第15話

 「それで、朝日奈さんとしては、さっきの映画はどうだった? 割と楽しんでもらえたように思うんだけど」


 時刻は13時を少し回ったあたり。映画館を出たあと、ランチも兼ねて喫茶店に入った国枝先輩とわたしは、注文した品が届くまでのあいだ、早速さきほど観た映画の感想について話し合いました。


 「はい、も~、スゴい、サイコーでした! 完全なハッピーエンドじゃないし、一部哀しい展開もあったんですけど……」

 「朝日奈さん、途中でちょっと泣いてたもんね」

 「え!? 先輩、見てたんですか? ウソ、恥ずかしい……」


 そう言えば、終盤でヒロインの子が主人公と涙のお別れするシーンで、ちょっともらい泣きしちゃってたんでした。

 やだ、メイク崩れてないでしょうか。


 「す、すみません、わたし、少し席外しますね」


 先輩にそう断ってから、喫茶店のお手洗いに向かいます。

 幸い先客はいなかったようで、すぐにドアを開けて洗面所を使うことはできました。


 鏡の中のわたしは、ほんの少しだけ目の周りのファンデが薄くはなっていましたが──うん、大丈夫、“パンダ”みたいに見苦しいまだらにはなってません。これなら、すぐに直せますね。

 ポーチから取り出したメイクツールで、ちょちょっと“修復”してから、わたしはお手洗いを出て、先輩のいる席に戻ります。


 「ごめんなさい、お見苦しいところを……」

 「うん? そんなことはないと思うよ。むしろ個人的には、素直で感受性が豊かな女の子って、可愛いらしくていいと思うな」

 「! も、もぅ、先輩ったら///」


 この人、他人ひとの美点を見て、すごく自然に口にして褒めてくれるんですよね。

 出会った時から、こんな風に照れて顔を赤くさせられたことが何回あったか、数えきれません。


 「わ、わたしの“推し”のシーンは、お察しの通りラスト直前のあの場面ですけど、先輩はどうですか?」

 「ぼくは──そうだなぁ。中盤のふたりが“家出”を決意するところ。

 わざとらしい……というか多分わざとなんだけど、あえて仰々しい言葉遣いで、ふたりが“誓い”を交わすシーンは、グッときたなぁ」


 わかります! 割といいトコの坊ちゃんらしいヤンチャな主人公が、スラム街の出身だけど、懸命に真っ直ぐに生きようと努力するヒロインに、「オレが騎士となってオマエを守る!」ってタンカきるシーン。


 「ちょ~エモいですよね、憧れるなぁ……って、すみません、語彙が貧弱で」

 「いやいや、変に使い慣れない言葉で飾るよりも、真っ直ぐに朝日奈さんの感情が伝わってきたよ──言葉だけじゃなく、表情でもね」


 ふわッ!? そ、それは確かに、無表情ポーカーフェイスとか苦手ですけど、そんなにあからさまに顔に出てました?


 「うん、まぁね。でも、ぼくは、朝日奈さんのそういうトコロが好きだから」

 「!」


 たぶん先輩の素直な評価なのかもしれませんが、面と向かってこんなこと言われると、さすがに恥ずかしいです。


 「──あっ!」


 黙り込んで顔を赤くしている(自分でも頬が熱くなってるのがわかります)わたしを見て、改めて先輩も自分の言葉の“破壊力”に気付いたのか、珍しく慌てています。


 「ち、違うんだ。別に他意はないというか──いや、決して、キミのことが好きじゃないというワケでもなくて……つまり」


 スーッと大きく深呼吸したかと思うと、先輩が何かを言おうとした瞬間。


 「──失礼します。ご注文のパスタとお飲み物をお持ちしました♪」


 真面目くさった顔つきの(でも口元がニヤケている)ウェイトレスのお姉さんが、わたしたちの注文をトレイに載せてすぐ近くに立っていました。


 「オーダーされたお品、テーブルに並べますね」

 「「あっ、はい」」


 意地悪(偏見)なお姉さんは、わたしたちの間に漂う「びみょおなふいんき」を気にすることなく、テキパキとお皿とカップを並べていきます。


 「──これは年上女の独り言アドバイスだけど、“少年”、あのままなし崩しに「その言葉」を口にするのは、あまりオススメできないわね。

 “お嬢さん”だって、どうせだったらもっと然るべき場所とタイミングで聞きたいでしょ?」


 でも、その合間に、こっそり小声でそんなことを呟いてくれたりします。


 そうですね、確かにこんなうっかり失言みたいな感じで「告白」を聞くのは、あとでなんかモヤッとしそうです。

 邪魔してくれてありがとう、親切なお姉さん(掌返し)!


 「せいぜい悩んで青春しなさいな、少年少女──ご注文の品は以上でしょうか?」

 「「あっ、はい」」


 口調を改め、一礼して去っていくウェイトレスさんを、呆気にとられた気分で見送りながら、なんとなく先輩と顔を見合わせると──自然とふたりとも笑顔になっていました。


 「ははっ、やっぱり、ぼくはまだまだ未熟だね──“続き”は別のところで必ず」

 「はい、期待してます♪」


 それからはふたりとも“そのこと”には触れずに、楽しくお食事と会話を続けました。


 喫茶店を出たあとは、ショッピングモールを並んで歩きながら、ウィンドーショッピング(いえ、2、3のお店には実際に入って買ったりもしたのですが)。

 物理的にも精神的にも距離が近いですし、気が付いたら手を握ったりもしていたので、傍から見たら、まさか「交際つきあってないし、告白もまだな、ただの先輩後輩」だとは思わないでしょうね。


 ゲームセンターでは、クレーンゲームとプリクラ、相性診断ゲームという、「デートのド定番3種」もこなし(ちなみに、先輩との相性は85、「ベストカップルまであと一歩」でした♪)ましたが、明日からバイトもあるので、名残り惜しいですが、そろそろ解散です。


 ですが──別れ際に先輩は、とんでもない“爆弾”を残して去って行きました。


 「そうそう、明日からの寅洲ヶ浜海水浴場でのアルバイト、朝日奈さんたち3人のほかに、ぼくも参加することになったから」


 …………え?

 き、聞いてないんですけど!?


 「うん、だから今言ったんだ。鶴橋さんは、ギリギリまで伏せて、現地で合流した時にサプライズで明かすつもりだったみたいだけど、さすがにソレはどうかと思うんで、ぼくからキミに伝えることは認めてもらったよ」


 は、晴海さぁ~ん!


 「それじゃあ、明日からもよろしくね、

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