第79話 これが私なりの女子高生ライフだね

 家に帰ってきた。今日はいつもよりも格別に良い気分で帰って来られたよ。

 それもこれも姫華さんが一緒にダンジョンに行ってくれたからだ。本当に素晴らしい体験だったよ。


「ちょっとお腹が空いちゃったな」


 なんかちょっとしたお菓子でもなかったっけ。チョコでもちょこっとあればいいんだけどな。たしかお昼頃に――。


「あ、そうだ。パン屋さんからラスクをもらったんだった」


 あれを食べようっと。甘くてカリッとして美味しいんだよね。

 自室に入ってうきうき気分でサメのリュックを開ける。そしてラスクの入った袋を取り出した。しかし――。


「ガガーン……。う、嘘……でしょ……」


 ショックなんてものじゃなかった。ラスクが見るも無惨にボロボロのコナゴナになっていたからだ。

 どうしてこんなことに……。いや、原因ははっきりと分かってる。


「おのれイーヴァルウッドフォークめー」


 地面とか木の幹に何度も叩きつけられたせいだよ。そのときにリュックの中に入れていたラスクがダメージを受けたんだね。


 そういえばリュックを背負いっぱなしだった。姫華さんみたいに荷物はアイテム空間に入れておいた方がよかったのかも。

 ちょっとイライラしながらラスクを口に放り込む。


「あ、でも、ちゃんと美味しい♪」


 味はちゃんとしていた。良かった良かった。

 私は部屋着に着替えてリビングに向かった。実家とはいえ一人暮らしだから、ちょっと寂しい感じのするリビングだ。


 お湯を沸かして紅茶を淹れる。そしてラスクを食べながらスマホを操作した。

 いつものようにダンジョンの攻略サイトを開く。


「とりあえずイーヴァルウッドフォークの攻略情報をチェックしようか」

 えーと、なになに……。攻略サイトによると……。


「イーヴァルウッドフォークは奇襲が得意な植物型モンスターだ。うっかり奇襲にはまってしまうと、たとえ攻略推奨レベルを上回っている冒険者だったとしても無抵抗で殺されてしまうから注意するべし」


 姫華さんも無抵抗でやられてたよね。ダメージはぜんぜんなかったみたいだけど、拘束されていた状態で地面に叩きつけられていたりしたら――。いくら姫華さんといえどそのうち死んでいたかもしれない。


「攻略のポイントは、たとえ奇襲にはまったとしても枝による拘束から抜け出す方法を持っておくこと。おすすめは片手で扱えるナイフだ。アイテム空間に入れておくといいぞ。あるいは炎や氷の魔法を習得しておくのもおすすめしておく。枝の力が弱まって拘束から抜け出しやすくなるからだ」


 なるほど……。私、ナイフは持ってないし魔法も習得してないや。

 魔法はちょっとハードルが高いけど、ナイフくらいはアイテム空間に入れておいてもいいのかも。その方が安心だよね。


「う~ん、よく考えてみたら、ハンマーひとつで戦うのって危ないのかも? 場合によってはハンマーが遠くに弾き飛ばされちゃったりとか、モンスターに奪われたりすることだって起こりうるよね。そういうときに予備の武器があればかなり安心かも」


 ちょっと本気で検討してみようかな。今度、リルリルさんに相談してみよう。

 え~と、他の情報は――。スマホをスクロールした。


「奇襲をしのぐことさえできれば、そこまで怖いモンスターじゃない。耐久力はあるが所詮はでかいだけの木だ。枝に拘束されないように気をつけて、あとは煮るなり焼くなり斬り刻むなり好きに攻撃するといい」


 まあたしかにそうかも。怖いのは枝だけだったよね。首に枝が巻き付いてきたりしたら怖かったけど、そういうこともなかったし。イーヴァルウッドフォークはそこまで恐ろしいモンスターじゃなかったかな。


「じゃあ次はアシッドスライムの攻略情報かな。……ふむふむ。アシッドスライムはスライムの上位種でとにかくエッチなやつだ。男女問わず、何がなんでも服を溶かしにかかってくるから要注意」


 うんうん、エッチだよね。姫華さんが大変なことになってたし。


「たまに大量発生して数百匹で襲ってくるから気をつけるべし。そのときは諦めて裸になろう。しかし、あえて言っておく。ダンジョン内なら裸で歩いても何も罰則はないから安心して欲しい。現実社会では決してできないレアな体験をいっそ楽しんでしまおうぜ。ちなみにこれは友人の話だが、なんとやつは全裸でレッドゾーンから広場まで戻ったことがある勇者だ。もちろん男女問わず通行人にはドン引きされていたが、当の本人はドン引きされた視線がたまらなく良かったと言っていたぞ」


 ……もしかしたら、アシッドスライムは文明人にとっては最強に恐ろしいモンスターなのかもね。大量発生には絶対に巻き込まれないように、じゅうぶんに注意しておかないと。私、花の女子高生だからすっぽんぽんで広場までは絶対に帰れないよ。

 ふう……、読み終わったらちょうどラスクを食べ終えてしまった。


「ちょっと食べたらお腹が空いてきちゃったな」


 晩ご飯の用意をしようっと。まあ晩ご飯って言っても休日に作っておいたバターチキンカレーとご飯を温めるだけだけどね。


「可愛い見た目のお料理を作って綺麗に盛り付けて、映える写真をとってSNSにアップしたりしたら花の女子高生っぽいんだけどなー」


 私は冷凍庫を開けた。温めるだけで美味しく食べれるんだから、そっちの方が楽でいいかな。


 私は時間や手間をお料理に使うくらいなら、ダンジョン攻略に使いたいなって思うタイプの女子高生だから。

 だから今晩も美味しくカレーを食べようと思う。これが私なりの女子高生ライフだね。



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