第70話 命のお礼
ダンジョンにはもうたくさんの学生が来ていた。
わいわい談笑したり、食事をしていたり、あるいはクエストをチェックしていたり。みんな楽しそうにしていて学校にいるときよりも元気があふれてるって感じだ。私も同じく元気があふれてるよ。ダンジョンに来るとどうしてもテンションが上がってしまうんだ。
「それじゃあ紗雪ちゃん、先にやるべきことをやっちゃおうか」
「やるべきこと……なんてありましたっけ?」
「うん、あるよ。はい、これだよ」
白銀先輩が両手の平の上に空き瓶を乗せた。そしてそれを私に差し出してくる。
「昨日は本当に助けてくれてありがとう。紗雪ちゃんが助けてくれなかったら、私、絶対に死んじゃってたよ。私、一生もののご恩ができたって気持ちでいるよ」
これ、ポーションが入っていた私の瓶だ。瀕死の重傷を負っていた白銀先輩に手渡して、そのままになっちゃっていたんだよね。
本当はすぐに返してもらいたかったんだけど、私がキラーホーネットに襲われたりとか、システムメッセージがちょっと意地悪をしてきたりとかがあって――。
「ど、どうも」
一日経った今、ようやく空き瓶が私の手元に戻ってきたよ。一安心だ。
「あと、私に飲ませてくれたポーションの代金だけどさ。ポンでいい? それとも現金がいい?」
「え、お金はいりませんよ? あのポーションは白銀先輩に差し上げたものですから」
「あのね、紗雪ちゃん。大事なことだから先輩として言わせてね。ダンジョンの中ではあんまりそういうのはよくないんだぞ? もらえるものはしっかりともらっておいた方がよくてね? 親切にした相手が仇を返してくるなんてしょっちゅうある話で――」
「はい、そういうのはもう別の先輩から聞いてますけど……。でも、昨日の分については本当に大丈夫ですよ」
「10万ポン払うよ?」
「けっこうです」
「20万ポン?」
「100万ポンでもいらないです。白銀先輩とはお金のやりとりをしたくないんです。もちろんイヤな人からはしっかりとお金をとりますけど」
「んー、まあ無理強いするのもおかしな話か。それじゃあ、別の形で恩返しをすることにするけど、それでいい?」
「それも別にけっこうなんですけど……」
「ダーメ。命の恩だからね。私、紗雪ちゃんにとことんいろいろと尽くしてあげるからね」
「いろいろ? というと?」
「こういうことでもいいよ?」
ブラウスのボタンをポチポチッと上から二つも開けて、ブラウスの中を覗かせてくれた。
「ふおおおおおおおおおおっ。パラダイスが広がってます!」
「あはははっ、男の子みたいな反応だ」
私のよりもおっきい。私のよりも本当にだいぶおっきかったよ。谷間がこう、なんていうか、指とかをつっこんでみたい感じだった。
白銀先輩ってこの容姿に生まれてこのおっぱいの大きさなんだ……。天は二物を与えたんだね。凄すぎるよ。
「紗雪ちゃん、私ね――。私のここを最初に奪った人にぜーんぶ捧げるって決めてたんだ」
白銀先輩がぷるるんと潤った唇に人差し指を当てた。つまり、ファーストキスをした相手にぜんぶを捧げてくれるつもりだったらしい。つまり、その相手っていうのは私のことだ。
「だから私のぜんぶをもらってね。私のかっこいい王子様♪」
「わ、私なんかが王子様でいいんですか」
「紗雪ちゃんだからいいんだよ~。情熱的で最高だったんだからね。ファーストであんなに素敵なキスができた人は日本にそんなにいないんじゃないかな。私、一発でハートを奪われちゃったよ」
恋する乙女の瞳だった。日本の全男子高校生を虜にしてしまえるであろう、誰よりも可憐で輝くような瞳だと思う。
私、男子じゃないのに心臓がバクバク言ってるんだけど。
「か、可愛すぎる……」
「それは紗雪ちゃんの方だよー」
「白銀先輩、私を褒めすぎでは……」
「だって本当に紗雪ちゃんって可愛いだもん。あと、私のことは姫華って呼んで欲しいな。もう他人じゃないでしょ? だって唇を情熱的に重ね合わせた関係なんだからさ」
「ひ、姫華先輩」
「先輩も禁止にしよっか」
「姫華さん」
「さんもダーメ」
「そ、それ以上はさすがに……」
「いちおう呼んでみてよ」
「姫華ちゃん……」
「うん、最高ー。呼び捨てだともっといいんだけど」
「いやいやいや、私がちゃん呼びとか呼び捨てなんてするのは変ですよ。姫華さんでお願いしたいです」
「まあーしょうがないかー。慣れてきたらイケメン顔でかっこよく呼び捨てにしてね」
「ええっ」
「というわけで、そろそろクエストに行く? それとも何か準備する?」
姫華さんが髪とスカートを華麗に揺らして前に歩き出した。少し進んだだけなのに、近くにいた人たちがみんな姫華さんを振り返っていた。
私、本当にこんなに綺麗な人と一緒にいていいんだろうか。分不相応な感じがするんだけど。
今日は大変な一日になりそうだなって、なんとなく思った。
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