第48話 紗雪の日常4
家に帰ってきた。
チャックを下ろしてジャージを脱ぐ。スカートも脱いだ。可愛いブラジャーと黒タイツ姿になった。
「んー……。どうせこのままお風呂に入るし、部屋着には着替えなくていいかな」
着替えとスマホを持って脱衣所に来た。お風呂はもう沸かしてある。
ブラジャーのホックを外す。
半日ぶりに自由になった乳房が嬉しそうに弾んだ。
「ああ~、一日の中でこの瞬間が一番スッキリするかも」
窮屈な日常からの解放感が素晴らしいよ。
ブラジャーをポイッと洗濯機に入れる。続いて黒タイツとショーツも脱いだ。
裸になってスマホを持ってお風呂に入る。
まずはシャワーを浴びて身体を綺麗にする。身体は胸の下から綺麗に洗っていったよ。それから時間をかけて丁寧に髪の毛をお手入れした。
ふう、身体の隅々まで綺麗になれた。私は脚をあげて湯船に入った。
「ううー……、幸せな時間だ」
脱力した感じにだらーんとお湯の中で伸びる。あーうー、身体も心もお湯の温かさにとろけていきそうー。
三分くらいそうやってだらーんとしていた。
「そうだ。レイジングオークのことを調べよう」
スマホをタップしてダンジョンの攻略サイトを開いた。えーと、なになに……。
「レイジングオークの攻略推奨レベルは80。これはリルリルさんに聞いた通りだね」
私のレベルは44だったから無謀にも程がありすぎた。
「レイジングオークは、レッドゾーンの序盤に立ちはだかるビギナーの壁的なモンスター。通称、ビギナー殺し。レッドゾーンのモンスターにしては身体が小さいからと、レベルの低い状態でうっかり戦いを挑んでしまうと、痛い目を見るどころか瞬殺される」
怖い……。何人も餌食になっているらしい……。
「非常に好戦的な性格で、人間を見つけたらまず間違いなく襲ってくる。特に女性が好きなようで、生きたまま食べようとしてくるので要注意」
私も食べられそうになったっけ。でも、その瞬間にこそ大きなスキがあった。そのスキをついて大ダメージを与えられたからこそ大逆転できたんだよね。
「モンスターにしては珍しく武器を持っているため、攻撃範囲がかなり広い。しかも、攻撃力はかなり高くて、金属製の盾をゆがませてしまうほどだ」
金属製の盾をゆがませるんだ……。
私、一発で骨をやられたもんね。あれは痛かった。
「防御力はかなり高い。平凡な剣だと皮膚を浅くしか斬ることができない。打撃武器は安い物だと厚い脂肪に衝撃を完全に吸収されてしまう。ケチらずに高い武器を買って装備するべし」
私のハンマーはダメージを与えられたよね。
あのハンマーはリルリルさんからタダでもらったものだけど、もしかしてかなり良いものだったんだろうか。売れ残りって言ってたと思うけど、実は私を心配して良いものを持たせてくれていたのかもしれない。
「リルリルさん……」
私、リルリルさんにはお世話になりっぱなしだ。もっともっと感謝した方が良さそうだね。いつかご恩を返せるようなことがあったら良いな。もっと立派なダンジョン攻略者になったときには必ず――。
私は続きを読んだ。
「攻略方法だが、レイジングオークは頭がわりと脆いんでそこを狙うといい。武器を使った攻撃はやっかいだが、逆に言うと武器に頼り切りなのがこのモンスターの弱点だ。武器を使った攻撃の後には必ずスキができるので、複数人で囲んでいっきに頭を潰すべし」
……なるほどね。
今度もし戦うことになったら頭を集中して狙おう。次はノーダメージで倒したいね。動きはもう理解したし。
私はスマホを置いた。お風呂の天井を見る。
「またダンジョンで戦いたくなってきちゃった」
ぞわぞわ、ぞわぞわ……、闘争本能が湧き上がってくる感じがする。
早く明日になってくれないかな。またダンジョンに行きたいな。
私はますますダンジョンが好きになっていってるようだ。そう強く実感した。
△
学校に来た。修繕中のブレザーは放課後に受け取るから、今日はジャージを着て過ごす予定だ。
昨日、私からポーションを10万ポンで買った赤い髪の女子が私を見ている。一瞬だけ目が合うと「チッ」とか言っていた。
かなり頭にきているみたいだね。でも、死にかけていたお仲間さんはちゃんと元気になって学校に来られてるんだし、良かったんじゃないかなって私は思うよ。
お昼休みになった。
パンを買いに私は購買へと向かった。
どんどん生徒が集まってくる。急いでパンを選ばないと良いのがなくなってしまいそうだ。今日は1個多く買おうかなって思う。また授業中にお腹が鳴ったら恥ずかしいし。
……あれ? 今、ふわっと、桜の花びらが風に舞うような空気を感じた。
誰かが私の横を走り抜けていくところだった。
誰よりも華やかな動きだ。あと、すっごく良い香りだ。
「え? え? え――」
一瞬しか見られなかったけど、信じられないくらいに綺麗な人じゃなかった……? あんなにも綺麗な人がこの世界にいたの? 天使が地上に舞い下りてきたんだよって言われたら信じてしまいそう。
私はついつい足を止めて振り返ってしまった。
その人は風に舞う花びらのように可憐に走っていた。
後ろ姿だけでも圧倒的に綺麗だ。まるで天に愛されている人って感じでキラキラと輝いている。そのせいか誰もがあの綺麗な人を見るために振り返っていた。
あ、でも、怖そうな男性教師に目をつけられてるね。
「こらーっ。廊下を走るなって、いつも言ってるだろうがーっ」
「あははー。ごっめーん。今度から気をつけるから見逃してー」
声まで綺麗だった。もっと聞いていたくなる感じ。
「まさかまたダンジョンに行くつもりか? 俺は何度も言ってるが――」
「うん、心配しても無駄だよー」
「説教させろよ」
「やなこったー」
「じゃあ今度、親御さんと一緒に面談でもするか?」
「それはやめてっ。やったら一生口を聞かないから」
「せーせーするわ」
「あははっ、じゃあ先生、お昼休みは短いからもう行くねー」
忍者みたいな足の速さであっという間に見えなくなってしまった。
「あ、こら、まだ俺の話は。ったくもう」
先生は追いかけることはしなかった。ただ、イライラしてはいるから、お説教は別途あるかもね。
私はパン屋さんに歩いて行った。
パンを選びながら考える。
「お昼休みにダンジョンか……」
ガチ中のガチだね。でも、そうしたい気持ちは分かるかも。
「そのうち、あの人と話してみたいかも」
きっと会話が弾むんじゃないだろうか。私もダンジョンが大好きだし。
それに――。なんだろう、この温かな感覚は。なんだか私の世界がこれからどんどん広がっていく感じがした。これからきっとダンジョンに行くのがもっともっと楽しくなっていくと思う。
パン屋さんで好みのパンを三つ買って、教室へと戻る。
窓からダンジョンが見えた。私も早く行きたいな。身体がうずうずする。
これじゃあ午後の授業は集中できないかもしれないな。きっと私、ダンジョンのことばかりを考えているだろうから――。
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たくさん読んでくださってありがとうございますー!
紗雪の物語、いかがでしたでしょうか。お楽しみ頂けていたらとても嬉しいですー。
続きの物語ですが、推敲が追い付いていないため数日ほどお休みを頂いてからアップしていこうと思います。
ストック的にはもう少しありますので、よろしければ引き続き紗雪の物語をお楽しみくださいませ~。
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