第77話 後学のためにぜひ知っておきたくて

 姫華さんが制服の残骸を回収しに行った。

 私はイーヴァルウッドフォークを倒したことを告げるメッセージを確認した。討伐クエストだから、これでクエスト攻略完了だ。

 いや、違った。まだ戦闘は終わってなかった。


 イーヴァルウッドフォークと共闘していたアシッドスライムがまだいたよ。ぴょんこぴょんこジャンプしながら私の方へとやってきた。

 ああ、平和そうな顔だ。でもこのスライムは私の服を狙ってるんだよね。エッチなスライムなんだ。


「きみ、姫華さんだけじゃ満足できなかったの? それで次は私? 欲張りさんだねぇ」


 アシッドスライムは何も言わない。私のスカートあたりをジーッと見ながらぴょんこぴょんこ近づいてくるだけだ。

 アシッドスライムが私の足下にたどり着いた。私は左足を上げた。そして、アシッドスライムにシューズの裏を押し当ててぐりぐりっとした。


「えいっ」


 ん? あれ? 想像を大幅に超える弾力があった。

 普通のスライムだとぷちっとやれるはずだったんだけど、私の足の裏が弾力に押し返されてしまったよ。


 アシッドスライムが可愛いらしい目でギロッてしてくる。生意気な目だね。もっと強く踏まないとダメかな。


「よいしょっと」


 足の裏が弾力に勝って、アシッドスライムをぷちっと潰すことができた。

 最後にきょろっとアシッドスライムの目が私のスカートの中を覗いてきたね。進化しても相変わらずスカートの中を見てくるモンスターだ。


「弾力が普通のスライムよりもあったなー」


 普通のスライムを踏み潰すときよりも、もっとグッと足を押し込まないといけない感じ。


「あ、ラッキー。マナの輝石がドロップしたよ」


 すぐに拾いあげた。

 気のせいだろうか。今日はマナの輝石がよくドロップする気がする。


 レッドゾーンのスライムはマナの輝石のドロップ率が高いのかもしれないね。普通のスライムだと体感では5匹に1個くらいのドロップ率かな。それがアシッドスライムだと、さっき姫華さんが倒したときのを含めると2個連続でマナの輝石がドロップしたことになる。これはそうとうドロップしやすい可能性があるよ。


 帰るときにアシッドスライムを探してみてマナの輝石のドロップ率を検証してみようかな。2回に1個くらいのドロップ率だと個人的には嬉しいな。確定ドロップだともっと嬉しいけど、さすがにそれはないよね。


 ……。……。……ん?

 ぞわっとした。


 私はすぐに後ろを振り返った。間違いなく格上のモンスターがそこにいるはずだ。すぐに警戒態勢に入らないと殺されてしまいそうな恐怖心が湧き上がってくる。

 ジャングルの木々の向こう側、足を止めてこちらを観察している緑色のモンスターがいる。


 私はすぐにハンマーを構えた。

 でも、手の感覚が薄い。ちゃんとハンマーをつかめていない感じがする。私、怯えちゃっている。木々の向こうにいる二足歩行の大きなカエルに――。

 少し後ずさった。距離はあるのに、そうしないと瞬殺されてしまいそうな恐怖感があるからだ。


 ……カエルが左手に何かをつかんでいる。木々でよく見えないけど、男性用の大きな靴は見えるね。死んだ冒険者を運んでいるんだろうか。

 あの冒険者はあのカエルが倒したのか、それとも別の理由で死んでしまったのかは分からない。とりあえず分かるのは、私があの死体を奪い返してダンジョンの外につれて行ってあげたくても、私にはそれは絶対にムリだってことだけだ。


 私のこめかみあたりから冷たい汗がツーッと流れ落ちた。

 攻略推奨レベルはどれくらいだろう。80……90……、いや、100越えかなぁ。


 とても今の私にかなう相手じゃない。姫華さんに声をかけつつ離脱しよう。

 しかし、その前にカエルがフッと笑った。まるで私の弱さをあざ笑うかのようだった。むかつく笑みだなって思った。

 カエルは私に興味をなくして、ずるずると死体をひきずりながらダンジョンの奥へと消えていった。一瞬だけしか見えなかったけど、運んでいたのは大人の男性だった。


 私、心臓がバクバクしてるよ。いやー、命の危機だった。ほんの数秒の出来事だったけど、私には何時間もの出来事に感じたよ。

 いつか絶対にあのカエルを倒したいって思っ――。


「紗雪ちゃん、今、何かいたの~?」

「ひゃ~っ!」


 制服の残骸を拾いに行っていた姫華さんが合流した。カエルに集中しすぎてぜんぜん周囲の状況が分かってなかったよ。


「姫華さん、今、カエルのモンスターが誰かを運んでて」

「お? まだ生きてた?」

「完全に死んでました」

「あちゃー。でもそういうのたまに見るよねー。なんかモンスターってさ、モンスターとか冒険者が死んでるとどこかに運んで行くんだよね。おかげでダンジョンがあんまり殺伐とした景色にならなくて。一説には亡霊モンスターの――」


 う、うおお。私、姫華さんの顔を見たり、身体を見たり、顔を見たり、身体を見たり、何度も繰り返してしまった。しかも、照れてしまう。

 だってだって、制服がボロボロの状態だから目のやり場が見つからないんだもん。本当にドキドキしすぎて心臓に悪いよ。


 私が照れてるのが姫華さんに伝わってしまったようだ。姫華さんがいたいけな子供をからかうようなお姉さんの表情になった。


「うふふふ、なんだか紗雪ちゃんって感性が男の子に近い感じするねー。男の子向けエンタメをいっぱいたしなんできたでしょ」

「い、いえ、大ヒットしたのをたしなんできた程度ですけど……」


 私はぼっちだからね。これまで友達がいなかった分、人よりも漫画とかアニメとかゲームとかで遊ぶことがわりとあって、その中で男の子向けのものにもちょいちょい触れてきたんだよね。

 って、意識したらますます気になってきた。もう聞かずにはいられない。


「あの……姫華さんって何カップですか? 後学のためにぜひ知っておきたくて」

「それって後学になるのかな……。まあいいけどさ。私はGカップだよ」

「じ、Gカップ!」


 これが私にとって今日一番の衝撃だった。




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