第51話 マルタさんのクエストへ
明くる日。放課後になってすぐに私はダンジョンへとやって来た。
私、学校にいるときはテンション低めだけど、ダンジョンに来ると一瞬でテンションが上がるんだよね。
ああ、気分が高揚するなー。さあ、今日もポーションを作ったり楽しい冒険をしたりするぞー。
特に今日は冒険が楽しみ。マルタさんから依頼のあったクエストでレッドゾーンに行くからね。
ひくひく……。あれ、私の鼻が反応した。
「なんだか良い香りがしてきたんだけど」
広場の調理エリアにある屋台からの香りだった。うわあ~、美味しそうな料理の香りが漂ってくるよー。
「こ、これはやばい……。成長期の私のお腹にクリティカル攻撃だよ……」
ふらふらーっと誘われそうになってしまうけど今日は我慢だ。
「我慢……、我慢……」
いつもいつも食べていたらすぐに太ってしまうからね。
今日はお腹が鳴ってないし、そういうときは我慢するって決めてるんだ。私は花の女子高生。見た目にも気をつけたいお年頃だからね。
まあ、大変なクエストをしようって決めたときには遠慮なく食べるけどね。ダンジョンフォーク料理はステータスが一時的にだけどアップするから、強いモンスターの討伐クエストをするってなったときには本当に凄く役に立つから。
遠くで生徒会長ーって呼ぶ声が聞こえてくる。
「生徒会……か」
そういえばうちの学校の生徒会って、ダンジョンの見回りを始めようとしてるとかなんとか噂があったっけ。クラスの人たちがそう話してたんだよね。
本当に始めるのかな。じゃあ今は見回りの前に生徒会のみんなで屋台でお食事かな。ちょっと良いなって思った。私は何の組織にも属していないから屋台に行くときだって一人だからね……。
「ま、まあいいや。とりあえず今日は食べるのは絶対に我慢。気を取り直して、さあ4番通路に行くぞー」
よーし、行くぞーと意気込みたいところだったけど、その前に――。リルリルさんが広場に来ていたらポーションを売りたいな。
ささっと露店を確認する。
うーむ、リルリルさんはまだ来てないみたいだった。残念無念……。
あ、でもマルタさんを見つけたよ。ちょうど露店を出しているところだった。服を丁寧にハンガーラックにかけているね。
「マルタさん、こんにちはー」
「あ、紗雪さんこんにちはー」
ニコッと笑顔で振り返ってくれた。
「これからいってきますね。綿毛花をたくさん採ってきますー」
「はーい、よろしくお願いします。いってらっしゃーい!」
元気に手を振って見送ってくれた。
マルタさんからパワーをもらった気分だ。明るい気持ちで4番通路へと入って行く。
「転移魔法陣を使えたら楽なんだけどなー」
私、まだ4番通路からはレッドゾーンに行ったことがないしクエストを攻略したこともないんだよね。だから1時間くらい歩いて行かないとレッドゾーンには入れないんだ。
レッドゾーンのクエストを攻略さえすれば、それ以降はその通路のレッドゾーンに転移魔法陣でワープできるんだけどね。あ~、ワープしたかったな~。
「めちゃくちゃだるいけど、薬草とマナの輝石を探しながら歩いて行こうっと」
しばらく4番通路には来てなかったし、薬草がけっこう生えてるんじゃないかな。
「薬草ってHPがぜんぜん回復しないから、私以外は誰も興味を持たないみたいなんだよね」
毎日コツコツゲットしているのは私くらいのもの。だから私が薬草を採りに来なければけっこういっぱい見つかるんだよね。
きょろきょろと薬草を探しながら4番通路を進んで行く。
「お、さっそく1本発見~」
土の壁と地面のちょうど間から斜めに生えていた。グッとつかんでポンッと引っこ抜く。サメのリュックに薬草を放り込んだ。
あ、後ろから誰かが歩いてくる音がする。
私が急に歩き出したらびっくりさせてしまうかな。タイミングが微妙だし、道を先に譲ってあげようと思う。
私は壁際に寄ったまま後ろから来た人たちが通り過ぎるのを待った。
歩いて来たのは二人組の女子だった。一人は私と同じ制服で、もう一人は別の学校の制服を着ている。あれ、同じ制服の方の女子が私を見つめているぞ?
「あれ? 千湯咲さん?」
「……。……。え?」
「千湯咲さんだよね」
まさか名前を呼ばれるとは思わなかった。
私の名前を呼んだのは同じ制服の女子だけど……。あ、顔を改めてちゃんと見てみたらハッとした。今まで話したことはなかったけど私と同じクラスの人だった。
ええと、ええと、思い出せー。唐突すぎて名前が出てこない。別にイヤな人じゃないからちゃんと名前を覚えてたんだけどな。初交流の人だからスッと名前が出てこないよ。
眼鏡をかけていて、私と同じような長い黒髪で――。大人しそうで。ちょっと珍しい漢字だったはず。あ、思い出した。
「
ニコッと社交的なスマイルをくれた。あんまり表情の出ない私と違って鳶崎さんはスマイルが得意みたいだ。お互いに大人しそうなタイプの女子なのに、私は鳶崎さんにはまったくかなわない気がした。
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