第49話 薬草集め

 私、千湯咲紗雪ちゆさきさゆきはクラスに友達のいない、地味で静かなタイプの女の子だ。学校の休み時間のときはいつも一人で過ごしているし、お昼だっていつも必ず一人だ。

 そんな私だけど、命のやりとりをするダンジョン通いがやめられなくなっているんだよね。


「すっかりダンジョンにはまちゃったなぁ」

 毎日のように、学校から制服姿のままでダンジョンに来ているよ。

「今、私のレベルは45。初心者はとっくに卒業してるよ」


 思えばずいぶん成長したものだ。

 おかげでパワーもスピードも上がったし、なんだか戦いの駆け引きも上達した気がする。


 ん? 足元から殺意が迫ってきている気がするぞ。たぶん、逃げないとやばいやつだ。

 私は察知した瞬間にピョンと横に跳んだ。

 するとさっきまで私がいた地面がボコッと隆起した。


 何かと思ったら土の下からモンスターが出てきたようだ。

 あれはファイアーアントだね。小型犬くらいの大きさがあるありんこだ。ダンジョン初心者をよく痛い目を遭わせることに定評のあるモンスターだね。


『ファイアーアントが現れた』


 っていうメッセージが私の視界に表示された。いつもながら表示がちょっと遅い。ちゃんと分かってるよ。


「また私の足首に噛みつこうとしてたんだね」


 このファイアーアントってモンスターは非常に強い酸をかけつつ噛みついてくるものだから、噛みつかれた箇所がどんどん溶けていくんだよね。

 ちょっとムカッとした。以前、重傷を負わされたときの痛みを思い出したからだ。あれは本当に痛かったよ。


「まったく。ファイアーアントの討伐クエストでもないのに出て来ないでよね」


 私は愛用のハンマーを装備すると、いっきに間合いを詰めた。そして、土をえぐるようにしてファイアーアントのボディーを攻撃する。


「てええええええええいっ!」


 土と一緒にファイアーアントが遠くに飛んでいく。ま、一発で倒せたでしょ。昔の私からしたら強いモンスターだったけど、もうファイアーアント程度じゃ私の相手にはならないよ。


『ファイアーアントを討伐しました』


 やっぱり一発KOだね。

 ファイアーアントが仰向けに倒れて動かなくなっている。私は興味をなくして、ダンジョンの奥に向かってまた歩き始めた。


「薬草、あるかなあ」

 経験上、この少し先に2本くらい生えているはず。

「最近はポーションを作るペースが上がったから、素材集めが追いつかないことがよくあるんだよね」


 だからせっせと薬草を集めないといけない。

 お、スライムがのんきに歩いていたから踏んづけた。あ、マナの輝石がドロップしたよ。これもポーションの素材だからラッキーだ。

 マナの輝石ってドロップ率が微妙なんだよね。もっと出てくれるといいのに。スライム以外のモンスターからもマナの輝石ってドロップするらしいけど、私は解体スキルがないから他のモンスターからは採取しづらいんだよね。


「あ、良かった。思った通り薬草もあったね」


 予想通りに2本あった。

 毎日ダンジョン通いをしていると、薬草が今どこに生えていそうかがなんとなく分かるようになってくるね。予想が当たって嬉しいよ。

 薬草を2本とも引っこ抜いてゲットした。これでポーション同時作成に必要な素材が集まった。さっそくスキルを発動できる。


「スキル〈ポーションクリエイト〉発動~」


 ポーションを3個同時にクリエイトしたよ。できあがるのが楽しみだ。るんるん気分で待つことにする。

 ハズレスキルって言われた〈ポーションクリエイト〉だったけど、結果的に私にとっては大当たりだったんだよね。

 ポーションを作るだけで楽しいし、経験値はどんどん入ってくるし、お金も貯まっていくし、怪我をしたときにだって役に立つし、本当に良いことしかないんだよね。


「さて、今日はこのくらいかな。広場に戻ろうっと」


 もういい時間だ。あんまり夜遅くなるのはよくないし、このへんにしておこうと思う。

 広場に着く頃にはちょうどポーションができあがるんじゃないかな。

 帰り道、いつもとはちょっと違う道を通ったら薬草とマナの輝石を1個ずつゲットできた。凄くラッキーだったから、私はまた嬉しくなってしまった。



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