第88話 VSデッドアドベンチャラー 2

「紗雪ちゃん、今日作ってたポーションってもうできてる?」

 私はデッドアドベンチャラーを警戒しつつサッと画面を見て確認した。

「あと3分で完成です」


「もうすぐだね。じゃあ、ちょっとやそっと怪我をしても大丈夫だね」

「ですね。できれば無傷で勝ちたいですけど」

「あはは……、それはちょっと難しそうかなぁ……」


 それほど手強い相手ってことだ。姫華さんのレベルよりも攻略推奨レベルが高い相手だもんね。


 私が戦ってみた感触としては攻略推奨レベル85よりももっと高いと思う。デッドアドベンチャラーのここまでの動きを見るに、立ち回りが普通のモンスターとはぜんぜん違うんだよね。戦い慣れてる感じがあるし、頭も使える。まるで本物の人間を相手にしているみたいな感じだ。


 だから攻略法を見つけるのは大変だと思う。

 姫華さんがブレザーを踏んでぐりぐりしている。たぶん火を消してるだけなんだろうけど、あの綺麗な足に踏まれたいって思う人がきっと世の中にたくさんいるんだろうな、なんて私は思ってしまった。だって絵になる感じだったし。


「よし、紗雪ちゃん。せーので行こうか」

「えっ、同時攻撃ってことですか?」


「うん。左右から同じタイミングで」

「分かりました。いつでもいいですよ」

「じゃあ、せーの!」


 私と姫華さんが同時に走り出した。

 デッドアドベンチャラーは剣をいったん構えたけど、何を思ったのか剣を地面に突き刺した。


「紗雪ちゃん、また魔法が来るかも!」

「分かってます。さっきと同じ魔法なら問題ないです。突っ込めばダメージはほとんどないのは分かってますから」


 デッドアドベンチャラーが間合いを測っている。できるだけ引きつけようとしているみたいだ。

 少し怖い。デッドアドベンチャラーの作戦にはまってしまいそうな感じがする。


 でも、攻撃をかけないと倒せない。デッドアドベンチャラーが武器を手にしていない今は攻撃の最大のチャンスだと思うから、足を止めるわけにはいかない。なんとか強引にでもハンマーをぶつけたいって思う。


 デッドアドベンチャラーがニヤッと笑んだように見えた。やっぱり私たちを引き付けていたんだ。でも、いったいどうやって反撃をするんだろうか。もう私と姫華さんは左右から挟み撃ちの形でデッドアドベンチャラーにかなり接近している。

 今から剣を取って構えても対応しきれないと思うんだけど――。


「ウヒヒッ」


 デッドアドベンチャラーが片膝を折ってしゃがんだ。そして両手からぞわぞわする力を発生させつつ、地面に手の平を当てる。


「姫華さん、さっきとは違う魔法みたいですっ!」

 でも、どんな魔法かは分からない。

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 デッドアドベンチャラーの魔法が発動した。

 地面に明らかに魔法がかかったって感覚があった。


 ただ、もうあと3歩も踏み込めばデッドアドベンチャラーに攻撃が当たる距離に入る。だからこのまま強引に行くしかない。

 でも、その判断は誤りだったんだってすぐに分かった。私は情けない感じの声をあげてしまった。


「うわ、うわわわわわわっ!」

「きゃっ。何よこれ。嘘でしょ! 超やばいんだけど!」


 私と姫華さんが同時に大きくバランスを崩してしまった。まともに立っていられない。だって、おかしいくらいに唐突に地面が大きく隆起したからだ。


 たぶん70センチくらいは隆起しただろうか。あまりにも想像外すぎることが起きてしまって頭の中が真っ白になってしまった。

 私は浮いた片足でとっさにもがくようにしてみた。けれど、どうしても前に進んでしまう勢いを止められなかった。走ってきた勢いが止まらない――。


 デッドアドベンチャラーが剣をつかみつつ、殺意まんまんな様子で私をギロリと睨んできた。骨の奥に赤く光る両目が笑っているように見える。勝利を確信している顔だった。


「あわわわっ、や、やばいっ。どうにもならないっ」


 このままバランスを崩して前に倒れるとデッドアドベンチャラーの二本の剣に串刺しにされると思う。きっと即死だ。

 じゃあ、攻撃をする? でも、崩れたバランスのまま攻撃をしてもたいした威力はでないと思う。

 私がとれそうな残りの手は……たぶんひとつだけだ。


「くっ――」


 私はハンマーを後ろ回りに動かした。そして、隆起した地面にどうにか引っかけて、なんとか走ってきた勢いを止めようとする。さらに片足で踏ん張って腹筋の力も使って後方に退避を試みた。


「シャハハハハハハハハハ!」


 しかし、その判断が正しかったのかどうかは分からない。

 デッドアドベンチャラーが笑いながら私に向かって突撃をかけてきた。もの凄いスピードだった。


 そして、容赦なく剣を斜めに振り下ろしてきた。

 剣の冷たい感触が私の肌を左肩から右の脇腹に向けてスーッと斜めに走っていくのを感じた。


 あ……。かなり深かった……。酷い攻撃をもらってしまった……。完全にしてやられてしまったよ……。



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