第53話 4番通路のレッドゾーン
もうレッドゾーンに入ってる気がする。
明らかに周囲の緊張感が増して、お肌がピリピリするから。
ここまで来るのに1時間もかからなかったな。レベルが高くなって早足する速度が上がってるんだと思う。
時間短縮できた分、じっくりとレッドゾーンを歩いてみようと思う。
「ここはお花畑がたくさんあるんだね」
開けたエリアに入るたびに色とりどりのお花畑がお出迎えしてくれる。木もちょくちょく生えてはいるけど1番通路の森ほどじゃないかな。4番通路のレッドゾーンの特色が何かと聞かれたら私はお花畑だと思う。
「レッドゾーンって通路によって特色があるんだっけ」
あまり意識してなかったけど、他の通路のレッドゾーンに行くことがあったら違いをチェックしてみたいかな。とりあえず4番通路はお花畑で、1番通路は森だった。他はどんなところだろうか。想像するとちょっとわくわくするね。
「あ、モンスターだ」
身体が大きく太めの白うさぎだ。立派な牙が生えているし、腕が長くて大きい。二足歩行タイプで背は私の胸くらいの高さがある。
「攻略サイトで予習してるから知ってるよ。攻略推奨レベル55のモンスターだね」
いい勝負になりそうだけど、今日の目的は戦うことじゃないんだよね。だからスルーする。
私は土の壁に沿うように歩いてサッと次の道に入った。白うさぎが追ってくる気配はない。凶暴性は低いモンスターだったのかもね。
「さて、そろそろ目的の綿毛花を探さないとね」
お世話になっているマルタさんのためだ。一生懸命に頑張ろうと思う。
「今日はクエスト達成を最優先にしよう。もしも戦いたくなっても控えないとダメ」
身体がうずうずしても戦わないよ。今日は植物採取が目的だからね。本当に絶対に戦わないつもりだ。
もしもボロボロになって帰ったら、マルタさんもリルリルさんも心配するだろうし。
「いやでも、無傷とか軽傷とかでさくっと戦える相手なら……」
さっきの白うさぎくらいならちょうどいいような気も。いやでも私よりも格上だからムリかな――。
「って、私は何を言ってるんだよ。ちゃんと綿毛花を探す仕事をしないとだよ」
土の道を歩いて行くと、軽く負傷したジャージ姿の女子たちとすれ違った。
ジャージはところどころが破れたり傷んだりしている。口の端に血の跡がついている女子もいる。それにかすかに血の香りがする――。
たぶん、誰か一人が重傷を負ったんだと思う。ポーションを飲んで元気になってるんだと思うけど、血の香りまでは消せなかったようだ。
「ああ……、ぞくぞくする」
こっそり呟いた。あの女子たちは命がけの戦いをしてきたんだね。私も近いうちにまたやりたいなって思った。
土の道を進んで行く。何度もお花畑が広がるエリアに出た。
もう30分近く歩いただろうか。正直、もっと簡単に目的の綿毛花が見つかると思っていた。ちょっと焦り始めてきたよ。
あんまり奥の方には行きたくない。私みたいに弱っちい女の子なんか瞬殺してしまえるモンスターがたくさんいそうだし。
このあたりで綿毛花が見つからなかったら、いったん出直すことも考えないと。
「あ、なんか白いお花畑があった」
あれが綿毛花だろうか。綿毛花は花弁が白いって聞いてるし。
お花畑に入って行く。あ、違った。普通の白い花だった。
「なんだ。残念」
ぬか喜びだった。
なんかもういっそ誰かに聞いた方が早いのかもしれないね。私、ここに来たのは初めてだし、自力で見つけるのはそもそも無理なのかもしれない。
「ただ、コミュ力の低い私が欲しい情報を得られるかどうか……」
もしかしたら情報料とかを請求されるかもしれない。ていうか、知らない人に声をかけるのがそもそも私にはハードルが高いっていうね。ぼっちは人と会話をするだけで勇気が凄く必要なんだよ……。
「むむむ、困ったな……」
……。……。……むー。私の生存本能的な何かがぞわぞわし始めたぞ。何かに殺意をハッキリと向けられている気がする。
でも、どこからだろう。前でもない横でもない。後ろも違った。ファイアーアントみたいに地面の中から出てくる感じでもない。じゃあ、上かな。あ、いた。
「うわ、ハチだ」
大きなハチだった。背は私の腰よりも高いね。
普通のハチでも怖いのに、あの大きさは怖すぎるよ。
うわー、長い針を私に向けてるよ。げげげげげっ、信じられないスピードで迫ってきたよ。殺意がすっごい。
「うわわわわわわわっ!」
ギリギリのところでジャンプするようにして針を避けた。
「あぶなーっ!」
接近に気が付いていなかったら今ので死んでいたかもしれない。
『キラーホーネットが現れた』
メッセージが表示されてモンスター名が分かった。スマホで見たことのある名前だった。攻略推奨レベルはたしか40くらい。
針を使った攻撃はとても単調だから避けやすいけど、もしも刺されてしまったら確実に毒状態になる。だからできる限りは戦うなって書いてあったはず。
「毒消しなんて持ってないな。ははは……」
やばい状況すぎて笑えてきた。
できる限りは戦うなって言われても、向こうから襲ってきたときはどうすればいいんだろうね。
ブーンと羽の音を鳴らしながらキラーホーネットが旋回してくる。また私を針で狙う気みたいだ。殺意高すぎでしょ。私、歩いてただけなんだけどな……。
「覚悟を決めないとダメみたいだね」
私はハンマーの柄を握った。
今日は戦うつもりなんてなかったのにな。レッドゾーンはそんなに甘いところじゃないみたい。私はキラーホーネットの目をしっかりと見て間合いを取った。
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