第86話 二度目の4番通路のレッドゾーンへ
4番通路のレッドゾーンのすぐ手前までワープして来た。
私はここへ来るのは二度目だ。
奥に進んで行くと可愛いお花畑がお出迎えしてくれた。お花がいっぱいなのが4番通路のレッドゾーンの特色なんだよね。
ここはダンジョンって分かってるけど、綺麗な姫華さんと一緒だからかとても素敵な場所に思えてきたよ。
姫華さんが伸びをしている。制服を着ているとわりと着痩せ気味になる姫華さんだけど、伸びをするとやっぱり胸部が目立っていた。
姫華さんがすっきりとした顔で私を見てきた。
「いやー、なんだかテンションが上がっちゃうよねー。私、いつもよりも元気になっちゃってるかも」
「はい。お花畑、すっごく可愛いですよね」
「え? お花畑? いや、ホットドッグもフルーツジュースも美味しかったなーって思っただけなんだけど」
……。……。……嘘。は、外してしまった。まさかさっき食べたホットドッグとかの話をしていたとは。意外にも姫華さんは花よりも団子なタイプだったようだ。
「ご、ごめんね? 私、なんか雰囲気をブチ壊しにしちゃったよね」
「いえ、違うんです。私が空気を読むスキルが足りなかっただけで」
「そんなことないよ。空気を読めなかったのは私だよ」
「私です」
「私だよ」
むーっとほっぺに力を入れて、二人でちょっとだけ意地を張り合ってお互いを見る。それからくすっとして軽く笑った。
「フルーツジュース、美味しかったですよね」
「うん。東京に出店しても売れると思うよ」
「だと思います。……ただ、身体に甘い香りがついちゃいましたよね」
「あー、たしかにー。虫とかのモンスターに狙われやすくなっちゃったかもね。でも、どっちかと言えばホットドッグの香りの方が強くない? 肉食モンスターの方が近づいてきそうかも」
「肉食モンスターならまだいいんですけど」
「草食の方が怖いの?」
「草食というか……。甘い花の蜜が大好物なはずの……。ええと、つまり、蜂が怖いなって思ったんです。知りませんか、キラーホーネットって言うモンスターなんですけど」
「ああー、あいつ、素早いよねー」
「前にここに来たとき、大群に襲われたんです」
「え、それって死んじゃわない? キラーホーネットの大群に目をつけられたら最後、生存は困難ってよく言われてるよ。紗雪ちゃん、よく生き残れたね」
「根性で逃げ切りました……。10分以上も走り続けて疲れ果てましたけど」
「さすが。私の同学年の男子なんて逃げ遅れて死んじゃった人がいたらしいよ。ちょっと情けないよねー」
「え、お知り合いだったんですか?」
「知り合いっていうか、しつこくナンパしてくる人だったね。ボディタッチ多めな人だったし、視線がいっつもセクハラだったしだから、ぜんぜん悲しくはならなかったかなー」
死んだらもうダンジョンで冒険ができない……。凄く悲しいなって思った。胸が痛くなってしまったよ。
「私、心の中で手を合わせておきます。せめてこのダンジョンで安らかに眠ってくれますように」
「いいよいいよ、別にそんなの」
「でも、可哀想じゃないですか?」
「弱肉強食が当たり前のダンジョンじゃん。死んじゃったら死んだ人が悪い。ただそれだけのことだよ? 私たちだって死んだら自業自得って言われるからね?」
「でも、化けて出ないでしょうか」
「あははははっ。もしも化けて出てきたら私がボコボコにしてあげるよ。今まであの人のせいでどれだけストレスをため込んだか分からないし。それにね、あの人の被害者も多いよー、ダンジョンで服がはだけた女の子を勝手に撮影したりとか、傷つき倒れてる人に治療と称して触れてきたりとか――」
「うわ……。そんなに最低な人だったんですね」
やっぱりそういう人っているんだな……。私もダンジョンではじゅうぶん気をつけないとね。どこに危ない人が潜んでいるか分からないし。
「まあでもやっぱり、心の中で手だけは合わせておきます。安らかに成仏して欲しいですし」
「えー、本当にいいのになー。紗雪ちゃん優しすぎー」
なんて会話をしながら、私たちはレッドゾーンをどんどん進んで行った。
よく見ると花に紛れて薬草を見つけることがあった。しっかりと採取したよ。
あと、いつもとは違う色のスライムも何匹か出たよ。たぶん色によって特徴があるんだろうけど、確認するのもめんどくさいからプチッと踏んで倒してしまっている。特徴を見てあげられなくてごめんね。
ちなみにマナの輝石のドロップ率はやっぱり高いみたいで、それが私には凄く嬉しかった。
何回か小道に入って広いエリアに出る。それを繰り返した。
わっ、なんだか今までよりも抜群に綺麗なお花畑のエリアに出たよ。薔薇みたいな鮮やかな赤い花がいっぱいだ。ここは絵になるなあって思う。
「紗雪ちゃん、この場所って覚えてる?」
「はい? 何の記憶にもないですけど」
「えー、ちょっとショック」
姫華さんが胸に手を当ててしょんぼり顔になっている。本当に心からのショックを受けているように見える。
「何か特別な場所だったんですか?」
「うん。私、この場所で紗雪ちゃんに初めてを奪われたから」
ギョッとして姫華さんを見る。姫華さんはポッと恥ずかしそうにモジモジしてから乙女の表情になっていった。めちゃくちゃ可愛い。
「紗雪ちゃん、情熱的だったなー」
言われてみると、確かに姫華さんと出会った場所だったかもしれないなって思った。ああ、分かった。あっちの方にある木の幹の裏側に姫華さんが倒れていたんだった。
「思い出しました。姫華さん、あそこに倒れてましたね」
「嬉しい。ちゃんと覚えててくれてたんだね」
「初めて見たときは、あまりにも綺麗な人が倒れていて、私、凄くびっくりして――」
私は言葉を止めた。止めざるをえなかった。
姫華さんが倒れていた場所と私たちのいる場所のちょうど中間地点で、急に浮かび上がってくる存在がいたからだ。
なんだろうあれは。とても禍々しいプレッシャーを感じる。
「防具……? ですよね……?」
お花畑の中から浮かび上がってきたのは、冒険者が装備していそうな防具だった。金属製の胸当て、脛当て、それに手に装着するガントレット――。
姫華さんが私より先に警戒態勢に入ったのを感じた。
「ねえ、紗雪ちゃん。もしかしたらだけど、あれが今回の討伐対象じゃない?」
「かもしれませんね。防具の幽霊でしょうか」
「違うみたい。ほら、真っ黒い骨みたいなのが浮かび上がってきたし」
「ひいいいい、ダンジョンにホラー要素はいらないです」
「あ、紗雪ちゃん、怖いの苦手?」
「リアルだとご遠慮願いたいですよ」
幽霊みたいな見た目の私だけど、敵としてオバケみたいなのと戦うのはイヤだ。
あれ、真っ黒いけど人間に似たかたちの骨なんだよね。すべての骨が浮かび上がってきて、ちゃんと人型に整った。怖すぎるよ。
真っ黒い骨に防具が装着される。それから地面に落ちていた剣を二本拾い上げて構えた。
私たちの目の前にシステムメッセージが表示される。
『デッドアドベンチャラーが現れた』
「紗雪ちゃん、構えて! あれ、絶対にとんでもなく強いよ!」
姫華さんが剣を抜いて構えた。
私も闘争本能が湧き上がると同時にハンマーを構えていた。サメのリュックは邪魔にしかならないからアイテム空間にしまっておく。
デッドアドベンチャラーが私たちと間合いを測り始めた。
あれが攻略推奨レベル85のモンスターなんだ。一瞬の油断もできない強敵だなって直感した。
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