第6話 爪、斬りました。もとい、切りました。

 今朝の6時半。爪を切りました。手の指10本。

 キーボードをたたく音がいささか大きくなってきたなと思いましてね、そろそろ切り時かなと思っていた矢先です。

 暗いうちに爪を切るなという迷信もあるみたいですが、まあ、今時照明も明るいですから、問題なしということで。

 しっかりと、御安全に、爪を切ることができました。

 爪切りは言うまでもありません。グリーンベル社の「匠の技」です。

 この爪切りが来て以来、他の爪切りで爪を切ったことはありません。


 さて、爪を切ったあかつきには、いや正にあかつきのときなのですけど、気持ちいいものです。

 ただそれだけではありません。

 キーボードをたたく音、間違いなく、爪を切る前より小さくなっています。

 快適に、しかも、スピードも速くなっております。

 大体、切った爪の重さなんて、何グラムもないはずだけどね。

 指10本分まとめてみたところで、そんなにあるとも思えない。その御指摘は確かに正しすぎるほど正しい。

 だけど、キーボードに直接触れる指の負荷ということを考えてみたら、その1ミリかそこらの爪の長さ分の重さが大きく作用しているように思えてならんのです。

 それはひょっと、私の気のせいであるだけかもしれない。

 だが、私自身がそう感じたなら、それは真実ということです。

 大体、執筆は人に代わってやってもらえるものではありませんからね。口述筆記とかいう大層なことができる人もおられるのでしょうが、私は残念ながらそんな大層な御身分の御方ではありません。誰かに口述筆記させて、名付けて「我が闘争」なんて題で本を出そうなんて、さすがに思っていないからね。もしそんな題で本を出したあかつきには、間違いなく朝だろうが昼だろうが夜だろうが、全世界からにらまれるのを通り越して、中身読まれてアホかいなとなるのがオチってところでしょう。

 ちなみにヒトラー氏は、獄中でその名前の本を書いておられるが、確かあれは後の副総統のルドルフ・ヘス氏が口述筆記を手伝っているはずです。

 で、私は、ヒトラーさん程のお偉い方でもないからね(ここポイント)。


 それにしても、ただ爪を切るだけの話でも、その気になればエッセイにもなって本も出せるし、さらには短歌も詠めるってのは、すごいことですよ。

 最近テレビ東京系でやっている「孤独のグルメ」なる番組がありますが、これだってよくよく考えてみれば、いい年のおじさん(人のことは言えないか~苦笑)が、仕事の合間にどこかで飯を食うだけの話。だけどそれが漫画になり、テレビ番組としてシリーズ化さえされているってわけだからね。

 爪を切るだけでは、さすがにそこまでという気もしなくはないけど、それでもエッセイや短歌の題材にはなるってものです。

 もっとすごい例えもあるね。それこそセックス、性交渉なんて、単に男女が絡んで動向だけの話なのに、ああもあれだけ、巨大な産業になっているわけよ。インターネット状の動画の数、見てみ、なんていうまでもないわ。リアルでもそういうサービスを提供する「業者」はたくさんあるし、ねぇ。


 とまあ、最後の例えはいささかならずちょっと品がという話ではあるが、実際問題考えてみれば、もとはと言えば人間の行う単調でいつもの行為が、案外、大きな物語の元となっていくという点において共通点があるわけね。

 もっと言えば、普遍的な要素と言おうか。大袈裟な気もするけど、まさにそう。


 ただ爪切りを買ってきて爪を切っていくだけでも、物語の一つや二つになるってことね。まあもっとも、私の駄文なんて呼んでくれる人が少ないのはしゃあないけど、それはまた別の話ということで。

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