第12話(“BOY”side)
「よっし、コレで……決まりだぁ!」
「あぁッ、ヤられたぁ~!!」
合宿所で同室になった谷川くんとのゲーム勝負で、今日もコテンパンにされちゃった。これで通算3勝12敗だけど、まぁ、今までゲームなんて
ちなみに遊んでいるのは、N天堂のスティッチ版「スマッシュファイターズ」。
いかにもゲームとか好きそうな谷川くんはまだしも、
もっとも、この夏期講習合宿自体、中1&中2が対象のせいか、あんまりピリピリした雰囲気じゃなかったり。
まず、朝の起床時間は6時半から7時。それより早く起きた場合も、部屋からは出ないように言われている。
朝食は、7時~8時のあいだに食堂に行って、ビュッフェで好きに食べる方式。
1時間の食休みを挟んで、日中は9時から17時まで授業スタイルの講習があるけど、12~13時に昼休みが入るし、17時から夕食開始の18時半までは自由時間だ。
夕食後の19時半~21時は「自習推奨時間」ってなってるものの、部屋で大人しくしてたら(参考書やノート広げてなくても)何も言われない。
ただ、消灯は23時厳守で、そこだけは各部屋に見回りの先生が来て割と守らせようとはしてるみたい。「育ち盛りなんだから睡眠時間はちゃんと取れ」ってことなのかなぁ。
「ふぅ、鶴橋もけっこうウマくなってきたから、ちょっとアツくなって汗かいちまったぜ。先にフロ、入らせてもらっていいか?」
「うん、どーぞー。ボクは、リフレッシュルームに行って、冷たいもの飲みながら30分ほど涼んでくるよ」
リフレッシュルームには、合宿参加者なら無料で飲める冷水と麦茶とアイスコーヒーのサーバーが置いてあるしね。
ちなみに、この合宿所に大浴場的なものはなくて、お風呂は各部屋備え付けのユニットバスを利用することになる。
(いくら周囲の認識が誤魔化されているからって、流石に男風呂に入るのは少々ハードルが高いから、幸いだったかも)
そんなコトを考えながら、リフレッシュルームに向かって歩いていると、ふと窓ガラスに映る自分の姿が目に入った。
男子中学生としては長くも短くもない、さっぱりしたショートヘア。
モスグリーン地に黒で英文が書かれた洗いざらしのTシャツと、くるぶし丈のベージュのカーゴパンツという格好で、ガニ股って訳じゃないけど、普通に「男の子らしい」大股かつ外股な歩き方をしてる。
実際、男風呂の件も、今となっては「多少抵抗感がある」程度で、絶対嫌とは思ってないくらいだ。
(あいかわらず
自分もそんな便利な“術”が使えたらいいのにとは思うけど、生憎と「鶴橋家の女性」のみが受け継ぐ秘伝らしいので、無いものねだりはしても仕方ない。
「おや、鶴橋くんかい?」
リフレッシュルームに入った途端、聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。
「あ、佐崎さんも、コッチで休憩?」
「うん。ルームメイトが、ちょっと、ね」
悪い子じゃあないんだけど、自分とはちょっと合わないんだ、と苦笑する佐崎さん。
以前聞いた感じだと、好きな漫画やアニメをやたらと勧めてくる娘、なんだっけ?
「ああ、それもいわゆるBL系とか、ソッチ方面が多くてね」
成程ねぇ。まぁ、男だって全員百合物が好きとは限らないし、それと同じで女子が全員BL好きって訳でもないか。
折角なので、アイスコーヒーを飲みつつ佐崎さんとしばらく雑談していると、不意に彼女が真面目な顔つきになって頭を下げた。
「自分がこういうコトを言うのもナンなのだけど、流太郎のコト、いろいろフォローしてくれてありがとう」
「うーん、それほどたいしたことはしてないと思うけど? 朝、遅刻しないよう起こすのと、消灯時間を守るよう説得したくらいかな。それ以外でよく一緒にいるのは、単に気が合ったからだし」
謙遜というワケじゃなく、本当にそれくらいしか心当たりはないしなぁ。
「そのふたつだけでも十分だよ。それに、流太郎の場合、気に食わない人間と同室になったら、下手したらこの合宿自体をボイコットしていた可能性もある」
あ~、ソレは確かに言えるかもしれない。
よく言えばロックで即断即決、悪く言うと短気で直情的なんだよね、彼。
「ま、まぁ、ボクの方も勉強以外の面では色々楽しくやらせてもらってるし」
「ホントに? 悪い事ばかりキミに教えてないといいんだけど」
うーん、これは世話焼きオカン……は言い過ぎにしても、「手のかかるヤンチャな弟に気を揉む姉」的視点だなぁ。
その後、部屋に戻ると、谷川くんがトランクス一丁の姿でベッドに寝転がり、ゲームをしてるトコロに出くわした。
“
──まぁ、佐崎さんに免じて、一応釘は刺しておこうかな。
「ふう……谷川くん、いくら友達だからって、もうちょっと気を使おうよ。親しき仲にも礼儀ありだと思うけど? 正直、パン1は見苦しい」
「オイオイ、鶴橋ぃ、みちるのヤツじゃあるまいし、かてぇこと言うなって」
その佐崎さんが心配してたんだよ。ボクとか周囲に迷惑かけてないか──って。
「にゃにぃ!? アイツめ、まーた、保護者気取りかよ!」
プリプリ怒りながらも、それでも親御さんに報告とかされたらマズいと思ったのか、起き上がってTシャツ着るあたり、律儀というか小心というか……。
ボクは苦笑しつつ、今度は自分がシャワーを浴びるべく、ユニットバスの方へ向かったのだった。
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