第84話 戦いの準備をしよう 1

 姫華さんと合流できたし、報告のために私たちはリルリルさんのところへとやって来た。

 リルリルさんは私たちを見るなり凄く嬉しそうにしてくれた。


「わあ、紗雪さん、先輩さんと会えたんですねーっ。良かったです。安心しましたよ」


 まるで自分のことみたいに喜んでくれたよ。


「はい、姫華さんが来てくれて本当に良かったです。イベントクエストも受注できましたよ」

「先輩さんがいらっしゃるなら安心ですね。気になる攻略推奨レベルはどのくらいでした?」


「85でした。けっこう高いんですよね」

「95じゃなくて良かったです。100前後から世界が変わるような強さになりますから」

「世界が変わる……ですか?」


「そのあたりのレベルになりますと、ダンジョン初心者は卒業という扱いになりますからね。より入念な事前準備をしてしっかりと対策を練っておかないと、気がついたときには骨になってしまって倒れている。なんてことがざらにある世界になるんですよ」


「こ、怖すぎですね……」

「というか私たちってまだ初心者だったんだ」


 確かに。私はともかく姫華さんはぜんぜん初心者って感じには思えない。


「まだまだダンジョンの先は長いですよー。レベル四桁になる人もいますし、一ヶ月も泊まり込んでクエストを攻略することもありますし」


 四桁……。一ヶ月泊まりこみ……。うわあー、うわあー、ぞくぞくするなー。


「それってけっこう良いかも……」

 私の素直な感想だ。姫華さんが嬉しそうな反応を見せてくれた。


「だよねー。私も良いなって思っちゃったよ。紗雪ちゃんとは本当に感性が合う感じがして嬉しいなー。一ヶ月ずっとここで暮らすとかやってみたいよね」

「はい。やってみたいです。もう日本社会には戻れなくなってしまいそうですけどね」


「実際、ダンジョンのプロってそういう感じって聞くよ。ダンジョン攻略のプロは世界中にいるけどさ、みんな口を揃えてこう言うんだよ。私の生まれ育った社会がどれほど窮屈で退屈でつまらないものだったか、そのことをダンジョンに暮らしてみることで身に染みてよく分かったって」

「確かに聞いたことありますね。そんな感想を持っちゃったらもう社会には戻れそうにないですねー」


 私はその境地に達することはあるんだろうか。まだまだプロなんてほど遠いド初心者の私だけど、ダンジョンを中心に生活を送るのはちょっと憧れるよ。

 リルリルさんがニコニコしながら私たちの話を聞いてるね。


「紗雪さんと先輩さんは、そのうちダンジョンに暮らす日が来そうですねー。なんとなくですけど、心がダンジョンに引かれてる感じがしますから」


 それは間違いなくそうだね。毎日毎日、ここに来るのが楽しみでしょうがないし。だからニコニコしながらリルリルさんに返事をした。


「はい。私はダンジョンが大好きですっ」

「紗雪さんらしいです」

「えへへ」


 リルリルさんにはもう、私がダンジョン大好き人間って認識になってるんだね。


「では、そんなダンジョン大好きな紗雪さんに、私からちょっとしたプレゼントをさせてください」

「え、なんでしょうか」


 リルリルさんが後ろの荷物をごそごそして何かを取り出した。


「今回のイベントクエストではだいぶ格上との戦闘があるうえ、紗雪さんは先輩さんとの間にレベル差がありますから、少々心配だなと思いまして。ということで、ぜひ、これを受け取ってください」


 リルリルさんが黒くて丸い三つのボールみたいなのを取り出した。そのボールには白い頭蓋骨のマークが描かれている。

 なんとなく直感した。


「ば、爆弾……?」

「はい、そうです。よく分かりましたね」

「直感で察しました。これ、危なくないんですか?」

「いえ、危ないですよ。ですので普段はアイテム空間に入れておいて、必要なときに取り出して使ってくださいね」


「火とか使うんですか?」

「不要です。思い切り投げつけてください。どこかに当たると爆発しますので。ただ、一番簡易的なものですので相手のHPを30くらいしか削れません。そこだけはご注意を」


「じゅうぶんな威力だと思います。リルリルさん、ありがとうございます!」

「いえいえ、イベントクエストをめいっぱい楽しんできてくださいねっ!」


 私はリルリルさんから爆弾を3個も受け取った。

 普通にこの爆弾を買おうと思ったら1個3000ポンらしい。お金持ちの冒険者はたくさん買い込んでから強いモンスターと戦うんだって。


 爆発物をたくさん使って戦うなんて、なんだか良いストレス発散になりそうだなって思った。きっとストレスのたまってる社会人冒険者に人気の商品じゃないかな。モンスターを大嫌いな上司とかに見立てて爆弾を投げつけてそうだ。

 私は爆弾をアイテム空間に入れた。よし、これで準備は万端かな。



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