第3話 映し出された真実
「私は王太子妃なのよ! その私になんて事っ……口を慎みなさいっ!」
「どうやら脳みそまでも腐っているな。たかが一国の妃ごときが、お前こそ誰にものを言っている」
「何ですって!? あんたなんてただの白いケモノじゃないのっ! 汚らわしいったら――」
「――黙れリリアナッ! 聖獣様に何たる物言いをするのだ! 今すぐ謝れ!」
「……なっ、どうして私が謝らなければなりませんの!? 私は王太子妃ですのよ!? ケモノなんかに何故私が……!」
「リリアナッ! ……聖獣様っ、大変申し訳御座いません!」
人々は耳を疑った。聖獣が人間など到底及ばないほど格上の存在である事は誰もが知る所である。それなのに今のこの一連のやり取りは何なのか……、みんな妃の言動が理解出来ず思わず呆気に取られてしまう。そしてザカリーもここにきて頭の悪さが露呈したリリアナに内心頭を抱えてしまった。だが、まずは先程抱いた疑念に対してきちんと聞いておかねばならない。そう思ったザカリーはリリアナを見据えて問い質した。
「……答えろリリアナ。さっき、聖獣様が話された事は本当か? 四年前、私を救ったのはお前ではなかったのか?」
「それはっ……もちろん私に決まっているではありませんか! あなたを救ったのは私です! お姉様はみんなを見捨てて逃げたのですわ!」
あくまでそう主張するリリアナを白虎はギロリと睨みつけた。そしてそのままこう尋ねる。
「それはその聖痕に誓って言える事か?」
――聖痕。その言葉が出た途端、リリアナはパッと得意気な顔をした。なんとなくおかしな空気が漂っていたが、それを一掃するかのように自身の左手を掲げてみせる。
「当然よ! 私は貴重な聖痕持ちの聖者なの! 聖痕がある私の言う事が正しいの! この聖痕こそ私がザカリー様を救ったという確かな証拠だわ!」
そこにはあの日シャーロットが預けた証が確かにあった。改めて立場を立証してみせた事で人々からの不安はなくなり賛同する声が上がり始める。
「……そ、そうだ! リリアナ様は聖痕持ちだ!」
「聖痕こそが全てだ! 聖痕こそ正しき者の――」
「――では、その聖痕に真偽を問うてみようではないか」
突如割って入った白虎の言葉に人々は「え?」と疑問符を浮かべた。真偽を問うとはどういう事か――、若干引き攣るリリアナを尻目に白虎はグッと眼力を強める。すると、すぐにここで変化が起こった。白虎の両目が光ったと同時に、リリアナの左の手の甲もそれに反応を示したのだ。輝きが輪郭を縁取ったかと思えば、聖痕からオーブのような光の球体が浮かび上がり、それが空中で大きく膨れ上がった。何だ何だと皆が釘付けになって見つめる中、そこに何かが映し出される……。
「――――えっ!?」
「……これはっ……!」
それは生々しいリアルな記録映像だった。四年前のあの出来事の詳細がそこに映し出されている。大怪我を負ったザカリーをシャーロットが治療する場面、呪いを解く為に黄泉の国へ行く宵契約を交わしその命を救った場面、そして黄泉の国へ行く直前、この国と人々を守って欲しいとリリアナに聖痕を預けた場面も、その時の会話と共に鮮明に記録されていた。人々は冷ややかな視線をリリアナに向ける。
「聖痕にはそれを有する者の行いが正しく記録されるのだ。これを見てもお前らはさっきと同じ事が言えるのか?」
「……そ、んな……」
ザカリーはガクリと地面に膝をついた。その顔は青ざめ茫然自失となっている。しかも映像は途切れる事なく流れ続けるので、その後のシャーロットに対する侮辱や冷遇する場面が人の数だけ映し出され、誰もが居た堪れない気持ちになるのだった。そんな中、リリアナだけは悔しそうにシャーロットを睨みつけている。
「……残念だわ……」
それまで沈黙していたシャーロットが重々しく言葉を紡ぎ始めた。
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