第52話 クラスメイトとおしゃべり
鳶崎さんとお友達が足を止めた。おしゃべりにちょうどいい距離感だ。どうやら鳶崎さんは私とおしゃべりをしてくれるようだね。
「やっほー。ちょっと意外かも。千湯咲さんもダンジョンに来てたんだね」
「う、うん。実は毎日のようにダンジョンに来てて」
「えーっ、私もそうだよ」
「そ、そうなんだ」
「私たちって学校では話をしたことがなかったけどさ、実は趣味が同じだったんだね」
「ちょっとびっくりかも……。鳶崎さんって凄く大人しそうなのに」
「千湯咲さんだってそうじゃない」
お互いにどう見ても運動が苦手そうなタイプだよね。
「鳶崎さんってモンスターと戦って平気なの?」
「あー、私は補助担当みたいな感じで。戦いはこの人に任せっきり」
鳶崎さんのとなりにいる女子が、「どもー」とかなり明るく挨拶をしてくれた。運動が得意そうなショートカットの髪型の女子だ。私や鳶崎さんとは違ってお肌は日によく焼けていている。
この二人は高校では別の進路になってしまったけど、小学校1年生から中学校卒業まではずっと一緒で仲良しなんだって。私には同じ学校の仲の良い人がいないから、素直にとてもうらやましかった。
「千湯咲さんは一人で戦うの? ハンマーを持ってるもんね」
「うん。やってみたらけっこう楽しくて」
「うわ、楽しめちゃうんだ。凄いなぁ。印象が変わったかも」
「自分でもそう思ってる」
教室でトップクラスにおとなしい私が、本能をむき出しにして鈍器で戦ってるんだもんね。びっくりだよね。
「千湯咲さんはこれからクエストで戦いに行く感じ?」
私は首を振った。
「違う。これからレッドゾーンに行ってくるけど今日は戦わないよ。今日はお世話になってるダンジョンフォークさんからの依頼で、採取クエストをやらないとだから」
「は……?」
鳶崎さんが目をきょとんとしていた。
「え、なに、千湯咲さんってダンジョンフォークの人と仲良くなってるの?」
「うん。仲良くしてもらってる」
「物を売り買いするだけの人たちだと思ってたんだけど」
「そうなの? 世間話とかよくするよ?」
鳶崎さんたちはぜんぜんそういう話をしたことがないんだそうだ。
私、学校の授業の話をしたりとか、リルリルさんのご家庭の話を聞いたりとかよくするんだけどな。
「で、千湯咲さんの行き先はレッドゾーンって言った?」
「うん。危険地帯の」
「人がポンポン死ぬっていう場所でしょ? 女の子が一人で行って大丈夫なの?」
「わりとどうにかなったよ。まあ、準備はしっかりしていかないと危ないけどね」
「すご。私なんてまだレベル6だから弱すぎてぜんぜん行けないよ。入学してから何度も何度も来てるんだけどなー」
え、まだそんなにレベルが低いんだ。私はレベル45だ。来る頻度は同じくらいみたいなのに、私たちはずいぶん差がついてるんだね。
「もしかして、千湯咲さんって黒鈴さんたちと仲が良かったりする? あの人たちもガチ勢だよね」
黒鈴さんって、私をレッドゾーンで置き去りにしたにっくきクラスメイトたちだ。たしかにあの人たちはガチ勢だけど……。
「嫌いな人たち」
はっきりと言っておいた。仲良しって思われるのは嫌悪感しかないし。
「あ、そう……。ごめん、変なことを聞いちゃって」
「別に……」
「でも、気をつけてね」
私は首を傾げた。
「黒鈴さんたち、ちょっと前に凄くイヤなことがあったみたいでさ。荒れてるみたいなんだよね」
イヤなこと……。それはきっと私が瀕死の黒鈴さんにポーションを高値で売ったことだと思う。
私は命の恩人のはずだけど、黒鈴さんたちとしては激怒しているかもね。私から無償でポーションをもらうつもりだったみたいだし。
「ちなみに、荒れてるってどういう感じ?」
聞いた話なんだけどね、と鳶崎さんは少し強張った表情で周囲を一回確認した。そして、耳打ちをするように顔を近づけてくる。
「わざと危険なモンスターたちにちょっかいを出してね、慌てたふりをして逃げながら他のグループにわざと合流してくるらしいよ。それでモンスターの注意がそれたら、黒鈴さんたちは笑いながら立ち去るの」
「たちが悪いなんてものじゃないね……」
やられたらたまったものじゃないよ。怖すぎる。もしも私がそんな酷いことをされたときは反射行動でパッと逃げようと思う。
「千湯咲さん、本当に気をつけてね」
「うん。ありがとう。鳶崎さんたちも気をつけて」
鳶崎さんの友達が「行く?」と聞いてくる。鳶崎さんが肯定した。二人は次の道を左に曲がるらしい。私はこのまままっすぐだ。
楽しいおしゃべりの時間はここまでだね。鳶崎さんが小さく手を振ってくれた。
「じゃあ、ここでお別れかな」
私は、だねって相槌を打った。
「千湯咲さん、ファイアーアントの倒し方を知ってたら今度教えてね。私たち、あいつに苦戦してるから」
「ヒュッて避けて、ゴルフみたいにパカーンって攻撃する感じでいけるよ」
「あはは、なにそれ。じゃあ、また学校でねー」
「うん。バイバイ」
二人と手を振って分かれた。背中をしばらく見送った。
「……。……。……ひさしぶりにクラスメイトと長時間の会話ができてしまった」
今日は良い日かもしれない。心がウキウキだ。
「でも、今度一緒にクエストをしようね、みたいなお誘いはなかったな……」
まだ鳶崎さんから命を預けてもらえるほどの信頼は得ていないようだ。
もっと交流して信頼をつかみとらないとなーって思った。まあそれって、私には凄く難易度の高いことなんだけどね。
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