第85話 戦いの準備をしよう 2

「それじゃあ、リルリルさん。いってきますね」

「いってらっしゃーい。あ、念には念を入れて、ダンジョンフォーク料理を食べていくとより安心だと思いますー」


 なるほど。その手があったか。

 以前、攻略推奨レベル80のレイジングオークと戦ったときにも食べていたっけ。けっこうステータスが上がった記憶だし、強敵と戦うときには食べておくにこしたことはないかも。あと小腹が空いてる感じだし、ちょっとお腹に何か入れられたら嬉しいし。


「あのー、姫華さん、ということでダンジョンフォーク料理を食べてもいいですか?」

「うん。いいよー。でも、身体が重くならない?」

「そうかもしれませんけど、リターンの方が大きいですよ」


 姫華さんは食べたことがないらしい。歩きながら私はダンジョンフォーク料理のメリットを姫華さんに伝えた。

 メリットは美味しいこと、お腹を満たすのに良いこと、それからステータスが上がることだね。


 説明している間にダンジョンフォーク料理のお店が並ぶエリアに来たよ。

 露店っていうか屋台って感じかな。その他にもテーブルと椅子がたくさん並んでいるスペースがあって、そこは憩いの場みたいになっている。

 あれ、姫華さんがどこかを見ている……? 誰かお知り合いでもいたのだろうか。


「あ、生徒会だー」


 生徒会の人たちがいたんだ。姫華さんの視線を追ってみた。

 遠くの屋台のところに先輩がたくさん集まってるところがあった。きっとそこだと思う。


「紗雪ちゃん、あっちには近づかないどこうね」

「え、苦手なんですか?」

「うーん、そういうわけじゃないんだけど……。なんて言うか、すっごく真面目なんだよね。あの人たち」

「まあ生徒会ですし……」


 真面目じゃない生徒会ってなんかイヤだし……。


「なんかね、生徒がダンジョンに行くのを規制しようかとか見回りを始めようか、みたいな動きがあるらしいんだよねー。最低だと思わない?」

「野暮だなぁとは思いますね」


 ただ――。私は生徒会と呼ばれた人たちをもう一度だけ見た。距離があるから勘違いかもしれないけど……、なんだか強い人たちばっかりの気がする。けっこうダンジョンに通い慣れてる人たちじゃないかなって思った。

 特に一人……。


「明らかに別格な強さの人がいますね」

「髪の短い人でしょ? あの人は生徒会長だよ。たぶんうちの学校の最強じゃないかなぁ」

「生徒会長をやってるうえ、冒険者としても優秀なんですか?」

「普通そう思うよねぇ……。あの人っていつ冒険してるのか謎なんだよね」


 ……ん? 私の鼻がひくついたぞ? あ、ふわ~っと私たちのところにお肉を焼いた香りが漂ってきた。お腹にクリティカル攻撃って感じの美味しそうな香りだよ。


 いっきに食欲が湧いてきちゃった。お腹が鳴ってしまいそうだ。

 姫華さんが目を輝かせて屋台を見始めた。


「すっごく良い香りだねっ。こんなに美味しそうな香りをかいじゃったら食欲がそそられちゃうよ。紗雪ちゃん、おすすめとかある?」

「実は私もまだ一回しか来たことがなくて」


「じゃあ、あそこ。あそこにしよう。女の子のお客さんが多いし、屋台は可愛いし」

 いいですねー、と了承した。

「いらっしゃいませー」


 可愛らしいダンジョンフォーク女子が焼きそばみたいなのを料理していた。たぶんけっこう若いと思う。


 このお店は甘い物とか軽食とかを扱っているようだ。飲み物もあるんだね。

 でも何を頼めばどういう効果があるかとかはよく分からなかった。だからお店の人に聞いてみようと思う。


「あのー、私たち、これから格上のモンスターと戦うんですけど、何かおすすめのお料理ってありますかー?」

「格上ですかー。今日お作りできるメニューですと、鳥の串焼きが攻撃15%アップですねー」


 姫華さんがすぐに反応した。


「わーお、よさげじゃない? どう、紗雪ちゃん」

「耐久面とか敏捷とかは上がらないでしょうか?」

「その場合ですとー、ピリ辛のホットドッグにフルーツジュースをお付け頂くことで、なんと体力、攻撃、防御、敏捷の値がそれぞれ10%アップになりますねー」


 ぐーっと私のお腹がけっこう大きく鳴った。

 姫華さんとお店の人に聞かれてしまって、二人にニコニコされてしまった。


「紗雪ちゃんが食べたそうだし、それで決まりだねっ」

「ううう……、空気を読みすぎてるこのお腹が恥ずかしいです……」

「成長期なんだからしょうがないよー。ということでお姉さんー、ホットドッグとフルーツジュース二人前でー。お会計は私がしますー」


「あ、姫華さん、私、払いますよ」

「いいよいいよ。今日遅れちゃったお詫びのひとつってことで」


 姫華さんは気前よくおごってくれた。

 ホットドッグとフルーツジュースを受け取って、私たちは近くのテーブルで一緒に食べた。


「「めちゃうまー!」」


 かなり感動した。身体の奥底に活力がどんどんみなぎっていく感じ。この太いソーセージのホットドッグ、私は好きになれそうだった。

 凄く良い香りがするし、食べると肉汁が口の中に広がっていくのがたまらく美味しいんだよね。


 それに食感だって最高すぎるよ。プリップリのソーセージを口の中に含んでみて、ちょっと歯を立ててみる。それから少し力を加えてあげるとポクッと小気味の良い音が鳴るんだよね。その音が美味しさをぎゅーんと倍増させてくれる。

 

 ああ~、口の中で噛むたびに幸せな味が押し寄せてくる~。ケチャップの甘さとマスタードのピリッとした刺激がタッグを組んで私の舌を楽しませてくるよ。新鮮な野菜とパンだって単品でもじゅうぶんいけそうな味だった。


「ああ……美味しいな……」


 うっとりしたように言ってしまう。ああ、幸せだ。

 姫華さんも美味しそうにホットドッグにかぶりついている。姫華さんの口の中でポクッと良い音が鳴っていた。


「ひゃー! 本当においちー!」


 満足している姫華さんを見ていると、このお店を選んで良かったなって思うよ。

 幸せそうな姫華さんを見ながら、私はフルーツジュースを飲んでみた。


 うっわあー、これ、凄く好みの味で美味しい。フルーツの優しい甘味と爽やかな酸味が絶妙なバランスだよ。飲むのが楽しすぎて気分がアゲアゲになっていくよ。なんだか身体がふわふわで軽くなった感じがする。


 なんとなくステータスを見てみると、しっかりと数値がアップしていた。これなら私も攻略推奨レベル85のモンスターと渡り合えると思う。

 ホットドッグをポクッと言わせながら食べる。なんだか食べ終わるのがもったいないなって思ってしまった。



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