第55話 発見
はあ……、はあ……、はあ……。
「つ、疲れた……」
ここまで長いあいだ全力疾走をしたのは、入学早々にクラスメイトにダンジョンで置き去りにされて以来だよ。
「ど、どうにかキラーホーネットから逃げ切れたよ……」
小道に入ったり木に隠れるように逃げてみたりと、なるべく身体を隠しながら走っていたらどうにかこうにかまくことができたよ。
「巣からあるていど離れたら追跡を諦めるんだろうか……」
ただの想像だけど、その可能性はわりとあるよね。
もうたくさんのキラーホーネットに追いかけられるのはコリゴリだから、巣の場所になんとなくでもあたりをつけておこうっと。それで絶対に近づかないようにしないとね。
仮に毒消しの用意があったとしても、あの数のキラーホーネットは相手にできるものじゃないからね。本当に生きた心地がしなかったよ。
ああ……、息が切れているし足に疲労がずいぶん溜まっちゃっている。
「ちょっとポーションを飲もうかな……」
……いやー、もったいないね。ポーションは私の命綱だ。何かあったときのためにしっかりとっておかないと。
たとえ私が使わなかったとしても、このあいだみたいに重傷の人に売ったりすることだってあると思うし。
手でスカートを抑える。ひとまず危機が去ったことを実感したら、急に恥ずかしくなってきた。
「スカート、絶対にめくれてたよね……」
途中、誰かに見られてないといいけど。
誰ともすれ違ってないから大丈夫だとは思うけど。もしも見られていたら恥ずかしい。
……。……。……いや、その心配はいらないかな。
男の子がもしも私のスカートの中をのんきに見ていたら、今頃はキラーホーネットに囲まれて大変なことになっているだろうし。
悲鳴とかが聞こえてこなかったし大丈夫だと思う。
ふう、息が整ってきた。
「ここ、どこだろう」
帰り道がどっちの方向かは分かるけれど、どのくらいダンジョンの奥にまで来てしまったかは分からない。それくらい無我夢中に逃げてしまったから。
「同じ道を戻る気にはなれないな……」
道中に綿毛花があったかもしれないけど、キラーホーネットがまだ警戒態勢にあるだろうから戻れない。
ちょうど横に小道があるし、そこに行ってみようか。
角度的にダンジョンの奥に向かうわけじゃないから、そんなには怖がらなくていいはず。
まだ足が疲れているし小股でゆっくりと小道に入って行く。
中学のときのマラソンの後もこんな感じの足の疲労感だったなーってちょっと思い出した。マラソンの授業、イヤだったなー。
私は土の壁に手をつきながら歩いていった。少しでも足への負担を減らして回復しないとね。
そうして1分くらい歩いたら視界が開けた。けっこう広いエリアに出たみたいだ。
「あ、白い花がいっぱいある」
……ん? ……あれ?
違った。花じゃなかった。
はやる気持ちを抑えつつ、歩いてお花畑に入って行く。なんだか知っている香りに包まれた気がした。いつも身にまとっているような香りだね。
私は少し屈んで白い花に見えたものに触れてみた。
ふわっふわっの毛玉みたいな花かな? いや、違った。これは花に見えるけど本当は果実っていう扱いだったっけ。
とにかく服に使うような白い毛がたくさんできている植物を見つけた。
「これが綿毛花だ」
ようやく見つけた。私が採取に来た目的の植物だね。
山のようにたくさん生えているから、いくら採取しても大丈夫だと思う。遠慮なく摘んでバッグに入れて帰ろうっと。
マルタさんからはできるだけたくさん摘んできて欲しいと言われている。とても大きな布製のバッグを預かっているし、私のサメのリュックとアイテム空間にも綿毛花を入れられる。めいっぱい詰め込んで帰ろうって思ってるよ。
生ものじゃないし、あればあるだけ嬉しいはずだからね。張り切って摘もうっと。
「ただ、問題は――」
私のこめかみをイヤな汗が流れた。緊張感によるものだ。
少し先に、私よりかなり背の高いカマキリがいる。体色は血のような赤。
私の首を狙っているのか、殺意満々で凝視してきている。
「あのカマキリをどうにかしないとだよね――」
正直、これ以上歩き回って別のところの綿毛花を探す気力はない。
心臓の奥底から闘争本能がふつふつと湧き上がってくるのを感じる。身体が言っている。さあ、あいつを倒せと――。
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