第17話(BOY side)
自分で言うのもナンだけど、ぼくは幼い頃から、よく言えばそつのない優等生、悪く言えば面白みのないジジむさい子、だったと思う。
決して生まれついての天才肌でも努力型の秀才でもないけど、親や教師といった周囲の大人が望むような勉強や運動、あるいは習い事の類いは、人並み程度に頑張れば、平均以上の結果を出すことができた。
普通にやれば中の上、ちょっと本気だせば上の下にも届く──そう聞けば、羨む人もいるだろうけど……。
でも逆に、“ジジむさい”ぼく自身には、その先──本当に「優秀」とか「一流」とか言われる領域には、並み大抵の努力では(少なくとも自分は)辿り着けないことが“見えて”しまっていた。
そして、その「人並み外れた努力」をやれるほどの根性・根気が自分にないことも。
そんなワケで、ぼくは小学校を卒業する頃には完全に、平々凡々たるモブライフ(某漫画キャラの言葉を借りれば、「植物のように平穏な生活」)を自分が送るだろうことを、諦念とともに受け入れていたと思う。
幸いと言ってよいのか、要領と人当たりはそれなりに良かったので、中学以降もクラスで浮くこともなく、「優等生だけど、
高校2年に進級した時は、クラスの友人のひとりに生徒会に勧誘されて、ちょっと驚いたけど、とりあえず“書記”や“会計”といった中枢メンバーじゃなく、10人ほどいる“庶務”(=雑務係)のひとりとして協力することになった。
(ま、「会長とか副会長の周囲をウロチョロしてるモブ」辺りが、ぼくには適役だろうしね)
アニメや映画のスタッフロールだと、キャストの最後の方で「生徒A」とか雑な役柄で表記されるレベル。名前も載らないエキストラよりはマシだけど、その他大勢として十把ひとからげにされる存在。
それが国枝逸樹という男の立ち位置なんだろう──特に反発心もなく、そう納得してたんだ。
そんな庶務の仕事のひとつに、「各部活の監査」というモノがある。
と言っても、言葉のイメージほど厳格な行為じゃなくて、月1回、予告なしにどこかの部活を密かに見学に行って、「風紀の乱れやイジメなどの不正がないか確認する」という程度。
不正を発見すること自体が目的じゃなくて、抜き打ち検査があると知ってたら、そういう好ましくない行為は控えるだろう──という抑止効果を狙ったものだね。
その監査の仕事で応援部にも行ったことはあるんだけど、失礼ながら朝日奈恭子さんのことは、あまり印象に残っていないというのが正直な感想だ。
もっとも、その主な原因は、お騒がせ一年トリオの他のふたり──鶴橋晴海さんと長津田雪さんのキャラが濃過ぎるせいだろうから、「
だから、そんな後輩と、地元を離れた田舎の猪狩沢で出会った(より正確には、迷子になって半ベソかいてるのを発見して保護した、だけど)時は、自分でもちょっと驚いた。
いや、日頃から優等生ムーブしてる身として、後輩が困っていて求められたら(自分の負担にならない範囲で)手を貸すこと自体は、やぶさかじゃないよ?
でも、こういう言い方はナンだけど、
(他の二人と違って、顔もあやふやだったはずなのに、なぜか「あ、あの子、朝日奈恭子さんだ」って一目で分かったんだもん)
以前の印象通り……というか、それ以上に友人ふたりからはぐれた朝日奈さんは幼く頼りない感じで、一応同じ高校の先輩として見過ごせなかったんだよね。
もっとも、対面して話してみると悪いコじゃない──どころか、とても好感が持てる女の子で、ちゃんとした“知り合い”になれたことはすごくラッキーだった。あの時、勇気出して声かけたぼく、グッジョブ!
その後も、なんやかんや縁があって、自分でもその縁を絶やさず繋ぐよう努力した結果、ぼくと恭子さんは、“友達以上恋人未満”なんて、まさにラブコメ漫画の
(だからって、いきなりコレ──「同室でふたりで宿泊」はないでしょう!?)
神様、コレは、「ヒロインの先輩で淡い恋心を抱いている相手」なんて、ラブコメ物の主人公みたいな美味しいポジションを、モブなぼくが満喫していたことへの、天罰ですか?
「じゃあ、あとは若いふたりにお任せして、あたしたちはこれで♪」なんてヌかして、鶴橋さんたちが出て行ったあと、部屋に残されたぼくと朝日奈さんは、顔を真っ赤にしてしばし見つめ合うことしかできなかったんだ。
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