第75話 VSイーヴァルウッドフォーク
どくん、と私の心臓がまるで警告をするかのように高鳴った。絶対に油断しちゃダメ、もの凄く強い相手だよって伝えてきているみたいだった。
強烈な威圧感を感じる。植物がプレッシャーを放ってくるなんて初めての経験だよ。
生き物として明らかに私はイーヴァルウッドフォークよりも格下だ。絶対に油断はできないよ。私の全力で戦う。そして姫華さんを助けてあげるんだ。
私はハンマーを構えた。
しっかりと相手を観察する。たぶんだけど、イーヴァルウッドフォークはほとんど移動しないと思う。だって根っこが地面にしっかり埋まってるからだ。あれじゃあ自由に動けないよね。
でもその分、枝を伸縮自在に何本も同時に操れるみたいだ。私が警戒しないといけないのはそこだね。
あ、五本の枝が急激に伸びてきた。狙いは私だ。
めちゃくちゃスピードが速い。でも――。
「そのくらいなら問題ないよ」
私はしっかりと見切って枝を避けた。
私の右腕や右脚の横を枝が通り過ぎて行く。パワーがけっこうあったからか、枝が通ったときの風圧はかなり凄かった。あれに襲われたらひとたまりもなさそうだ。
受け身で勝てるとは思えないな。
「攻撃しよう」
私は全速力で駆け出した。いっきにイーヴァルウッドフォークとの距離を詰めるんだ。
「ああーっ! 紗雪ちゃん、後ろ後ろ。気をつけてーっ!」
「えっ?」
振り向いてみたら、さっき私の横を通り過ぎた枝が、ぐるっと回って再び私を狙ってきていた。あのあとまだまだ伸びていたんだ。姫華さんが教えてくれなかったら危なかった。
「てえええええええい!」
私はハンマーを思い切り枝に叩きつけた。枝の先端を遠くに弾き飛ばしてしまう。
でも、さすがに五本の枝をぜんぶは弾き飛ばせなかった。枝の一本が私のウエストに巻き付いてしまう。
「うわーっ、痛たたたたたたたっ」
けっこうな力だ。着物を着るときに帯をギュッときつく締めるみたい。って、いや、そんな生易しいものじゃなかった。骨が砕けそうだし、内蔵の何かが潰れそうだ。でも、両手はしっかりと動くから姫華さんほどの窮地じゃない。
私はハンマーを両手で振りかぶった。そして私を拘束した枝に上から思い切り叩きつけてあげた。
「とりゃあああああっ!」
ドスンッと重い音が響く。枝に大きなダメージを与えられたと思う。
さすがに枝を破壊したりはできなかったけど、枝の力が明らかに弱まったよ。私はウエストに巻き付いてる枝を手で引っ張って外した。
「よし、自由になった」
私はまたイーヴァルウッドフォークの幹の部分に迫っていった。
いける。これなら攻撃を入れられるよ。イーヴァルウッドフォークはたいしたことなさそうだ。
「さあ、いくよっ! 私のハンマーを耐えられるかな!」
思い切り振りかぶってから、ハンマーを全力スイングで振った。
ブルンと気持ちのいい風切り音が発生する。そして私のハンマーはイーヴァルウッドフォークの幹にしっかりと入った。
よし、幹がへっこんだ。かなりのダメージになったはず。
私はイーヴァルウッドフォークの顔を見上げた。イーヴァルウッドフォークが憎々しげに私を見下ろしていた。
き、きいてない……?
あるいは植物だから痛みに鈍いのかも?
あ、しまった。いつの間にか新しく伸びていた枝が、私の右の足首にしっかりと巻き付いてしまった。
すぐに枝を壊さないと。って、思ったときにはもう遅かった。
「ひゃああああああああああああっ!」
私は右足を引っ張りあげられてしまった。うおおおお、こんなに足を上げたのは人生で初めてだよ。
「しかも、スカートで!」
丸見えじゃん! あ、でも今日はちゃんとお気に入りのショーツだからそこまでメンタルにはこないかも?
って、バカみたいなことを考えてる余裕はぜんぜんなかったようだ。私は枝のパワーに負けて空中に持ち上げられてしまった。
うわあっ、ジャングルを上から見下ろしてるよ。なんだか壮観だなって思ったけど、高すぎて怖いっ。
「いやああああああああああっ、嘘でしょおおおおおおお。それムリだよおおおおおっ」
何階くらいの高さからの落下だろうかって感じ。身体も心も恐怖している。
いちおう受け身をとるようにはしてみたけど……。私は思い切り地面に叩きつけられてしまった。
「ひーん! 痛いーっ」
ああ、もう! めっっっっっっっちゃくっちゃ痛いよ! ダメージが30もあった。たぶん学校の三階に到達しそうな高さがあったよ。そんなところから地面に叩きつけられたのは初めての経験だよ。そりゃ痛いよ。こんなの何回もくらえない。でも――。
私はまた枝に足を引っ張られてしまった。
「ぎゃふっ!」
近くの木の幹に身体を叩きつけられてしまった。
イーヴァルウッドフォークの殺意を感じるよ。それだけさっきのハンマー攻撃は痛かったってことかな。
「でもちょっとだけショック……。私のサービスシーンには需要がなかったってことかな……。姫華さんとの扱いに違いがありすぎて……。って、うわあああああっ!」
しょうもないことを考えてる間に、また高いところに持ち上げられてしまった。あああああっ、ひっくり返ってるからスカートの中が完全に見えちゃってる。って、そんなこと気にしてる場合じゃないよね。
「いやあああああああああああああああああっ!」
私はまた高いところから地面へと勢いよく叩きつけられてしまった。
し、死ぬほど痛い……。
あ、身体の中から何かがせり上がってきた。ダメ、吐く。吐いちゃう。
「ごぽっ! はあっ! はあっ! はあっ!」
口から血がいっぱい出てしまった。身体の中のどこかを痛めてしまったんだと思う。
ただ、HP的にはまだあと60近く残ってる。元気なうちになんとか反撃しないと。
「いやあああああっ、痛ったあああああい!」
反撃しようと思った瞬間にまた木の幹に叩きつけられてしまった。さらにまた枝に足を引っ張られてしまう。でも――。
「そう何度も何度も、同じ手をくらう私じゃないんだよねっ」
私は手でしっかりと木の幹をつかんでいる。ふふふ……、残念だったね、イーヴァルウッドフォーク。私の握力はどうやら枝の力よりも強かったみたいだ。これは勝つための糸口になるよ。
「今まではハンマーを振りかぶる余裕がなかったけど――」
あっちこっちに振り回されたりしないなら、余裕でハンマーを振りかぶれるよ。
私は片手で木の幹をつかんだまま、もう片方の手でハンマーを強く振りかぶった。
「とりゃーっ!」
私の足首に巻きついていた枝にハンマーを叩きつけた。
枝の力が弱まったね。その瞬間に私はパッと足を抜いて自由を取り戻した。
「はあっ、はあっ、はあっ、さすがは攻略推奨レベル65だよ。一筋縄ではいかなかったね」
でもだいたい分かったよ。枝にさえ注意しておけば他には怖いところが特にないモンスターだ。その枝にしたって一発で致命的なダメージを与えられるほどの攻撃力はない。
私は強気な笑顔を作った。これなら勝てる――。絶対に勝てるよ――。
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