第72話 初めての二人クエスト
姫華さんと一緒に石版をチェックする。そして、一つのクエストに注目した。
『こんちゃ~。あたし、ダンジョン神だぴょん♪ 今日も元気にクエストしてるか~い? 今回のお願いだけどね~、7番通路の植物モンスターが伸びまくっちゃってさー、鬱陶しくなっちゃったんだよね~☆ だからバッサリと刈り取って欲しいんだぴょん♪ 討伐対象モンスターはイーヴァルウッドフォーク。よろぴくね~☆』
ずこー。
ダンジョン神のこのテンションにはまだまだ慣れそうにないな。
『攻略推奨レベル:65 ※危険地帯(レッドゾーン)のクエストだよん♪』
このクエスト、私にはまだ時期尚早って感じだけど――。
『報酬:9000ポン スキルポイント 5(スキルポイント欲しいだろ~? 奮発しちゃったぜ~☆)』
スキルポイントが入るから逃したくない。
「姫華さん、これ、すごくいいと思うんですけど」
「だよねだよね。攻略推奨レベルが高いけど大丈夫?」
「私一人だと受注する勇気はないですけど……」
私は期待の眼差しを姫華さんに向けた。姫華さんが胸を張ってくれる。
「大丈夫だよ。先輩として超かっこいいところを見せてあげるよっ」
「頼りにしてますね」
「よーし、決定だね~♪ 二人で受注するよー」
というわけで、クエスト『木の魔物を倒せ!』を受注した。
二人で受注したから、二人で一体の対象モンスターを倒せばいいみたい。報酬は分割だけど、スキルポイントはそれぞれにちゃんと入るんだって。
これが私の初めての二人クエストだね。姫華さんの迷惑にならないように頑張ろうって思った。
△
7番通路のレッドゾーンにやって来た。
私はこの通路のレッドゾーンは初めてだけど、姫華さんと一緒だから魔法陣のワープが使えたよ。凄く楽だった。
……あれ? なんだか少し暑くない?
汗をかいてしまいそうな暑さがある。湿度が高い感じもするね。目の前には植物が鬱蒼と茂っていて視界がけっこう悪い。類人猿っぽい感じの楽しげな声が、どこか上の方から聞こえてきた。
こ、これってどう見ても……。
「ジャングル……?」
「そ。7番通路のレッドゾーンはジャングル地帯だね」
「ジャングルって、私、初めてです」
「日本人はだいたいみんなそうじゃないかなー」
「大きなヘビとかいるんですか?」
「いるいる。大きなワニもいるよ」
「ワ、ワニ……」
怖いけど、でもちょっと戦ってみたい気もする。
もしも私が戦うとしたら、ワニが口を開けたときに上顎に思い切りハンマーを叩きつけるかな。あれでも待って。たしかワニは噛む力が凄いはず。ハンマーごと私が噛み砕かれる可能性はあるんだろうか。そうだとしたら、口を閉じた瞬間を狙って上から脳天を叩きつけるのがいいのかな。
うーん、一回試してみたい。
「紗雪ちゃん、今、頭の中でワニと戦ってるでしょ」
「え? ハッ。す、すみません。ついついイメージトレーニングをしてしまいました」
「大丈夫大丈夫。分かるよー。私もよくイメージトレーニングをしてるし」
「そうなんですか? 姫華さんって私のイメージだと、お茶とかピアノとかおしゃれのことで頭の中がいっぱいみたいな感じなんですけど」
「それは世を忍ぶ仮の姿かなー。本当の私は本能で生きるワイルドな戦闘系女子高生なのでしたー。あ、ちょうどいいモンスター発見ー。ほいっと」
姫華さんが弓矢を装備して綺麗なフォームで矢を射った。矢がもの凄いスピードで木々の間を通っていく。
「攻略対象のモンスターがいたんですか?」
「んーん。今のはぜんぜん違うモンスターだよ」
「戦いたいモンスターってことですか?」
「違う違う。経験値が欲しかっただけー」
「え……? 今の一本の矢だけで倒せたんですか?」
「すぐには倒せないけどね。私のスキル〈ポイズンマスター〉で矢に毒を付与しておいたからさ、当たったモンスターは毒状態になるんだよね」
「はあ……」
「それでそのままほっておくとね、モンスターの身体に毒が回ってそのうち死んじゃうんだ。それで経験値が入るって感じ」
「な、なるほど……。姫華さんはそうやってレベルを上げていたんですね。賢いやり方だと思いますけど……、反撃はされないんですか?」
「もちろん反撃してくるのもいるよ。でも何度もやってるうちに鈍感なモンスターを覚えちゃったんだよね。そういうモンスターはね、矢が刺さったことにすら気がつかないんだよ」
そんなモンスターがいるんだ……。カバとかナマケモノとかだろうか。のんびりしてそうだし。
「矢が刺さったことに気がつかないで、いつのまにか毒で死んでるって悲しいですね……」
「それが弱肉強食のダンジョンだよ。まあ毒がきかないモンスターとかいるし、そこまで無敵の戦法ってわけじゃないんだけどね」
私はポーションを作りまくることでレベルを上げてきたけど、姫華さんは矢を使った遠距離毒殺戦法で高レベルに上り詰めたんだね。
姫華さんは私よりもだいぶたくましい冒険をしてるんだなって思った。見た目は綺麗すぎるお姫様みたいな人なのに。人って分からないものだね。綺麗な薔薇にはトゲがあるというか毒があるというか。とにかく、姫華さんがもの凄くダンジョンにのめりこんでる人だっていうのがよーく分かったよ。
「よっ、ほっ、とりゃ」
姫華さんは遠くにモンスターを見つけると、毒を付与した矢をポンポン撃っていた。
よく当たるなーって思ったけど、ステータスにある「技術」が高いと命中補正にけっこうプラス効果が働くんだって。
あの数値は何かを作るときに良いのかなってなんとなく思ってたけど、それだけじゃなかったみたいだ。たとえば私がハンマーを振るときにも効果があるんだって。武器を扱う技術力が高いってことで攻撃力にプラス補正がかかるんだそうだ。
「ぜんぜん知らなかったです」
「わりとマイナーな情報かもねー」
「情報源はどこなんですか?」
「攻略サイトだよ。私、暇なときにスマホでけっこう情報集めしててさー。いつの間にかけっこう詳しくなっちゃってたんだよね」
「私もよく攻略サイトを見てましたけど、モンスターの攻略ページばっかりチェックしてました」
「分かるー。私もよく見てるよ。意外と生態のことについても詳しく書いてあったりしてさー」
「あ、それ分かります。読み始めると止まらないですよね。書き手さんが粘り強く観察してるみたいで本当に詳しくて。図鑑でも作れそうな感じですよね」
たとえばこのモンスターは何を食べて生きてるのかとか、群れて生活をするのかとか、繁殖はどうするのかとか、天敵は何かとか――。そういうのを調べて攻略サイトに投稿してる人がいるんだよね。
私とは完全に違うダンジョンの楽しみ方だ。世の中にはいろいろな趣味嗜好の人がいるんだなって思うよ。
私たちは小道に入って行った。そしてすぐにわりと広いエリアに出た。
相変わらず湿度の高いジャングル地帯だ。一瞬、アマゾンにでもいるのかと思ってしまうけど、天井を見るとやっぱり土で覆われたダンジョンなんだよね。見慣れた景色を見ると安心するよ。
あれ、姫華さんが何かを見つけたみたいだ。
「紗雪ちゃん、ほらほら、薬草あったよ」
「本当ですね。もらってもいいですか?」
ジャングルの植物に紛れて、ひっそりと隠れるように薬草が生えている。しかも三つもだ。姫華さんが見つけてくれなかったら、きっと見逃していたと思う。
「いいよいいよ。私が持っててもしょうがないしさ」
「ありがたく頂きます」
薬草を引っこ抜いた。レッドゾーンでも薬草をゲットできるんだね。それならこれからは、レッドゾーンを中心に活動していっても大丈夫そうだ。
「あとはスライムがいればポーションを作れるんですけど」
「んー、いつもなら歩いてるだけで1匹か2匹くらいはすぐに見かけるんだけどなー」
「スライムみたいな弱っちいのは、レッドゾーンだとすぐに死んでしまいそうですけど」
「ところがどっこい。スライムだって生命体だからね。生存競争に勝つためにレッドゾーンでは進化してるんだよねー」
「え、進化? 両腕がついたりとかですか?」
「あっはっはっは。それはちょっと気持ち悪くないー」
姫華さんに笑われてしまった。
確かに想像するとけっこう気持ち悪いかも。そもそも両腕があったって、スライムじゃあたいしたパンチはうてないよね。そんな弱い進化じゃ意味がないか。
「あ、噂をすれば影。紗雪ちゃん、見てみて。あそこにいるよー」
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