閑話 ミラの授業その1
これはロインの13歳の誕生日の半年前のまだ肌寒い昼の出来事である。
「ふんふんふーん♪」
鼻歌を歌いながら明るい茶髪の少女、ミラは教材を持って教室へと向かっていた。
ミラはこの家の使用人であると同時にロインの家庭教師でもある。
教室の取っ手を掴み、
「ロイン!お勉強の時間だよ♪」
勢いよく開け放った。
その後キリッと真面目な顔になり、
「それでは授業を始めます」
普段のミラらしからぬ口調で赤髪の少年に言った。
「よろしくお願いします。ミラ先生」
「よろしい」
ロインはこれに何の疑問も抱いていない様子で返事をする。
というのもこの一連のやり取りはミラの「どうせ家庭教師をやるなら学校の授業みたいにやりたいです♪」という
ちなみに教室は空き部屋を改造したものである。
教室の構造は中央に木でできた椅子と机が一組ポツンとあり、その前に教壇のような大きな机、前方の壁には白い板が埋め込まれている。
なぜここまで作りこまれているのか、彼女のいままでの信用と使用人としての貢献度に他ならないだろう。
そしてこの『授業』はロインが10歳の時から始めている。(それまでは普通に家庭教師をやっていた。)
さて、話を戻そう。
今日は歴史、ミラの最も大好きな教科である。
「それでは、今回はいままで習った内容をざっくり復習していきましょう」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
今から約二百年前、神代末期である黎明暦235年にネルサス一世の下、アークトロス大陸の東側にあるミルーを王都にエンデルス王国が成立。
その同時期、慈愛神ミルレスを崇拝するミルレス教の教皇アウリがアークトロス大陸の東寄りにあるラステリリャを聖都にミルレス神聖国の建国を宣言。
その13年後、エンデルス王国は剣神の弟子である剣聖レオン率いるエンデルス騎士団、大魔法使いローズ率いるエンデルス魔法師団の圧倒的軍事力により神代中期からあった周辺諸国を侵略、広大な領土を獲得。
さらにエンデルス王国はミルレス神聖国をも侵略しようと戦争を始める『エンデルス戦争』。
ミルレス神聖国は最初苦戦を強いられるが、聖女マリアの登場によりミルレス神聖国側の戦死者が大幅に減少、戦いの長期化を危惧した両国は相互不可侵条約を締結、7年に及ぶ戦いはここに終結した。
ミラ:「だがしかぁーし!これで平和になったかと思ったら大間違いだぁー!ミルレス教は次第にエンデルス王国にも広まっていき、「あれ、国王よりミルレス様の方が偉くね?」と思い始める人々が急増!国王の権威は次第に落ちていった!そこでネルサス二世は考えた!「俺はミルレスの子孫ってことにすればいいんじゃ?」」
これにより国王の権威はいままで以上に高まり、しばらくの間、エンデルス王国とミルレス神聖国には平穏が訪れる。
一方、アークトロス大陸の東のアンブロ洋を挟んだ大陸、パレナ大陸の西端では黎明暦317年にローガン一世の下、エレストを帝都にローガン帝国が成立。
エンデルス王国とはまた違った魔法体系を取り入れたローガン帝国軍はわずか2年でパレナ大陸の西側の大半を侵略した。
ミラ:「パレナ大陸の情報を手に入れていたネルサス二世はローガン帝国が我が国にまで侵攻するのではないか、と危惧していた。そこでネルサス二世は自らローガン帝国に訪問し、エレストでローガン一世に直談判!「ぶっちゃけさあ、俺の国征服してもこっから離れすぎてて統治無理くね?俺別にあんたんとこ攻める気ないからさ、お互い仲良くやっていこうよ」「ふっ、それは私も思っていたことだ」キラーン。そうしてお互いに話し合い、相互不可侵条約の締結、及びエンデルス=ローガン協商同盟を結んだ!この話し合いをエレスト会談という!!」
その後、ミルレス神聖国は怪我人であるならば、たとえどのような者であろうとミルレス神の力によって治療する、と宣言。
これはミルレス神聖国がどの勢力にも属さない中立国であることを暗に示していた。
これにより今も続くエンデルス、ミルレス、ローガンの三大勢力が確立される。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ロインー!ミラお姉ちゃん!遊びに来たわよー!」
玄関の方からリアラの声が聞こえてきた。
時計の針は3時過ぎ位を差している。
授業が始まったのは1時半、すでに一時間以上経っていた。
どうやら授業に熱中しすぎて時間を忘れていたようだ。
「さて、今日の授業はここまでにして、遊ぼうか♪」
もうすでにいつものミラに戻っていたが、それはミラにとってはどうでもよかった。
「え、授業は?」
ロインは戸惑いの声を上げる。
「大丈夫、大丈夫♪ちょうどキリのいいところだったし、続きはまた明日やるから♪」
それに対してミラはあっけらかんとした様子で答えた。
ミラにとってロインとの授業は楽しいし、やりがいがあった。
だが、それ以上に
ロインにはもっと家族と、友達と一緒にいてもらいたいから―
それがどれほど大切なモノか、ミラは失ってはじめて気づいたから。
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