第66話 紗雪のくつろぎタイム2
素肌の上にジャージを着ると、お肌とジャージの間に隙間ができるから変な感じがする。
ふと、お肌を晒してしまっているような不安感に襲われることがあるんだけど、心配になって胸元を見てみるとしっかりと布地に守られているんだよね。それがなんとも言えない気持ちになるから、私はかなりドキドキしてしまう。
そんな変な感じを胸に抱えながら家まで帰ってきた。
「ただいまー」
と言っても誰からの返事もない。一人暮らしだからね。今さら寂しくはないよ。もうとっくに慣れているし。
私はひとまずお風呂のスイッチを入れておいた。
自室に入ってサメのリュックを下ろす。
それからジャージのチャックを開けて脱ぎ捨てた。私の乳房が露わになる。
「ふう……。開放感……」
日頃ため込んでいたストレスが発散されていくようだ。
「でも、やっぱりダンジョンで脱ぐ方が開放感があるなぁ」
って、私はいったい何を言っているんだろうか。バカなことを言ってないで早くお風呂に入ろうっと。
汗と血の匂いにまみれたまんまでいるなんて、あまりにも花の女子高生らしくないからね。家の中でも清潔で可愛くしてないとね。
私はスカートと黒タイツとショーツをポイポイッと脱ぎ捨てた。脱いだばかりの黒タイツとショーツと、あとはスマホを手に持ってお風呂場へと行く。
黒タイツとショーツは洗濯コース。自動で洗ってもらえるなんてうらやましいね。私は自分の身体は自分で洗わないとなんだよね。疲れているから、それがちょっとしんどい。
防水対策をバッチリとしたスマホを持って私はお風呂へと入った。
シャワーをさっそく浴び始める。
「う~あ~。気持ちいい~」
身体を舐めるように水滴が流れ落ちていく~。快感以外の何ものでもなかった。汗や汚れと一緒にダンジョンでの疲れが落とされていく感じがする。
髪を洗って、身体を洗って、そして湯船に入る。
「ふう、極楽、極楽~♪」
お湯の温かさと浮力が気持ちよくて私は思いきり脱力した。そのまましばらくぽや~っとしながら温まる。
「あー、そうだ。今日のバトルの復習をしておかないとー」
私はスマホを手に取ってダンジョンの攻略サイトを開いた。
「えーと、ブラッディマンティス……、ブラッディマンティス……、あったあった」
ブラッディマンティスの攻略ページを見てみる。それによると――。
「攻略推奨レベルが65! ひゃ~!」
やっぱりブラッディマンティスって強かったんだ。
レイジングオークは攻略推奨レベルが80だっけ。それに比べたら弱いとはいえ、私はまだレベル49だからね。無茶な戦いだったよ。
「そりゃーマルタさんに褒められるわけだ」
普通は勝てないような勝負を挑んで生還したんだからね。
「ブラッディマンティスの攻略方法は……、えーと、正面からは絶対に挑むな。斬り刻まれるぞ。だってさ」
うん、斬り刻まれたよ。服もお肌もボロボロだよ。
「ブラッディマンティスの特長は攻撃力が超高いこと。油断していると一発で首すじを斬られて終わる。ただ、耐久力がそうでもないし、後方に回ることさえできれば超弱い。それが攻撃力の高さのわりに攻略推奨レベルが低めになっている理由だ」
65って低めなんだ……。やっぱりレッドゾーンは恐ろしいところだね。
「攻略の際は複数人で挑むことを推奨する。もしもソロ勢で挑む場合は攻略推奨レベルを少し超えているくらいじゃ無謀。余裕をもったレベルで遠距離攻撃や長めの槍、大剣などで挑むのがおすすめだ」
私は無謀な戦いをしてしまったんだね……。
強かったなぁ、ブラッディマンティス。ただ、私がピンチに陥った理由は足下の確認をおろそかにしてしまったからだ。
「今度からはもっと地形にも気をつけないとね」
一瞬の隙があっただけで人生が終わってしまうかもしれないからね。
「続いてはキラーホーネットかな……。いや、前に読んだことがあるんだよね。あ、でも別ページにキラーホーネットの大群がある」
どれどれ――。今日は大変な目にあったなーって思い出しながら攻略ページを開いた。
「キラーホーネットについては別ページを参照。そのキラーホーネットだが大群になって襲いかかってくることがある。大群になってしまうと恐ろしく強くなり被害者報告が後をたたない。大群になる理由はまだ判明していないが、巣を攻撃するか、巣に近いところでキラーホーネットを倒してしまうと大群化する場合が多いとみられている」
私は巣に近かったのかな……。でも巣は見当たらなかったよね。
「大群化した際は攻略推奨レベル100になるので要注意。というか実際にレベル100の冒険者に聞いてみたんだが、レベル100でもあっさり負けて死ぬんじゃねと言っていた。ゆえに基本的には戦わない方が無難だろう」
レ、レベル100でもムリ……。
ああ……、身体がぞわぞわする。いつか強くなったら巣ごと破壊したいかも。爽快だろうなー。
「攻略方法についてだが、今のところ特に見つかっていない。おそらく広範囲系の魔法で一掃するといいと思われるが、情報提供がないので分からないというのが実情だ」
そもそも私は魔法が使えないっていうね……。
「ということでキラーホーネットの大群はやばすぎる。襲われてしまったらとにかく必死に逃げろ。意外と追いかけるときのスピードはそうでもないからけっこう逃げ切ることができるぞ。レベルの低い冒険者は間違っても戦おうだなんて思うなよ。死ぬぞ。ダンジョンでは何が起きてもぜんぶ自己責任。本当に気をつけるんだぞ。追伸:攻略者がいたら情報提供をお待ちしております」
私は濡れていないところにスマホを置いた。
うあ~、戦いのことを思い出していたら、私の闘争本能が湧き上がってきちゃったぞ。今すぐダンジョンに行って本能の赴くままに戦いたいって身体が言ってくる。身体が熱いな~。
「あ~、今日も楽しかったなぁ~」
私は今日の冒険を思い出して少しニヤニヤした。
ダンジョンって楽しい。楽しすぎる。私はますますダンジョンが好きになっていくのを感じていた。
ただ、この気持ちを誰かと共有したいなって少しばかりだけど思ってしまった。
誰かいないかな。ダンジョンのことを話せる気の合いそうな人が――。
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