第54話 VSキラーホーネット
キラーホーネットが天井付近をブンブン飛び回っている。
決して私から目を離さない。複眼がしっかりと私をとらえているね。
サーベルみたいに鋭くて長い針が私の心臓に向けられた。
まばたきするのが怖い。まばたきをしてしまった瞬間にもしも襲いかかられてしまったら、あの針の攻撃を回避するのは不可能だと思う。
あの針には毒があるから、刺さってしまったら急所を外れていたとしても私は死んでしまうと思う。何がなんでも回避優先で立ち回らないと。
少し、目がつらくなってきた。
後退しながら一回だけまばたきをしようか。そうしないとこれからどんどんつらくなると思うから。
一歩、下がってみた。
「うわ、来た!」
キラーホーネットが針を私に向けて突っ込んできた。
めちゃくちゃ速い。
やっぱりまばたきなんてしていたら絶対に回避できなかった。でも――。
「ちゃんと見えてるよ」
ひょいと横ステップで避けた。
キラーホーネットの大きな羽が私の腕を少しかすめていく。
「今度はこっちの攻撃!」
と思ったけど、ハンマーを振りかぶる間に、もうキラーホーネットは高いところに上がってしまった。
ダンジョンの天井はけっこう高い。ハンマーを伸ばしてもぜんぜん届かない。
飛び道具でもあれば攻撃できるけど、武器はハンマーしか持ってないんだよね。
今のうちにまばたきをいっぱいしておく。
「さて、どうしようかな……」
一か八かでかわしながら攻撃するしかないか。
キラーホーネットの動きを見てからハンマーを振りかぶっていたんじゃ遅すぎるって分かったし。今のうちから構えておかないとダメだよね。
「なんだかちょっと野球の気分かも」
野球のバッターの構えとはちょっと違うけどね。
野球はたしかバットを立てるよね。私は水平方向にハンマーを引いて構えたからちょっと違うかなって思う。
昔、近所の子たちとちょっとだけ野球をやったことがあったのを思い出した。あのときは下から軽く投げてもらったのに、あんまり打てなかったなー。
……キラーホーネットが飛び込んでこないね。
私がスキを見せる瞬間をうかがっているんだろうか。じゃあ、また私が動いたら襲ってくるかな。そうだと信じて、また後ろに一歩移動してみようか。
少し、緊張する。反撃に失敗したらたぶん私は刺されるから。でも、やるしかない。
右足を一歩、後退させてみた。
「きた!」
私はハンマーを握る手に力を強く込めた。
キラーホーネットの針が私の心臓を狙ってくる。もの凄いスピードだった。
避けなきゃって直感したのに、期待よりも足が実際に動くのはだいぶ遅かった。
うわー、針が当たりそう――。
でも、目をつぶったりはしなかった。キラーホーネットの身体のツヤとか毛とか、気持ち悪い目とかをはっきりと視界に入れながら、身体をギリギリのところでひねるようにしてどうにかかわした。
少しだけ、制服の裾にかすちゃったみたい。でも、避けきれたよ。
「たああああああああああああああああああっ!」
野球でいえばかなり振り遅れている。でも、私は渾身の力でハンマーを振り抜いた。この一撃で必ずキラーホーネットを倒すんだ。
もしも倒しきれなくて接近戦にでもなったら……。そのときはきっと針を避けられないと思う。だから渾身の力でキラーホーネットの身体を潰しにかかった。
「うあああああああああああああああああああーーーーーっ!」
気持ちいいくらいにハンマーを振り抜くことができた。
急に重さを感じなくなって、私はハンマーを持ったままぐるぐる回転してしまった。
キラーホーネットは20メートルくらいは先にある壁に身体を打ち付けていた。そして、力なく地面に落ちていく。
「はあっ、はあっ、はあっ、逆転ホームラン、だね」
少し観察する。キラーホーネットが動く様子はない。
念のためとどめを刺さなきゃ。そう思って歩き出したところでメッセージが表示された。
『キラーホーネットを討伐しました』
あー、怖かった。ちゃんと倒せて良かった。
攻略推奨レベルが自分のレベルよりも低い相手に負けるのはかっこわるすぎるし。
「ふう、なんだか身体があったまってきちゃたな」
もう一戦くらいやった方がすっきりするかも。私はハンマーを肩にかついだ。
なんかちょうど良い感じのモンスターがいないかな。そんなに強くないモンスターがいれば戦いたいんだけど。
って、なんだかブーンって音がいっぱい聞こえてくるんだけど――。
私は本能的に音のする方向を見てみた。ゾッとした。
「た、たしかにあなたたちはもう一戦するのにちょうど良い相手かもしれないけど……。私、一度にそんなにたくさんは相手にできないよ!」
奥の道の一つからキラーホーネットが大量に湧いて出てくる。10匹、いや、20匹はいるかな。うじゃうじゃいすぎて恐ろし過ぎる。
たぶん巣があるんだと思う。仲間が殺されたことを察知して怒って出てきたんだ。
「ムリムリムリ。こっちにこないでー!」
私は泣きそうな気持ちになりながら全力疾走をした。
逃げ切れなきゃ確実に死んでしまう。レベルがけっこう上がっているから走るスピードはかなり速くなっているけれど、それでも逃げ切れるかどうか。
「生きる。生きる。生きる。絶対に生きてやるぞーーーーーーっ」
私は叫びながら全力疾走を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます