第58話 VSブラッディマンティス3

 出血が止まらない。どんどん身体から血が足りなくなっていくのを感じる。

 ポーションを飲む? いや、考えられない。だって今、身体も心も最高に熱くなっているから。ポーションは身体を冷ますから今はダメだ。

 ブラッディマンティスが右の鎌を斜めに振り下ろしてくる。


「甘いよ!」


 私はハンマーを強く振って鎌にぶつけた。一瞬だけ力が拮抗して止まったけれど、私が押し勝った。


「ふぐっ!」


 ハンマーを振って身体をひねったせいで血がドバっと出てきた。死にそう。でも、まだまだいけるよ!


 左の鎌が私に襲いかかってくる。

 私はハンマーを瞬時に逆方向に振り返して鎌にぶつけた。

 さっきより力が入ったのか完全に私が押し勝つことができた。パワー負けした左の鎌が横に大きく開かれる。ブラッディマンティスが一瞬だけ悔しそうな表情を見せた。


 今だっ――。隙ができたよっ。

 私はブラッディマンティスの懐に飛び込んだ。


 ブラッディマンティスのボディががら空きになっている。ここでいっきにかたをつけるんだ。

 私は叫びながらハンマーを両手で持って上から振り下ろした。


「うああああああああああああああああああああっ!」


 しっかり入ったよ。ブラッディマンティスの右目と頭部を潰した感触がある。イヤな音で悲鳴みたいなのが聞こえてくる。

 もう1回ハンマーを振りかぶって叩きつける。同じところをさらに押し潰した。


「まだまだー!」

 次は横からハンマーを叩きつけた。首を折ってみせるっ。

「……っ、思ったより硬いっ」


 ダメだった。

 でも攻撃の手はゆるめない。ボディを狙ったり腕の付け根をねらったり、あらゆるところを叩きまくった。


 ブラッディマンティスが弱っていくのを感じる。

 右の鎌が動く動作が見えた。ハンマーで防御――。絶対に間に合わない。攻撃に集中しすぎちゃった。


 ブラッディマンティスは私がもうあと少しで死ぬのを察知しているんだと思う。右の鎌にはたいした力は入れられていないようだけれど、その分、速いスピードで私の左の脇腹をめがけて繰り出された。


「ぐぬっ!」


 なりふりかまっていられない。浅い斬りつけでも、今の状態で脇にもらったら私は戦えなくなる恐れがある。だから――。


「うひーーーーーーーーっ!」


 イヤだけど、私の闘争本能がそうしろっていうから左手を全開に広げて鎌を受け止めた。そして、指を閉じてしっかりと鎌をつかんでしまう。


「痛ったああああああああああああああああい!」

 大粒の涙がポロポロ出てきた。

「もうーーーー、カマキリなんて大っ嫌いーーーーーっ」


 右手でハンマーを思い切り振り上げる。自分でも隙だらけだなって思ったけど、本当にそうだったみたい。

 最後の生命力を振り絞るようにして、ブラッディマンティスの顔が大接近してきた。


「うわ、きもっ!」

 なんて言っている間に、私の左肩にかぶりつかれてしまった。

「うわああああああああああああああああああああっ!」


 大きな悲鳴をあげてしまった。

 死んだ? 食べられた? いや、まだ生きてる。で、でも――。なんて恐ろしいんだろう。私の肩を骨ごと食べてしまいそうな意志を感じる。


「そんなこと――! 絶対にさせないから――!」


 私は右足を思い切り蹴り上げた。ブラッディマンティスのボディに下から強い衝撃が走る。おかげで噛む力が弱まった。

 ハンマーの柄をブラッディマンティスの顔の横にぶつけてやる。


 やってみたらブラッディマンティスの左目に上手いこと当たったみたいで、悲鳴をあげながら天を仰いでいた。

 隙だらけになってる。大チャンスだ。


「これで終わりだよ!」


 一歩だけ後退する。それから牙をむき出しにするつもりになって、全身全霊の力をハンマーに込めた。そして強く強く振り下ろす。


「てえええええええええええええええええええええええいっ!」


 ぐしゃっとブラッディマンティスの頭部を完全に潰すことができた。

 ブラッディマンティスは悲鳴にならない悲鳴をあげて、横にゆっくりと倒れていった。そして、地面に横たわってピクピク痙攣している。


 しぶとい。まだ生きてるんだ。いや――。命はもう尽きている。ゆっくりと生命が終わりに向かっていくのを感じた。


『ブラッディマンティスを討伐しました』


 討伐メッセージが表示された。もうブラッディマンティスが起き上がることはないだろう。

 私は天を仰いだ。そして笑顔になった。両手を掲げる。


「やったー! 勝ったー! 大満足ー!」


 あー、爽快感がすっごーい!

 仰向けに寝っ転がろーっと。


 ……ん? って、うおおおお。危ない危ない。背中が切り傷だらけだったのを忘れていたよ。仰向けに寝っ転がったら余計なダメージを受けて私は死んでしまうかもしれなかった。

 ハンマーを杖みたいにして地面につける。そうすることでどうにか崩れかけたバランスを保つことができた。ふう、危うく自滅するところだったよ。


 ハンマーの柄におでこをつけるようにして休む。そして、息を整える。

 目の端でHPを確認した。残り1だった。


「あー、しんど。我ながらギリギリの戦いすぎるね……」


 闘争本能をむきだしにしてハイになっていなかったら死んじゃってるかも。でも、楽しいからやめられないな。

 身体はボロボロなのに、私は満足感たっぷりにニヤニヤするのだった。



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