第83話 攻略推奨レベルは?
「姫華さん、どうしてここに?」
姫華さんが心から申し訳なさそうにした。
「いやー、本当にごめんねー。いろいろとあって担任の先生が激おこ大爆発な感じでキレちゃってさー」
「え、担任の先生を怒らせてしまったんですか? いったいどうして……」
姫華さんがちょっとバツが悪そうにした。
「実は……。私ね、お昼休みにちょーっと学校を抜け出してダンジョンに行ってきたんだよね。どうしてもダンジョンの空気を感じたくて授業中うずうずしちゃってたまらなくてさー」
「分かります。その気持ち」
姫華さんが、我、仲間を得たりって感じで嬉しそうに「だよねー」と言いながら私の両肩に手を置いた。目はキラッキラに輝いていた。
「紗雪ちゃんはやっぱり分かってる人だ。好きだよ。愛してるよ」
告白されちゃった。私は恥ずかしくなって耳まで赤くしちゃったと思う。
「で、でもダンジョンに行っただけで怒られちゃったんですか? お昼休みに学校を抜け出す人はわりといますよね。コンビニに行ったりとかで……」
「うん。そうなんだけどね。私、今日はダンジョンから教室に帰ってくるのが遅れちゃったんだよね。もう1匹モンスターを毒状態にしたい。あともう1匹、あともう1匹だけって感じで粘っちゃってさー」
「あー……」
ていうか、レベル上げをしてたんだね。
姫華さんは矢を放ってモンスターを毒状態にしておくだけで経験値が勝手に入ってくるからね。そのやり方は賢いかもって思った。
「姫華さん、ダンジョンから帰るのが遅れたってどれくらいだったんですか? 3分くらいですか?」
「いやー、それがねー。20分も遅刻しちゃったんだよねー」
「え、20分! それは遅刻しすぎですよ。絶対に怒られるに決まってるじゃないですか」
「んー。でもね、そのときはまだ先生は我慢してくれてたんだよ」
意外に優しい先生だったんだろうか。
「でもそのあとにねー、教科書に隠しながらスマホで友達とやりとりをしてたんだよね。それがバレちゃったら、ついに先生が爆発しちゃって……」
「それはそうですよ。いくらなんでも授業に遅刻したうえにスマホで遊んでたら、世界一温厚な先生だって怒っちゃいますよ」
「えー。でもスマホを没収されたんだよ。いくらなんでもひどくない?」
「没収はちょっとひどいかもですけど……」
「でしょー。というわけで本当にごめんね、紗雪ちゃん。私、スマホがなくて何も連絡ができなかったんだ。きっと私のことを探しちゃったよね。でも私のクラスを教えてなかったし、上級生の教室は来づらかったと思うし、悪いことしちゃったなーって思って……。本当にごめんね」
「えっ……」
別に探したりはしてなかった……。どうせ姫華さんは私に飽きちゃったんだとか思って勝手に卑屈になってたし……。逆に申し訳ない気持ちになってしまった。
「私、スマホを返してもらいにすぐに職員室に行かないといけなくて……。それで、紗雪ちゃんのことを後回しにしちゃってたんだ」
「仕方のないことだと思います……。大事なスマホが没収されちゃったんですから……」
そ、そういうことだったんだ。それで姫華さんから何も連絡がなかったし、教室の前とか下駄箱で待っててくれたりとかもなかったんだね。
私、凄くホッとしたよ。よかったー。別に姫華さんは私に飽きたりとかじゃなかったんだね。
姫華さんは今日も私と一緒にダンジョンに来てくれるつもりでいたんだ。それなのに私は、勝手にマイナス思考に陥ってしまってしょんぼりしながら一人でダンジョンに来てしまって――。
なんだか凄く恥ずかしくなってしまった。それに姫華さんに申し訳ないことをしてしまったって思い始めた。姫華さんが会いに来られないのなら、私の方から会いに行くべきだったんだよ。今日はダンジョンどうします? って聞けばいいだけだったんだから。
私はずっとぼっちだったから、人との当たり前のコミュニケーションがぜんぜん取れてなかったよ。これはすっごくすっごく反省しようって思った。
「姫華さん、私の方こそごめんなさい」
「え? 紗雪ちゃんは何も悪くないよー?」
「いえ、私がもっとちゃんと姫華さんを探してたらよかったんです」
「んーん、違う違う。私が悪いんだよ。何度も言うけど、本当にごめんね。心配かけちゃったよね」
「私は大丈夫です。こうして姫華さんとちゃんと会えて、いま凄く嬉しいですから」
姫華さんは安心したようだ。肩の力が抜けたような感じに見えた。
「紗雪ちゃん、迷惑をかけたお詫びに超頑張るからね。さっそくだけど、今日受けるのはそのクエストでいいんだよね。私、まだぜんぜん読んでないんだけど」
「はい。できれば。一人ではとても攻略できそうになくて――」
「それでも受けたかったくらいに報酬がいい感じ?」
「凄いですよ。でもその分、攻略推奨レベルが高く設定されてる感じで……」
ふむふむと言いながら姫華さんが前屈みになった。石版に書かれている内容を読むようだ。
うわあー、姫華さんって前屈みになっただけなのに凄い色香だなって思った。
垂れた髪を耳にかける動きもそうだし、短いスカートの中が後ろから見えてしまわないように手の甲でしっかり押さえてるのもそうだ。
私、はたして1年後に姫華さんみたいな色気が出ているだろうか。絶対に出てないと思うなぁ。
「ほほー、こういう感じかー。なるほどー。こういうタイプは初めてだ。どう見ても別格で魅力的なクエストだね。たった1体を討伐するだけなのに、もらえるポンが破格だし、レアな武器までもらえちゃうなんて」
「でも、攻略推奨レベルがやばくないですか?」
「そうだけど。二人でやるなら大丈夫じゃないかな」
「私、足手まといになりそうで」
「そんなことないよ。紗雪ちゃんってレベルは私よりも低いけど、実際の戦闘能力は凄く高いと思うよ。昨日、動きを見ててはっきり分かっちゃったよ。絶対に私の足手まといにはならないし、むしろ私が危ないときは頼りにしちゃうくらいだよ」
姫華さんに買いかぶってもらえてる気がする。嬉しいけど自分では実感がないなぁ。ダンジョンには戦うよりもポーションを作りに来てた日の方が多いようなのんびりした冒険をやってたし。
まあでも、うじうじしていても何も始まらないよね。私はこのクエストを姫華さんと一緒にぜひ受けたいって思うから――。
「私、姫華さんについていけるように精一杯に頑張ります」
「私も紗雪ちゃんの迷惑にならないように頑張るよ」
「それじゃあこのイベントクエストを」
「うん。私が受注しちゃうね。ほいっ、二人で挑戦っと――」
姫華さんがパパパッとクエストを受注してくれた。
私たちの目の前に『少々お待ちくださいって』システムメッセージが表示された。
「あれ、珍しいね。どのモンスターが私たちの攻略対象になるのかを選定してるのかな」
「かもですね。どの敵が当たるのかドキドキしますね」
「紗雪ちゃんは攻略推奨レベルがどれくらいのモンスターと戦いたい?」
「倒してみたいのは95レベルですけど」
「分かるー。どうせなら強いのと戦いたいよね!」
たまたま近くを通りがかった女子高生たちがギョッとしていた。なにあの人たちヤバくないーって視線がドスドス刺さってくる。
「で、でも、本当に戦うことになったら怖いので、できればあんまり強くないのだと嬉しいですね」
「と言いつつ、紗雪ちゃんは強いのと当たっても勇敢に立ち向かっていきそうだー」
あー……、どうだろう。相手の情報を何も知らないなら挑んでるかもしれないなー。以前、とんでもない格上だと知らずに無謀なモンスターと戦ってしまったことがあるし。
あ、結果が出たよ。
『4番通路のレッドゾーンにデッドアドベンチャラー(攻略推奨レベル:85)を発見しました。討伐をお願いします。※対象モンスターの変更はできません。本日中に攻略できなければクエストは自動でキャンセルとなります』
私と姫華さんは目と目を合わせた。そして苦笑いをする。
私のレベルは50。姫華さんは75だ。格上が当たってしまったね。私は心の奥底から早くも闘争本能が湧き上がってくるのを感じてしまった。
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