第71話 紗雪のポーションとステータス
マルタさんの露店に行って制服を受け取った。下着も含めてぜんぶピカピカの新品みたいに修繕できていた。相変わらず完璧な仕事ぶりで感動したよ。
私はすぐにジャージを脱いで制服のブレザーを着た。そしてサメのリュックにジャージを片付け――と思ったけど、姫華先輩の助言でアイテム空間に入れておくことにした。リュックごと燃やされたりしたら大変だかららしい。なるほど、と納得した。
続いてはリルリルさんの露店にやってきた。
「リルリルさん、こんにちはー」
「はい、こんにちはー。あら? 今日は綺麗なお友達が一緒なんですね」
リルリルさんが嬉しそうだ。私が誰かと一緒にいることを喜んでくれているみたい。
「お友達じゃなくて学校の先輩なんですよ」
「あー、ちょっと距離を感じたぞー。紗雪ちゃん、私たちってもう濃厚なキスをした関係だよね?」
私は姫華さんとのキスを思い出してしまって顔を赤くしてしまった。
「えっ? えっ? お、お二人はそういうご関係なんですか?」
リルリルさんがほっぺに両手を当てて照れている。
勘違いされたくはないし、私は昨日あったことをできるだけ丁寧に説明した。
「なるほど。紗雪さん、それはとても素晴らしいことをしましたね」
「いえ、私は当たり前のことをしただけですよ」
「その当たり前ができなくなるのがダンジョンという場所なんですよ」
「そうそう、その通りだよ、紗雪ちゃん。ダンジョンに来るとみんな五割増しで悪い人になっちゃうんだからね。もしも私を見つけてくれたのが紗雪ちゃんじゃなくて別の人だったら……。きっと私は死んでたと思うよ」
だから本当に感謝しているんだ、と姫華さんは言う。
姫華さんを見つけてあげられたのが私で良かったなって思った。だって姫華さんって良い人だもん。そんな良い人がダンジョンで誰からも介抱してもらえなくて死んじゃうのは、あまりにも可哀想すぎるから。
先に会話から入ってしまったけど、私は改めてリルリルさんに姫華さんを紹介した。二人とも私と違ってコミュニケーション能力が高いから、あっという間に打ち解けていたよ。
挨拶も終わったことだし、私はいつもの商談に入ることにした。
「リルリルさん、今日もポーションを売りたいんですけど――」
「いつもありがとうございます」
「え? 紗雪ちゃん、ポーションを売ってるの? もしかしてクリエイト系のスキルを持ってる?」
「はい。初期スキルでしたよ。そのスキルでポーションを作って、ビジネスパートナーのリルリルさんに売ってるんです」
「ポーションって良い稼ぎになるの? 単価はけっこう安そうだけど」
「けっこう良いお金になりますよ」
私は少しドヤ顔をしてみせた。
「リルリルさん、今回は二つ売らせてください」
「はい、ポーション2個で980ポンですね」
私もリルリルさんも画面をポチポチする。
売買が成立して、私の瓶に入っていたポーションが全てリルリルさんの持っている瓶の中へと瞬間移動した。そして私の瓶が綺麗な空き瓶に戻った。
姫華さんがちょっと驚いているようだ。
「え? え? え? ポーション1個の売値が約500ポンってこと?」
「「ですねー」」
「そんな高いお値段になるポーションって存在するの? あのー、リルリルさん。ポーションの性能を見せてもらってもいいですか?」
「いいですよ。紗雪さんのポーションは凄いですよー」
リルリルさんが瓶に入ったポーションを姫華さんに手渡した。そうすることで性能が見えたみたいだ。姫華さんがぎょえって感じの表情に変わったよ。
「か、回復量が250ーーーーーっ? こんなに回復量が高いポーションがあるの? より上位のはずのスーパーポーションが下位に見えるくらいの性能じゃん」
「ね? 凄いでしょう?」
「凄すぎですよっ」
「スーパーポーションの回復量の下限値は150ですもんね。紗雪さんのポーションはもうとっくに超えちゃってるんですよね」
「本当に凄すぎます。リルリルさん、そのポーションを二つとも買わせてもらってもいいですか?」
「売値は1個690ポンになりますが、よろしいですか?」
「もちろんですよ。それ、超安いですよ。スーパーポーションだったら1個1000ポンはするじゃないですか」
「スーパーポーションは作る手間がとてもかかりますからね。どうしてもお値段が上がってしまうんですよねー」
「ですよね。リルリルさん、良い商売をしてますね」
「えへへ、紗雪さんが頑張ってくれてるおかげですよ」
「紗雪ちゃん、やるなー。さすがは私の王子様だ。稼げる商品を作れる人って、すっごくかっこいいよ」
なんか褒められてしまった。
お小遣い稼ぎでやっていたポーション作りが、いつのまにか人に評価されるほどになっていたんだね。ちょっと誇らしいし、私は純粋に嬉しかった。
姫華さんがポーションを購入した。嬉しそうだ。リルリルさんも嬉しそう。
「先輩さん、お買い上げありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそー」
「お二人はこれからクエストに行かれるのですか?」
「私はそのつもりですけど――。紗雪ちゃん、レッドゾーンのクエストでいいかな」
姫華さんが私の反応を窺ってきた。
「私、できればポーションの素材をいくらか集めたいです。クエストのついででいいんですけど、薬草とマナの輝石が必要で。レッドゾーンでは取れないですよね?」
「あれ? どっちもレッドゾーンで取れるよ?」
「え? そうなんですか?」
「うん、一緒に探してあげるー」
そうだったんだ。考えてみれば、今までは命がけの冒険にいっぱいいっぱいでレッドゾーンをちゃんと探索したことってなかったかも。レッドゾーンで薬草とマナの輝石が取れるのなら凄く嬉しいな。
「じゃあ、レッドゾーンのクエストに行くで決定で~。あ、でも、紗雪ちゃんのレベルに合わせてあげるからね。今ってレベル20くらい?」
「え? いや、もっと――」
「あれでも待って。私を助けてくれたときはレッドゾーンをソロで冒険してたよね。もしかしてレベル30近くある?」
「先輩さん、紗雪さんをそこらへんのルーキー冒険者と一緒にしたらダメですよ」
「へ……? もしかして強いの?」
私はステータス画面を目の前に表示させた。それを姫華さんに見せてあげたら目を丸くしていた。
「えええええええええええええええええええっ。レベル49! 紗雪ちゃん、一年生だよねっ。まだ他の子は一桁とかギリギリで二桁に入ったとかそんな感じなのにっ。もしかして中学生の頃からここに通ってたの?」
「いえ、この春からですけど。〈ポーションクリエイト〉が優秀なんですよ」
「あ、本当だ。〈ポーションクリエイト〉のスキルレベルが高いよ。〈逆境時強化〉まであるのっ。これ、スキルポイントを凄くつぎ込まないと取れないスキルだよね」
「レイジングオークを倒したんです。攻略推奨レベルがだいぶ足りないときに、瀕死状態からの大逆転勝利で。それがスキルの習得条件だったみたいで」
「どえええええええええええええええっ。レイジングオーク! それってレッドゾーンのビギナー殺しってことで名高いモンスターだよ。二年生のガチ勢が数人がかりでも、必ず誰かが重傷を負っちゃうくらいに強いモンスターなのに」
「なんか……、勝っちゃいました……。あはは……」
「かっこよすぎるよ、紗雪ちゃん。これはますます一緒にクエストに行くのが楽しみになっちゃったなー」
なんか姫華さんにいっぱい褒められてしまった。あんまり人に褒められることがない私だから、素直に嬉しいよ。
その後、私たちはどんなクエストを選ぶかをしっかりと相談した。それで二人のレベルの間くらいのクエストがあればそれにしようねって話になった。
リルリルさんに「いってきます」を伝えて、私と姫華さんは広場の中央奥へと向かった。どんなクエストが待ってるのか楽しみだね。
そうそう、姫華さんのステータスもちゃんと見せてもらったよ。
姫華さんは毒を操る〈ポイズンマスター〉だった。もの凄く強かったよ。私はまだまだぜんぜん届かない感じ。だから足をひっぱらないようにしないとね。
私は気合いを入れつつ、クエストの石版のところへと歩いていった。
千湯咲紗雪のステータス
■レベル49
・体力 143
・攻撃 74
・防御 76
・敏捷 96
・魔法 44
・技術 129
■スキル
〈ポーションクリエイト〉 レベル29
〈逆境時強化〉 レベル10
白銀姫華のステータス
■レベル75
・体力 257
・攻撃 151
・防御 140
・敏捷 230
・魔法 77
・技術 150
■スキル
〈ポイズンマスター〉 レベル45
〈アロークリエイト〉 レベル5
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