第78話 初の二人クエスト完了!
「……あれ? 今回は私の制服は無事なんだっけ」
そういえばイーヴァルウッドフォークを倒してから確認してなかった。
ブレザーを見たりスカートを見たりする。身体をひねってスカートの後ろ側を確認してみたり、ブレザーを一度脱いで背中側を見てみたりした。
「今回は大丈夫そうかな」
もちろんところどころ汚れてはいるけれどね。切れたりとか破れたりとかはなさそうだった。黒タイツすら破れてなかったよ。
「珍しい。強敵と戦ったのにお着替えをしなくてもいいなんて」
なんか物足りない……。パーッと脱いですっきりした気持ちになりたかったかも。
まあでも姫華さんの前だし今日は我慢するしかないか。
とりあえず服を修繕するための出費が今回は必要ないんだし、それは凄く嬉しいよ。良かった良かった。
じゃあ、ポーションを飲もうかな。アイテム空間を開こう……としたけど、レベルアップを告げるメッセージが出ていることに気がついた。
「あ、レベルアップしてる」
わくわくしながらいろいろとチェックするけど――。
「スキルポイントが微妙に少なかった……。〈ポーションクリエイト〉のスキルレベルアップまであと1足りてないよ……。がっかり……」
「あはは、よくあるよくある」
「ですね……。はあ……」
スキルレベルがもう一つ上がれば、きっとポーションを一度に作れる個数が増えると思うんだけどな。
「紗雪ちゃん、また次がんばろうよ。クエストでもなんでも付き合うよー」
「それは嬉しいですけど……。あの、姫華さん、なんで服を着ないんですか?」
アシッドスライムにボロボロにされたままでいるんだよね……。目のやり場に少し困ってしまう。
「ん~、なんか私ね~、ダンジョンにいると野生的になるというか本能で生きたくなるというかー……。つまりね、できれば服を着ないでいたいんだよねー」
うわあ、同志を見つけてしまった。
「それ、すっごく共感できます!」
私もモンスターに服を破かれると、ずっとそのままの格好でいたいって思うし。
私の共感が嬉しかったのか、姫華さんが幸せそうに表情を輝かせた。
「わ~、超嬉しいんだけど。私、この気持ちに共感してくれる人に初めて会っちゃったよ」
「だって開放感が半端ないじゃないですか」
「だよねだよねー。分かるよー。ありのままの自分をさらけ出すって快感しかないよねー」
考え方によっては変態さんかなって思う。
でも本当に、できることなら裸になりたいんだよね。それで牙を剥き出しにしてモンスターに挑みかかったり、死に物狂いの戦いに勝利した余韻にひたったりしたいんだ。
おっと、ポーションを飲むんだった。アイテム空間からポーションの入った瓶を取り出した。そして、腰に手を当ててぐびぐび飲み始める。
あ~、来た来た来た。これだよこれ。気分すっきり爽快な気分~。身体にどんどん活力がみなぎってくる。全身にあった痛みが次々に消えていく。うわあ~、身体が熱い~。目が覚めていく感じ~。最高~!
「ぷはーっ、やっぱりこれだねっ!」
「紗雪ちゃん、良い飲みっぷりだねっ。いいなー、バトル後のポーションって本っ当に最高だよね」
「はいっ、私、これのためにダンジョンに来てるのかもしれません」
身体が軽い。心も軽い。テンションも上がってる。こんなに美味しく感じる飲み物はダンジョン以外では絶対に味わえないって思うよ。
「私はHPはぜんぜん減ってないんだよねー。あ、紗雪ちゃん、これからもう一戦いこうか?」
「い、いえ、今日はもう満足ですから」
「そっかー、残念だけどしょうがないね。今日はもう帰るの?」
「まだ帰らないですよ。薬草とマナの輝石のストックを作ったり、リルリルさんのところでポーションを売ったりして――。6時過ぎになったら帰ります」
「了解ー。それ、私も手伝うよ」
姫華さんがジャージを着た。それからかなり一生懸命に私を手伝ってくれた。おかげで薬草とマナの輝石が10個ずつたまったよ。
あ、レッドゾーンのスライムはやっぱりマナの輝石のドロップ率が良かったよ。体感で2回に1回はドロップしてくれる感じ。普通のエリアだと体感で5回に1回くらいしかドロップしないから、レッドゾーンの方がかなり効率はいいね。
そして6時過ぎになった。私は姫華さんと一緒にダンジョンを後にした。途中まで一緒に歩いて手を振って別れる。
いやー、初めての共闘クエスト、新鮮で楽しかったなー。またいつか姫華さんと一緒に冒険をしたいって思った。
「これをご縁に、本当のお友達になってくれたりして――」
って、さすがにそれは欲張りすぎか。今日はこのあいだ助けてくれたお礼にってことで付き合ってくれただけなんだし。
「あんなに綺麗な人と私なんかがお友達になろうだなんて……、おこがましいことだよね」
今日の体験は一日だけの幸せな思い出ってことで、心の中にそっとしまっておこうと思う。
明日からはいつもの私に戻るんだ。
駅に着いた。夕暮れのホームに電車が入ってくる。
電車に揺られながら窓に映る自分の顔を見てみる。
「あれ、珍しい」
幽霊みたいな暗い顔をしていなかった。
私にしては珍しく、普通の女子高生みたいにニコニコしていた。
「そっか。今日、楽しかったんだね」
窓に映る自分にそう語りかけた――。
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