第65話 綿毛花ゲットクエスト達成!

 広場に戻ってきた。

 綿毛花をゲットするクエストがようやく終わりを迎えるね。想像よりもずっと大変だったな。


 私は広場の賑わいを感じながらマルタさんの露店へと歩を向けた。

 マルタさんはとなりの露店の人と談笑をしていた。私が近づくとすぐに気がついてくれて、にこやかな笑顔を見せてくれた。


「紗雪さん、お帰りなさいー」

「ただいまですー」

「わあ、たくさん取ってきてくれたんですね」


 私が肩に提げているバッグに気がついてくれた。マルタさんから借りていたこのバッグには、綿毛花がこれでもかとぎっしり詰め込まれている。

 でもそれだけじゃなくて――。


「リュックとアイテム空間にもめいっぱい綿毛花を入れておきました」

「本当ですか! とっても助かります」


 マルタさんがにっこりと嬉しそうにしてくれた。頑張ったかいがあったって感じだね。

 とりあえず、バッグごとマルタさんに渡した。それからサメのリュックに入れていた綿毛花を両腕いっぱいに取り出した。さらにアイテム空間に入れていた綿毛花も取り出した。まあアイテム空間は狭いから、本数的にはバッグやリュックよりは少ないかな。


「わあ、こんなにたくさん。大助かりです。これならしばらく困らないですよ。紗雪さんにお願いしてよかったですーっ」

「またいつでも言ってくださいね。いくらでも取ってきますから」


 マルタさんの露店に私の取ってきた綿毛花が山のように積まれた。自分でもちょっと驚くくらいの山になってるね。良い仕事ができたなって思える量だった。


「紗雪さん、本当にありがとうございます!」


 両手を揃えてぺこりと丁寧にお辞儀をしてもらえた。ちょっと日本人っぽいお礼の仕方だなって思った。

 きっとマルタさんは日本人らしい礼儀を選んでお礼を言ってくれたんだと思う。マルタさんへの好感度がけっこう上がったよ。


「では、クエストの納品完了処理をしましょう」

「はい、よろしくお願いします」

「報酬は2万5千ポンでしたが、綿毛花をたくさん取ってきてくださったので、少々お値段を多めにお支払いしますね」

「わあ、ありがとうございます」


 クエスト『綿毛花をゲットしよう!』が達成状態になった。そして私に2万8千ポンの報酬が入った。3千ポンも多めにもらえてしまった。学生の私にはとてもありがたいです。お昼にちょっと高めのパンを何回か買えるなー。そう思うと、それだけでもう本当に嬉しかった。


「それと紗雪さん――」


 マルタさんがジーッと私の胸元に視線を送った。

 とたんに恥ずかしくなってしまった。私はジャージ姿だし、ブラジャーをしていない。チャックが開きすぎていたかなと慌てて確認する。


「服、破れちゃいました?」

 別に私の胸の谷間が見えていたわけじゃなかったようだ。


「え? はい、破れちゃいました。……というか、斬り裂かれてしまいました」

「やっぱりそうだったんですね。行くときと帰ってきたときとで服装が違いましたので、きっとそういうことかと」


 私はサメのリュックの奥底に押し込んでいたブレザーとブラウスとブラジャーを取り出した。どれもブラッディマンティスに斬り裂かれてしまってボロボロの状態になってしまっている。


「マルタさん。修繕をお願いしたいんですけど」

「はい。もちろん承りますよ。クエストの達成報酬に上乗せして、サービスで対応させて頂きますねー」

「いいんですか?」

「もちろん大丈夫です。明日にはお直しますので、忘れずに取りに来てくださいね」


 凄く感謝した。服の修繕は新しく買い直すよりもかなり安いけど、それでも数千ポンはかかるからね。節約できるのなら、こんなにありがたいことはないよ。

 マルタさんが服の状態をチェックする。


「布地はしっかり残ってるんですね。原型もほぼとどめていると」

 しかし、斬られた跡がある。


「刃物を持ったモンスターと出くわしてしまったんですか?」

「ブラッディマンティスっていうカマキリと一戦交えまして」


 マルタさんがかなりびっくりしていた。


「えっ。あの二刀流の猛者を相手にしたんですか。よくお一人で勝てましたね」

「前情報を一つも持ってなくて……。強いモンスターだったんですか?」

「はい。とっても。レベルがお高いのならともかく、そうでない場合は複数人で挑むべきモンスターですね」


「あはは……、一人で戦って勝っちゃいました」

「それは凄いですっ。紗雪さんは間違いなく良い冒険者ですね。リルリルが推薦してくれた理由が分かりましたよ」

「え、私って良い冒険者なんですか?」

「はい。絶対絶命のピンチがあってもしっかりと乗り越えて笑顔で帰ってくる。これが良い冒険者の証ですからね」


 へえー、そうなんだ。じゃあ、不器用な感じだろうけど……。

 何度も鏡の前で練習してきた私なりの笑顔をニコッと見せてみた。幽霊が闇の向こう側から笑いかけたみたいにしかならないから、自分としては笑顔は苦手なんだけど……。


「わあ、とっても可愛いです!」

「あ、ありがとうございます」


 目を輝かせて喜んでもらえてしまった。私なんかの笑顔を可愛いって言ってくれてありがとうございます。なかなかない体験だから嬉しかったです。


「で、では、私はこのへんで。服の修繕、よろしくお願いします」

「はい。今後ともよろしくお願いしますー」


 あー、慣れない笑顔なんて作ったから顔が熱い。照れてしまったよ。

 なんだかお腹が空いちゃったな。血をけっこう出してしまったし、栄養が足りてないのかも。


 私はふらふらーっと料理を出している露店の方へと歩いて行った。ここまで来るともう美味しそうな香りにはあらがえない。

 美味しそうな肉料理でも食べて帰ろうっと。さあ、何を食べようかな。考えるだけでよだれが出てくる私だった。



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