第60話 血まみれの美女
広場への帰り道をゆっくりと歩いて行く。
小道を歩いて広いエリアに出て、また小道をしばらく歩いて広いエリアへと出た。
「いろんなお花畑があって楽しいな」
広いエリアに出るたびに色とりどりのお花畑が私を迎えてくれる。少し童心に返った気持ちで私は可愛い花々を眺めつつ歩いていった。
道中、いくつか綿毛花のお花畑もあったよ。
私が見つけるのが下手だっただけで、実はそんなに探すのは大変じゃない植物だったのかもしれないね。
「あ、モンスターだ」
でっかいアリみたいなのがいる。でも遠いせいか、私にはぜんぜん興味を持っていなかった。別のモンスターの死体をせっせと運んでいるみたいだね。
倒したモンスターってその後どうなるのか謎だったけど、ああやってダンジョン内のモンスターが片付けてるのかも。
解体スキルがあれば自分で片付けるんだけどなー。欲しいなあ、解体スキル。あれば収入が上がるし。解体した素材によっては、ダンジョンフォークの人たちが調理してくれたりするし。
「でもスキルポイントがたくさん必要だから、自力でゲットするのはちょっと無理そうなんだよね」
解体スキルが欲しければ、そのスキルを持った人とパーティーを組むしかないと思う。
「あはは、パーティーなんて私には絶対に無理無理~」
学校で友達すらできないこの私が、ダンジョンでパーティーを組むだなんて絶対にありえないよ。ダンジョン内で対人関係のトラウマだってあるし、パーティーを組むのは本当に面倒くさすぎて無理すぎる。
「やっぱりソロが一番だよ」
ぼっちの私にはそれがお似合いさー。
そんなことを考えながら、いくつかのお花畑を通り過ぎた。
もうあと10分くらいでレッドゾーンは終わりかな。
ちょっと名残り惜しい気がするかな。レッドゾーンのピリピリした空気感にはまだまだひたっていたかったかも。
でもまあまたいつでも来られるんだから、今日はもうまっすぐに帰るべきだね。
今日の一番の目的は綿毛花のゲットなんだし。お世話になっているマルタさんのためにもそのお仕事を優先的にしっかりとやりとげないとね。
「……ん? 血の香りがする?」
くんくん。くんくん。間違いない。血の香りだ。
「モンスターの血じゃないと思う。これは人間の血の香り。って、なんで私はそんなのを嗅ぎ分けられるようになってるんだろうか」
自分の血とモンスターの血を何度もかいできたからだろうか。モンスターの血は嫌悪感のある感じとか生臭い感じ。人間の血はちょっと心配になる感じ。
この血の香りは凄く心配になるし、かなり甘い感じがする。
この甘味はフェロモンか何かだろうか。じゃあ、女性の血かな。
「ということは、誰かがこのあたりで重傷状態なのかも?」
それはまずいかもしれない。私でも気がついてしまうくらいの血の香りだ。モンスターは絶対に気がつくと思う。
私がモンスターよりも先に見つけてあげないとだ。その人がどうなるか分かったものじゃないから。
私は周囲を確認した。
ここは赤色のお花畑だ。薔薇みたいに鮮やかな色で、凄く絵になる場所だと思う。
奥の方には木が何本か生えている。
……直感した。たぶんそこに誰かがいる。
誰かがいるって分かると急に怖くなってきた。生きているのか、死んでいるのか、生きていたとしてもどういう状態か……。
自分が傷つくのは闘争本能が湧き上がるばっかりだから別にいいけど、他の人があんまりひどい状態になっていたら私は泣いてしまうかもしれない。元々、けっこうな泣き虫だし。
警戒しながら歩いて行く。
途中、血がたくさんこぼれ落ちている場所があった。ここで限界を迎えたんだろうか。よろよろと歩いて木の幹に身体を隠した。そして、動けなくなった……。そんなところだろうか。
心がドキドキする。怖い感じのドキドキだ。
木の幹を回り込む。
たとえどんな状態だったとしても救えるのなら絶対に救う。もしも残念なことに死んでいたとしたら根性を出して頑張って背負って帰る。見捨てることはしない。そう決めた。
そーっと、木の幹の裏にいる人を確認する。
いた――。やっぱりいた――。
その人は木の幹の下で仰向けになっていた。
私と同じ学校の制服の女子だった――。
だけど制服はボロボロな状態だ。かなり艶っぽい感じに破れてしまっている。
身体には攻撃を受けた跡が生々しく残っている。体中から出血していた。特に左の脇に大きい傷があった。
切り傷、打撲傷、焼けたような跡も少しある。いろんなモンスターと戦ったんだろうか。
弱りきった生命力でどうにか呼吸をしているって感じだ。
「綺麗――」
不謹慎だと思うけど、感想をつぶやかずにはいられなかった。
血まみれでボロボロになっている女性って、一種の芸術って言えるのかもしれない。顔は綺麗な状態のままなのが私にはなおさら美しく思えた。
この人、学校で一番綺麗って言われているあの先輩だろうか。まさかこんな形で初対面になるとは思わなかったな。
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