第59話 綿毛花を回収しよう!

 ううう……、明らかに血が足りない。身体が重くなってきたし反応がにぶくなってきた。


「ポーション、ポーション……」


 アイテム空間からポーションの入った瓶を取り出した。右手でつかむ。いや、これってしっかりつかめているんだろうか……。感覚があんまりなくて分からない。

 というか右手が震えまくってる。うおおお、やばいやばいやばい。力がぜんぜん入らない。

 私は両手で瓶を持った。落っことしたらただごとじゃないよ。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ……」


 私はいっき飲みするみたいにして全力でポーションを飲んだ。というか、命がけで飲んだ。死ぬ一歩手前みたいな状況だし、のんびりとなんて飲んでいられないよ。

 ああーっ、きたきたきた。冷たさが気持ちいいーーーーーっ。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ……」


 豪快に飲んでいるから口の端からだらだらポーションがこぼれていく。冷たい液体が私の身体を撫でるように流れていくのが気持ちいいなんてものじゃなかった。


 私の切り裂かれたブラウスが濡れていく。

 私の胸やお腹のラインをなぞるようにポーションが流れていく。

 私は今、喜びを感じてるよ。ああ、生きてるってこんなにも嬉しいことだったんだね。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ……。ぷはーっ。あー、喉越し爽やか! 気分すっきり! 気持ちいいーっ! 本当に最っ高ーっ! HP全回復だーっ!」


 私はニコニコ笑顔で万歳をするように両手をあげた。

 死ぬ一歩手前から元気100%の状態になるって気分爽快すぎてたまらないよ。このスッキリ具合は毎日でも体験したいくらいだ。

 さてと――。私はアイテム空間に空になった瓶を戻した。


「次は何をしようかな」


 採取対象の綿毛花は目の前にいっぱい群生している。これをまずは取るべきか――。


「いやいやいや、違う違う違う。私は自覚は薄くても、れっきとした花の女子高生なんだから」


 花の女子高生がこんなにも斬り刻まれた制服姿のままでいるなんてありえないよ。お世辞にもおしゃれだなんて言えないし、お肌は大胆過ぎるくらいに露出しちゃっているんだから。

 特に胸の谷間とお腹についてはサービス精神が旺盛すぎる状態だと思う。


 こんな状態を人に見られるわけにはいかないから、まずはお着替えだね。

 私は周囲をきょろきょろした。誰もいないね。


「ここでいっか」


 私はブレザーとブラウスをためらいなく脱いだ。

 私の大きい乳房が露わになったよ。


 ブラジャーはいちおう肩にはかかっている。でも真ん中からスパッと切れているんだよね。だから乳房にはぜんぜんはまっていなくて肩から下にぶらさがっているだけって感じだ。

 もうなんの意味もない状態だし、ブラジャーも脱いでしまおう。紐に指を通してブラジャーを脱いだ。

 これで私は上半身が裸の状態だ。


「……。……。うわあ、私、お花畑の中でおっぱい丸出しだ」


 なんだか絵になるんじゃないだろうか。芸術性が高いと思う。

 ちょっとだけ踊ってみたりした。

 ぴょんぴょんぴょんとすると、おっぱいがぽよんぽよんと愉快に揺れた。くるくるくるっと回ると楽しい気持ちになってきてニヤけてしまった。

 ああ、良い。こういうの凄く良いよ。テンションがどんどん上がってくる感じ。最高だよ~。


「ああ~、もうこのまま生きていきたい~。人間にとって服って邪魔な存在だったんだね~」


 いかに普段は堅苦しい格好で生活をしていたのかよく分かるってものだよ。学校とかとくにさ――。

 って、思考が危なくなってきてる気がする。私は上半身裸でいったい何をやっているんだろうか。


 うあ~でも、やめられない。やめたくない~。なんだかすっきりするし。開放感が幸せすぎる~。

 今の自分を自撮りしてみたいかも……。

 しちゃおうかなーなんて思いながら両腕を高くあげて深呼吸した。


「ああー……、心が軽くなる感じがする。私、この格好が大好きだな~」


 まずは自撮りをして、それから綿毛花を採取しようかな。

 なんて思ったところで私は冷静さを取り戻した。


「急に恥ずかしくなってきた……。私の自撮りなんて誰も得しないのに。そもそも私は可愛い女の子じゃないっていうね。うぬぼれて自撮りした自分を想像したら怖気が走ってしまった……」


 どうせ撮れるのは心霊写真と言って差し支えのないものだ。私は幽霊みたいに表情が暗いことに定評がある女の子だからね。

 ふう……、そんな現実を思い出して我に返ってしまった。

 なんだか自分の格好がどんどん恥ずかしくなってきてしまった。ひゃー、顔が熱い。何が開放感だよ、何が自撮りだよ。私はバカじゃないかな。


 早く着替えようっと。

 えーと、ジャージジャージ。サメのリュックからジャージを取り出す。あ、先にウエットティッシュが出てきた。血を拭いてしまおう。


「ああ~。ウエットティッシュの湿り具合が気持ちいい~」


 拭き拭き。拭き拭き。胸の谷間とかお腹とかを拭き拭きした。背中もできる限り拭いたけど、たぶん手が届いていないところがある。それはしょうがないかな。諦めようと思う。

 ジャージを取り出して袖を通した。


「よし、お着替え完了~♪」


 相変わらずジャージの下の素肌がスースーする感じだけど、頑張って気にしないことにする。

 さあ、次は綿毛花を採取するぞー。

 ポーションを飲んで元気いっぱいだし、私はテキパキ動いで採取しまくった。


 よーし、百本以上ゲットしたよ。マルタさんから預かったバッグに綿毛花を山盛り入れた。あと、私のサメのリュックにもパンパンになるまで入れたし、アイテム空間の空きスペースにもめいっぱい入れておいた。


「これだけいっぱいあればマルタさんに喜んでもらえるかな」


 バッグとリュックから白い綿がいっぱい飛び出ている。傍から見たら変な人に見えるかもね。


「まあいいか。花の女子高生なんだし、花をいっぱい持っててもおかしくないでしょ」


 いくら私でもきっと可愛く見てもらえるんじゃないかな。


「よし、帰ろう」


 今日はもう戦闘はなし。これ以上は頑張る気力はないよ。それに、お腹が空いちゃったよ。


「あー……。広場で何か食べようかな」


 美味しいんだよね。ダンジョンフォーク料理。

 ステータスアップするから帰り際に食べるのはちょっともったいない気はするけれど、今のお腹の減り具合だと美味しそうな香りに引き寄せられちゃうかもしれない。


「おっと、危ない」


 来た道を帰るところだった。別の道から帰らないと。キラーホーネットがまだうろうろしているかもしれないし――。


「考えてみたら、こんなに綿毛花を持った状態でキラーホーネットに襲われたらどうしようか」


 走りづらくて逃げられないかも。

 キラーホーネットはもちろん、できる限り他のモンスターにも見つからないように帰ろうと思う。

 ダンジョンの入り口を目指して進んで行く。私は帰りに何を食べようかを考えながら、気配をできるだけ消して歩いて行った。



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