第87話 VSデッドアドベンチャラー

 デッドアドベンチャラーを観察する。骨の色は真っ黒だけど、どう見ても人間の男性の骨格って感じだ。背は180センチくらいかな。

 ちょっと背筋がぞくりとしてしまったよ。


 ただ、よく見たら牙があるし、肩や膝から尖ったツノみたいなのが生えてる。人間にそんなものはついてないし、あれは間違いなくモンスターだね。

 うわ……、デッドアドベンチャラーの攻撃意志を強く感じた。私よりも明らかに強い存在からのプレッシャーって感じだった。


「紗雪ちゃん、くるよ!」

「えっ。はい!」


 集中しないとね。ここは弱肉強食のダンジョンなんだ。油断したら死ぬかもしれない。ここは命のやりとりをする場なんだから。


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 泣いたような威嚇したような不思議な響きの声だった。まるで怨霊の声って感じだ。

 デッドアドベンチャラーが剣を二本構えて突進してくる。狙いは姫華さんみたいだ。


「紗雪ちゃん、気をつけてね。攻略サイトによるとデッドアドベンチャラーは冒険者の立ち回りを模倣するらしいから。普通のモンスターみたいに単純な動きはしないと思うよっ」


 えー、つまり私が模倣されてしまったら、デッドアドベンチャラーはハンマーを振り回すんだろうか。なんか恥ずかしいな……。

 姫華さんが剣を構えて待ち構えた。そこへデッドアドベンチャラーが走り込んで剣を振り下ろしてくる。


 姫華さんとデッドアドベンチャラーの剣がぶつかりあう。甲高い音が響き渡った。

 うわ、姫華さんが悲鳴をあげそうなほど真っ青になっている。


「うひゃ~、すっごく気持ち悪いっ」


 本当だ。黒い頭蓋骨が粘着質な感じににやけていた。姫華さんが言うように本当に気持ち悪い。

 姫華さんがひるんだ隙に、デッドアドベンチャラーがもう片方の剣を姫華さんに突き刺そうとしてきた。それを姫華さんはバックステップしながら回避した。


「紗雪ちゃん、後ろに回れる?」

「行けます!」


 私は花を潰しながらデッドアドベンチャラーの後ろに回り込んだ。背中側はガラ空きだ。これなら余裕で攻撃を当てられると思う。

 でも、そんなに甘くはなかった。

 私が攻撃をしかける前にデッドアドベンチャラーは警戒して距離を取ってしまった。


「さすがは攻略推奨レベル85ですね。そう簡単にはいかなそうです」


 ……ん? デッドアドベンチャラーが両方の剣を地面に突き刺したよ。そして両手を私たちに向けてきた。

 身体がぞわぞわするような謎の力を感じたんだけど――。


「紗雪ちゃん、魔法が来るよっ」

「え、魔法? 私、初めて見ます」

「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!」


 叫ぶと同時に、デッドアドベンチャラーを中心に炎の壁が円系にぐるりとできあがった。高い高い炎の壁だ。このエリアの土の天井に届きそうな程だ。

 その炎の壁が猛烈な速度で広がっていって、私と姫華さんにどんどん迫ってくる。

 右はダメ、左もダメ、正面はもちろんダメ――。絶望しかないんだけど――。


「う、嘘でしょ。魔法を避ける場所がどこにも――」


 背中を向けて逃げだそうにも炎の壁が広がる速度が凄すぎて追いつかれると思う。

 なら、立ち向かうしかない。


「うわあああああああああっ!」


 私はハンマーで地面を思い切り叩きつけて土をすくいあげた。お花畑のお花ごと炎の壁に向かって飛んでいく。でも――。


 ダ、ダメだった。炎が消えない。しかも私が飛ばした花はしっかりと焼け焦げていた。これは覚悟を決めないとダメそうだ。

 姫華さんを見る。姫華さんも覚悟が決まっているようだ。


「つっこむよ、紗雪ちゃん」

「はい! 全速力でいきましょう!」


 私は片腕で顔を隠すようにして炎の壁に突っ込んだ。姫華さんも炎の壁に突っ込んだようだ。二人同時に炎の壁を通り抜けた。

 炎に当たったのは一瞬だったけど、しっかりと身体を焼かれてしまったよ。


 うわ、制服にたくさん穴が空いてる。黒タイツはもう見るも無惨な感じに布地がほぼないよ。一番まずいのはスカートで右の太ももが完全に露わになっていた。生脚にあんまり自信ないのになぁ。


 姫華さんを見てみるとブレザーに火がついちゃっていた。姫華さんは何も迷わずに地面にブレザーを捨てていた。


「ウヒョー」


 あー、このモンスターは絶対に女の子が大好きだ。そんな感じの表情で喜んでいる。そんな様子を見て、姫華さんがかなり怒っているみたいだ。


「変態。よくもやってくれたね! ブレザー代は高くつからね!」


 姫華さんが弓を構えて矢をつがえた。立て続けに矢を三本撃ち放つ。

 デッドアドベンチャラーが地面に突き刺していた剣を持ち上げて、矢を二本防いだ。でも、最後の1本は頭蓋骨にしっかりと突き刺さっていた。


「あ、やった! さすが姫華さん!」

 私は歓喜の声をあげたけど、姫華さんは追い込まれたみたいな表情になっていた。


「あちゃー……、これはしんどいな」

「矢はしっかり刺さってますけど」


 デッドアドベンチャラーが矢をつかんで引っこ抜いた。そして矢をポイッと捨てる。あまりたいしたダメージになっていないんだろうか。


「あいつ、毒無効みたいだよ」

「あ、そうか。〈ポイズンマスター〉ですね。効かなかったということは、武器で倒しきるしかないってことですね」

「うん。これは相当やっかいな相手だよ。覚悟を決めて戦わないと」


 姫華さんが改めて剣を構え直した。

 デッドアドベンチャラーは私たちから強敵だと認められて嬉しいのか、それとも自分が有利だと思って喜んでいるのか、亡霊モンスターらしく不気味な笑顔を見せていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る