの次に象徴となる存在だ。そのためマリアが聖女だった場合、ミルレス神聖国に引き渡さなければならない。
ただ渡したら最後、歴史書に書いてあるとおりなら再びマリアは教会の中で長い時を過ごすことになる。
ロインは優しいからそれを許せないのだろう。
「一体、誰に似たのかしらね」
呟きながらもう今はいないリーリャの顔を元エンデルス魔法士団団長、ミレーネ・ファルスは思い浮かべた。
―きつく言いすぎたかもしれない。
ミレーネの店を出た後、11月の冷たい風に吹かれながらロインはそう思った。
今更自分の主張を曲げるつもりはないのだが店に出る間際に言った言葉はひどすぎたかもしれない。
そんなロインの思考に終止符を打つように商業都市リールの大時計が鳴った。
12時を報せる鐘の音があたりに響き渡る。
都市の中央から発せられる音にマリアが反応する。
「すごい大きな音ですね!私のお家の教会と違ってゴーン、ゴーンではないんですね」
何気ない調子で言ったマリアの言葉にロインは凍り付く。
「マリア」
「はい?」
「お家が教会ってどういうこ―
突然、耳をつんざく悲鳴がロインの言葉を遮った。
「なんだ!?」
声はそう遠くない都市の中央からだ。
そこに駆け付けようとして―マリアが視界に映った。
―マリアを危険にさらすわけにはいかない。
その心を読んだのかマリアは微笑んで、
「私はここで待ってます」
ロインは駆け出した。
===============
一人取り残された少女はロインの姿が見えなくなるとロインの向かった方向へと歩き始める。
ロインの向かった場所へは騒ぎの中心へ行けばいいのでロインの後ろ姿を追いかける必要も無い。
少女はロインを一人で行かせるつもりなど毛頭なかった。だが、少女が着いていくと言えばロインは少女の身を案じて行くことが出来ないであろう。それは少女としても嫌だった。
ロインの立ち振る舞いかなり洗練されており、かなりの達人であることが伺いしれた。
そしてそのロインから発せられるオーラは普通のようでいてかなり異様なものである。隠しているつもりなのかは分からないが、その魂の内に少女ですら計り知れない膨大な魔力を秘めている。
そんな圧倒的強者であるロインを自分が引き留めてしまったら被害は拡がる一方であろう。
ではなぜ少女は圧倒的強者であるロインの後を追いかけるのか。
ロインと相対するであろう人物もまた圧倒的強者であるというのも理由の一つだが、それ以上にロインが心の内にひどく暗く重いものを抱えているからである。
それに気付いたのは会って間も無い時―ロインと目を合わせた瞬間であった。
その瞳は澄んでいるようでいて奥にどす黒く燃える炎を宿していた。
―あれは憎悪の炎だ。
その炎を眼に宿した者を少女は何人も見てきた。
あれだけの傷を負ってもなお自らの敵を討たんとする執念。それをロインも持っている。
復讐劇に手を貸すつもりは毛頭ないが、少女はロインを気に入っていた。ロインは少女を警戒しながらも言動の端々には優しさがあった。それが少女には心地よかった。
少女にとって理由はそれで十分だった。
少女は、聖女マリアは往く。
大衆のためでも、国のためでもなく一人の人間を助けるために。
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悲鳴の聞こえてきた場所から上がってきた煙。それを道標にロインは走っていた。
近づくにつれて肉が焼かれているような匂いが鼻腔をくすぐる。
その匂いは食欲をそそるどころかロインに強烈な不快感を覚えさせた。
―ここは武具区画のはずだ。肉が焼ける匂いがするはずがない。
不意に嫌な予感がロインの脳裏をよぎる。
そんなはずはないと否定しようとして―
ついにたどり着いた。たどり着いてしまった。
そこで見たのはあまりにも凄惨な光景であった。
周囲は熱気に包まれ、建物や地面が所々抉られて―否、溶けていた。
そしてかつては人であったであろう肉塊が煙を上げて至る所に転がっていた。
こみ上げてくる吐き気をこらえながらロインは目の前の―恐らく、この光景を作り出したであろう男を睨みつける。
蒼いローブに身を包んだ男はロインの気配を感じ取ったのか振り向いた。
途端、ロインの背筋に悪寒が走る。
こいつとは戦っては駄目だ。早く逃げろと本能が叫ぶ。
それに逆らい、ロインは一歩足を踏み出す。
男はそのロインの行動を見て、くつくつと嗤いだす。
「ふふ、はははは。まさか僕を見て逃げるどころか立ち向かうとはね。ありがとう。ちょうど飽きてきたところだったんだ。無抵抗の人間を殺すのは」
言いながら男は一歩ずつロインに詰め寄っていく。
「なんでこんなことをした」
声が震えそうになるのをなんとか抑えながら男に疑問をぶつける。
「なんでこんなこと...か。まあ、楽しいからかな。他にも理由はあるんだけど言ったら怒られるからなあ。そうだ、もし君が僕に勝ったら教えてやるさ」
そう言うと男は顔を盛大に歪め、両手を大仰に広げ名乗った。
「せっかくだ。僕の名前を教えてやろう。僕は操魔の剣、『煌炎』ライルだ」
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