第63話 キラーホーネットを追いかけろ!
キラーホーネットが私のバッグを足でしっかりと持った。そして羽を高速に動かして飛び上がってしまった。
嫌味たっぷりの顔を私に見せつけてくる。私は直感した――。
「あ、泥棒ーーーーーっ!」
あのバッグには綿毛花が大量に入っている。取られてしまうわけにはいかない。
私の急な大声に先輩がびっくりしたようだ。
「え、なになに? モンスター?」
「大事な物が取られてしまいました。追いかけてきます!」
キラーホーネットがバッグを持って飛び去っていく。
私は駆け出した。あれを取られたらマルタさんの期待に応えられなくなってしまう。絶対に取り返さないと。
「わ、ちょっと待って。おーい、名前を教えてよー。あと、瓶を返させてー」
返事をしている余裕がない。とりあえずキラーホーネットを倒さないと。私は全力ダッシュをした。
「待ーーーーーーーーてーーーーーーーーーーーっ」
あ、今の最高に幽霊っぽいセリフかも。もう一回言おうかな。
「待あああああーーーーーーーーてええええええーーーーーーーーーーーっ」
ダメだ。聞いてくれない。
キラーホーネットは何も気にせずにブーンと飛んで行く。スピードが速すぎるよ。このままじゃあ逃がしてしまう。どうにかしないと――。
キラーホーネットが細い道へと入って行く。
私もその細い道へと入ったら、距離はあれどちょうど真正面の方向にキラーホーネットがいた。バッグが重たかったのか少し低いところを飛んでいる。
攻撃のチャンスの気がする。
「ちょうどいいところに剣が落ちてた!」
誰かが捨てた剣だと思う。真ん中でぽっきり折れているね。その折れた剣を私は走りながら拾い上げた。
けっこうな重量の剣だ。元は大剣かな。大柄な男性がちょいちょい装備している対大型モンスター用みたいな武器だ。小回りがきかなそうだから小型モンスター相手には逆に向かない武器かな。
私、物を投げるのはへたっぴだけど――。
敵が一直線に飛ぶことしかできないこの細い道なら、さすがに当てられると思う。
キラーホーネットは飛ぶ生き物だし、きっと体重が軽いはず。その軽い身体にこの重たい剣の残骸を当てたらたまらないと思う。
というわけで私は走りながら振りかぶった。
「とりゃーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
当たってーーーーーっと願いながら思い切り投げつけた。
「あううう、やっぱりコントロールがへたっぴだった……」
男子みたいにまっすぐには投げられない。いかにレベルアップしてパワーがついていようとも、投げる技術が上がったわけじゃなかった。
私の投げた重たい剣は、右の壁に一回当たって、左の壁にも一回当たった。
あああ、キラーホーネットが次の広いエリアに出てしまう。そこに出るまでに倒したかったのに。
「あ――」
壁に当たった重たい剣が上手いこと跳ねてキラーホーネットの背中に当たった。
「ラッキー!」
キラーホーネットに大ダメージだったみたいだ。広いエリアには出られてしまったけれど、ずさーっと地面に落ちていた。
私はハンマーを手に取りながら全力ダッシュした。絶対に逃がさないよ。
「バッグを返してもらうからねー!」
キラーホーネットに追いついて思い切りハンマーを振り下ろした。そして、力強く潰してあげた。
『キラーホーネットを討伐しました』
討伐メッセージが表示された。
ふう、良かった。あやうく仕事の成果物を持ち去られるところだったよ。嫌がらせをするモンスターなんているんだね。顔からして性格が悪そうなモンスターだったもんね。
私はバッグを持ち上げた。よし、中身は無事だ。バッグも傷んだりしていない。
バッグについた土を払ってから私は肩にバッグをかけた。
さて、先輩のところに戻ろうかな。
『キラーホーネットが30匹現れた』
戻ろうとして足を止めた。……ん? 30匹?
ブーーーーーーンと恐ろしい音が響き渡った。音のする方向を見てみたら、キラーホーネットが集団で私に向かってきていた。とんでもない怒りを感じる。仲間を殺された恨みを晴らす気まんまんに見える。
逃げないと死ぬ――。
「ひえーーーーーーーーっ! 逃げろーーーーーーーーーっ!」
私は一目散に駆け出した。逃げろ、逃げろ、逃げろ、絶対に生きるんだーっ。
キラーホーネットの針には毒がある。刺されたら助からない。走れー走れー走れー!
『あ、そうそう』
「こんなときになに!」
『ファーストキス、おめでとうございます!』
「それ、いま言う必要があることなの!」
私、生きるか死ぬかの極限状態なのに。
「ていうか、口移しはキスじゃないって言ってたじゃなーい!」
ダンジョンのシステムメッセージってAIか何かが語りかけてるんだろうか。だとしたらかなり意地悪な性格のAIだなって思った。
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