第80話 やっぱり私にはぼっちが似合ってる

 早弁で食べたチョココロネ、美味しかった。

 でもぜんぜん食べたりないから、早くお昼休みならないかなーって思いながら授業時間を過ごした。

 数十分が経過して――。さて、ようやくお昼休みになったよ。私は購買で買っておいたパンの封を開けた。


「お昼はカツサンドとクリーム増量中のクリームパンだ。とりあえずカツサンドから食べようーっと」

 るんるん気分でカツサンドにかぶりつく。


 くぅ~、噛むだけで力がみなぎってくるようなこのお肉の旨味よ。肉汁が口の中に広がって幸せなひとときを堪能させてくれるよ。そして甘辛いソースがお肉と絶妙なハーモニーを奏で始める。それがもう本当に最高。


 しかも……、しかもだよ。パンがふんわりもちもちで食感がいいんだけど決してそれだけじゃなくって、口の中に入ってくると香りがふわって優しく広がるんだ。それが肉の旨味の邪魔をしないんだよね。良い引き立て役になってくれて、本当にもう最高すぎるパンなんだよ。


「カツサンド、おいっしい~っ!」


 男の子みたいにガツガツかぶりついてしまう。

 両手でカツサンドを持って食べながら脚をパタパタ動かす。ああ~、ああ~、美味しいものを食べるって幸せだ。幸せ過ぎる~。


「なんだか私はお肉を食べるのが昔よりも好きになってきた気がするなー」


 ずっとダンジョン通いを続けているからだろうか。私、肉食派になってきているのかもしれないね。


「ややっ、千湯咲さんが美味しそうにカツサンドを食べてるぞ」

「あ、ほびはきはん」


 カツサンドをちょうど頬張ったところだったから変な発音になってしまった。話しかけてくれたのは同級生で眼鏡っこの鳶崎とびさきさんだ。

 鳶崎さんは私の前の空いている席に座った。


「ねね、昨日はどうだった?」

 ごっくんしてから会話をする。


「どうだったって言うと……?」

「白銀先輩のことだよ。一緒にダンジョンに行ったんでしょ? どういう感じだったのかなーって思って」


 鳶崎さんの眼鏡の奥の瞳がキラッキラに輝いている。ほらほらさあ早く面白いネタを提供しなさいな、って感じの瞳の輝き方だった。

 普段、私はほとんど同級生と会話をしないから、あんまりぐいぐい来られるとちょっと戸惑ってしまう。


「な、なんか凄かったよ。いろいろと……」

「そのいろいろを聞きたいんだよ。昨日は千湯咲さんが白銀先輩のボディーガードをしてたの?」


「いや、逆……」

「逆? うわー、そうなんだ! じゃあやっぱり、白銀先輩はダンジョンマニアって噂は本当だったんだね」

「マニア……なのかなぁ。ダンジョンを楽しんでいるのは間違いなかったけど」


 マニアとまで言われてしまうと、そうだよとは言えないよね。そもそもまだ一日しか一緒にいないから、それほど深く姫華さんのことを知ったわけじゃないし。今のところはダンジョンを楽しんでるタイプの綺麗な先輩って感じだ。


「へえ~、で、昨日はどれくらいのクエストをやったの? 攻略推奨レベル30くらいの採集系クエストとか?」

「違う違う。もっと難しいのをやったよ。イーヴァルウッドフォークっていうのを二人で討伐したんだ」


「え……、ぜんぜん知らないモンスターだぞ?」

「レッドゾーンのモンスターだからね」

「レッドゾーン……。雲の上の人たちって感じだ。白銀先輩も千湯咲さんもすっごく綺麗なのに強くて凄いなぁ」


「ははは……、白銀先輩は綺麗だけど私は別に綺麗じゃないよ」

「あら、謙遜しちゃって。奥ゆかしい」

「鳶崎さんの方が綺麗だし」


「うわ、褒めてもらえちゃった。ありがとう。でもでも、客観的に見て千湯咲さんの方が圧倒的に綺麗だよ。私の中ではクラスで一番の美少女だし」

「そんなの言われたの初めてだよ」


 鳶崎さんは良い人だなぁ。私なんかにお世辞を言ってくれちゃってさ。

 ……あれ、鳶崎さんがスッと椅子から立ち上がった。廊下に向かって手を振ってる。


「ごめん、友達が来ちゃったから。私、行くね」

「うん。またね」


「あ、白銀先輩とはまた一緒にダンジョンに行けそう?」

「行ってくれたら嬉しいけど」

「そっかー。私、応援してるからね。バイバーイ」


 手を可愛く振ってニコッとしてから、鳶崎さんは廊下で待っているお友達のところへと向かった。

 これから食堂だろうか。一緒に行く相手がいるってうらやましい限りだ。


 私はカツサンドの続きにかぶりついた。

 けっこう長いこと鳶崎さんと会話ができちゃったなー。私的にはけっこう良い日になったかも。


「鳶崎さん、良い人だな」

 

 できればお友達に……。いや、お友達は欲張り過ぎか。お友達になるって大変なことだし……。でもたまにでいいから、さっきみたいにちょいちょい会話をしてもらえたら嬉しいな。そうしたら――。


「私の女子高生ライフ、ちょっとは楽しくなっていくかもしれないな」


 なーんてね。楽しくなっていくわけはないよ。あんまり欲は出さないようにしないとね。だって小学校でも中学校でも、いっぱいいっぱいいろんな人たちに期待したけど、けっきょくお友達らしいお友達はできなかった私なんだから。

 窓の向こうに見えるダンジョンをなんとなく眺める。


「また白銀先輩とダンジョンに行きたいな」

 行けたら本当に嬉しいなって思った。


     △


 放課後になった。

 授業中、ずっとわくわくして放課後を待っていたけど――。


「やっぱりいない……か」

 昨日は廊下で待っていてくれた姫華さんだけど、今日はいなかった。

「スマホには何の連絡もなし……」


 下駄箱にも姫華さんはいない。5分くらい待ってみたけど会えなかった……。

 はあ……、がっかりだ。

 あんまり期待したらダメだよと自分に言い聞かせていたつもりだったんだけどな。でもやっぱりショックだった。それくらい姫華さんの存在は自分の中で大きくなっていたから。


「大丈夫。いつものことだから……」


 そう自分に言い聞かせるけど、心のダメージは凄く大きかった。肩を落としてとぼとぼとダンジョンに一人で行く。

 ダンジョンの入り口を見上げる。なんの変哲もない大きな洞窟の入り口って感じだ。


「昨日は姫華さんと一緒にダンジョンに入ったんだよね……」


 あれは奇跡みたいなものだった……。私ってやっぱり一人でダンジョンに来るのがお似合いなんだと思う。

 はあーあ、こんなに低いテンションでダンジョンに来たのは初めてだ。姫華さんと一緒に冒険をしたかったな。私、姫華さんのレベルに合わせた高難易度のクエストでも頑張ったんだけどな……。


「やっぱり私にはぼっちが似合ってるんだね……」

 トボトボ歩いてダンジョンに入って行く。そして賑やかな広場へと進んでいった。



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