第62話 目を覚ました綺麗な先輩

 ポーションの口移しが上手くいって綺麗な先輩が目を覚ましてくれた。

 でも、まだ目が開いただけだ。ぼんやりとどこかを見つめたままで動かない。


「先輩、大丈夫ですか。ポーションを飲めますか?」


 ダメだ。返事がないどころかまだ焦点が合っていない。しょうがない。もう一回するしかないか。

 私はポーションを口に含んだ。そして、先輩の唇を奪う。


「くちゅ……、くちゅ……、くちゅ……」

「ごくっ、ごくっ、ごくっ。……ん? ……んんん?」


 先輩の意識がはっきりしてきた気がする。でも、ポーションはまだ私の口の中に残っている。だからこのままぜんぶあげちゃおうと思う。


「くちゅ……、くちゅ……、くちゅ……」

「ごくっ、ごくっ、ごっくん」

「くちゅ……、くちゅ……、くちゅ……」

「ごっくん、ごっくん、ごっくん」


 先輩が能動的に飲んでくれている。おかげで楽になった。私は口に含んでいるぜんぶのポーションを飲ませてあげることができた。


 口を離そうと思ったけど、先輩がもっと欲しそうに舌を私の口の中に伸ばしてきた。どうしていいか分からずに私は舌を差し出したら、先輩の舌がぜんぶを吸い尽くすみたいにして私の舌を綺麗に舐めてきた。


「んんん~っ?」


 変な声になってしまった。すっごい恥ずかしい。なんだか気持ちよかったのも含めて本当に恥ずかしかった。

 私は照れてしまって顔を先輩から離してしまった。


 ひゃ~、あまりにも妖艶すぎるキス顔だ。世界一の美女って感じがする。

 もうポーションは終わりなんだと悟って、先輩は名残り惜しそうに唇を閉じた。


 私は恥ずかしくなっちゃって先輩の顔を見られなくなってしまった。ちょっと休憩。上がっちゃった体温を落とさないと。

 手をパタパタ振って、ほてった顔に風を送った。

 先輩がまばたきをする。そして意味が分からなそうに首を傾げた。


「……あれ? えーと? これってどういう状況なんだっけ?」

「先輩、死にかけてたんです」


 顔を見ずに伝えた。


「死にかけ……? ああっ、そうだったそうだった。なんか1年生に目を付けられちゃってねー。モンスターを4匹も押しつけられて私が戦うことになっちゃたんだよねー」


 よ、4匹? それで生き残ることができるんだ。

 凄いなんてものじゃない。ここはレッドゾーンだ。強いモンスターしかいない。私は1対1でもギリギリの勝負なのに、この先輩は一人で4匹も相手にできるだなんて。とんでもなく強いんだと思う。


「きみが助けてくれたの?」

 先輩が土に手をついて起き上がろうとする。でも、力が上手く入らないみたいだ。


「あ、あれー? 起き上がるパワーが出ないや」


 私は先輩の背中を支えてあげた。そうしたら手に力が上手く入ったみたいで先輩はちゃんと土に座ることができた。

 ありがとうってお礼を言ってもらえた。


「先輩、これを飲んでください」

 私はポーションの瓶を先輩に手渡した。


「ポーション? これを飲ませてくれてたんだ。ごめんね。お世話してもらっちゃって。あとでちゃんとお金は払うからね」

「いえ、差し上げます」

「そういうのはよくないよ?」


「いいんです。私がしたくてしたんですから」

「したかたって。うふふ、もしかして私のファーストを奪うこともかな」


 先輩が誘うように自分の唇に人差し指を当てた。眼差しが妖艶になっていく。

 私はついつい先輩に引き寄せられるように自分の唇をまた近づけようとしてしまった。


「ち、違いますっ。そういうのじゃないです。人が死にかけてたら助けたくなるじゃないですか」

「ふふふっ、私のファーストを奪った王子様は照れ屋さんなんだね。これ、ありがたく飲ませてもらうよ。自分のはもうぜんぶ飲んじゃったし。今度、改めてお礼をするね」


 先輩がポーションを飲む。ごくごくごくってけっこう良いペースで飲んでいる。あごをあげたときの喉が凄く綺麗だなって思った。


「ぷはーっ。やっぱこれだねっ。うん、これは凄く良いポーションだ。最高っ!」


 飲みきったら先輩のテンションが凄く高くなったね。表情も輝いてるよ。たぶん凄く明るい人だと思う。


「死にかけたあとのポーションほど気持ちの良いものってないよねっ」

「それ、分かります! ひんやり感と喉越し!」

「うんうん! それと生命力が湧き出てくるようなあの感動的な感覚!」


「頭も身体もスッキリしますよね!」

「そうなんだよ。うんうん、きみ、分かってるね~!」

「先輩もですね!」


 なんだか嬉しくなった。二人でがっしり握手をした。意気投合できた気がする。


「嬉しいな。あんまり理解してくれる人がいなかったからさー」

「この爽快感は万国共通だと思ってました」


「意外とそうでもないんだよね。きみ、私と同じタイプなのかもね。きみってダンジョン好きでしょ?」

「はい、大好きです!」


「だと思った。命がけで戦うのも好き?」

「やめられなくなっちゃいました!」


「私と同じだ。普通の人はそこまでのめりこんでないんだよね。ちょっとスリルを味わえるからとか、お小遣い稼ぎができるからって理由でダンジョンに来てるから」

「それはダンジョンの醍醐味を分かってないと思います」


 先輩が凄く嬉しそうに大きな笑顔を見せた。


「きみ、最高だねっ」

「先輩もですよ」


 ……ん? 気配、というか何かの悪意を感じた。私の少し後ろ。なんだろうか。


「ねえ、きみ、名前を聞いてもいい?」


 私は振り返った。地面に置いていた綿毛花をたくさん入れているバッグに、なんとモンスターが寄って来ていた。


 キラーホーネットだ。蜂のモンスターなのに、まさかまさかでこっそり地面を歩いて来たみたいだった。それで羽音が聞こえなかったんだね。なんだか凄く性格が悪そうなキラーホーネットだった。

 私と目が合う。複眼だから正確に合っているのかは分からないけれど、とにかく目が合った瞬間にニヤッと意地悪そうに笑ってきた。むかつく顔だった。



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