第9話 モダン焼きを初めて知った日

あれは、1980年の春だったか、夏だったか。

冬は正月の年末年始で可能性が低い。多分違う。

しかし遅くとも、1981年の春までの話だ。

秋は、その家に行っていないから、秋は絶対にない。

いずれにせよ、あの養護施設が移転する前だったはずよ。

ではさて、そのうちのいつだったか。

季節がこれほどにも問題を解くカギにならないのも不思議だ。


だけど、場所だけははっきりと覚えています。

あの家です。間違いない。

それを買ってきてくれた人も、間違いない。

あの家の、おねえさんだ。


あの日は確か、夕方だった。

お好み焼きを買ってきてくださったのよ。

もっとも、お好み焼きにしてはなんかちょっと違う。

焼きそばが入っているわけよ。

そういうのを、このあたりではモダン焼きというそうな。


とにもかくにも、いささか不思議な響きのある言葉とともに、

そのお好み焼きをいただきました。


・・・・・・・ ・・・・・ ・


 先日、ついに短期里親でお世話になっていた方々のことを回想した小説を完成させることができました。

 そんなこともあって、ホッとしたが最後、どどっと疲れが押し寄せてきました。


 ふと思って、お好み焼きを食べようと思い立ち、いつも素通りしている店に行ってみました。その日だけとはいえ、客層を見ていると、あるいは店主の話す内容を聞いているほどに、どうやらかなり国際色の高いお店のようです。

 そんな店の一番奥のテーブルの片隅で、ビールを飲みつつ、モダン焼きのそば2玉をしっかりといただきました。


 そして、かれこれ用事が済んで自宅に戻って休んでいて、ふと、思い出したのが今述べた光景ですねん。

 小学生の時、初めてモダン焼きという言葉を知った瞬間。

 何だか、不思議な心地がしたのを覚えています。

 その時の季節もなにも、忘れているのにね。

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