第47話 〈逆境時強化〉

 少し歩いてリルリルさんの露店にやってきた。お客さんが一人だけいたので横で少しだけ待つ。

 いつも良いポーションをありがとうってOLさんっぽい人が言っている。私のポーションを買ってくれたみたいだ。しかも常連さんっぽい。


 それを作ってるの実は私なんですよって言いたい気分だ。なんだかちょっと嬉しい気持ちになれた。

 OLさんがお店を去る。これから仕事のストレス発散で冒険をするのかな。良い冒険を、そして良いダンジョンライフを。

 さて、私の番だ。リルリルさんと目が合った。


「紗雪さん、お帰りなさーい」

「ただいまでーす」

「また服が破れちゃったんですか?」


 服に何かがあったってすぐにバレるよね。ダンジョンに来たときとは違ってジャージ姿になっちゃってるし。


「もう本当に好き放題に破かれちゃいましたよ」

「モンスターにですか? 失礼しちゃいますねー」


 ねー、と相槌を打った。

 私はとりあえずできたてほやほやのポーションを売らせてもらった。そうしたら、その直後にもうポーションを買う人が現れた。本当に飛ぶように売れるんだね。


 次のポーションも20分で作れるんだし、リルリルさんがポーションを売っている間に〈ポーションクリエイト〉を発動しておこう。

 お客さんが楽しそうにダンジョンの奥へと向かって行く。

 私はリルリルさんとおしゃべりを始めた。さっそくスキルについての話をしようと思う。〈逆境時強化〉で悩んでいることを相談しないとね。


「え? 〈逆境時強化〉のしかもレベル10をスキルポイント1で習得できるんですか? もの凄いことですよ、それ」

「そうなんですか? 私、こういうの初めてでよく分からなくて」


「普通にそのスキルを習得してレベル10まで上げようと思ったら、スキルポイントが少なくとも500以上は必要だと思いますよ」

「ご、500!」

「もっとかもしれません。とにかく膨大なスキルポイントが必要になるんですよ」


 それはびっくりだ。


「でも、なんで急に格安で習得できるようになったんでしょうか……」

 そこが分からないんだよね。今まではこんなことなかったし。

「スキルって特定の条件を満たすことでゲットできる場合があるんですよ。条件はたいてい厳しいですが、スキルポイントをほとんど消費しなくて済むのでメリットは大きいですよ」


「……つまり私は知らない間に、その特定の条件っていうのを満たしていた感じですか?」

「その通りです。スキルの説明は読みました? その特定の条件が書かれていると思いますけど」


 そういえばスキル名しかチェックしていなかった。見てみようと思う。スキル習得画面を出して〈逆境時強化〉を選択してみた。

 本当に特定の条件が書かれてるね。こんな感じだ――。


『習得条件:あなたのレベルと比べて攻略推奨レベルが35以上高いモンスターを相手に一人で立ち向かい、瀕死の状態から逆転勝利をすること』


「え、レベルが35も足りないのが条件ってことですか?」

「みたいですねー。何と戦ったんですか?」


「レイジングオークっていうのと戦いました」

「ええええええええっ! それ、攻略推奨レベルは80ですよ。よく勝てましたねっ!」

「な、なんか、勝てちゃいました。あはは……」


 ひえええ、レイジングオークって攻略推奨レベルがそんなに高かったんだ。通りで強かったわけだ。いろんな人が重傷を負っていたのも理解できたよ。


「紗雪さん、あんまり無理しちゃダメですよー」

「知ってれば絶対に逃げてたんですけど……。次からはちゃんと気をつけます」

「絶対ですよ?」


 はーい、と返事をした。本当に気をつけようと思う。今度からはぜんぜん知らないモンスターとの戦闘はなるべく避ける方針でいこう。

 次は〈逆境時強化〉のスキル説明を読んでみる。これはスキルレベル10の場合の説明だね。えーと、なになに――。


『HPが最大値の10分の1以下になると、全てのステータスが1.5倍になる』


「うわ、めちゃくちゃ強いですね。1.5倍にもなるなんて」

「〈逆境時強化〉は本気の攻略勢にとって垂涎のスキルですからねー。強いうえにレアです。習得を強くお勧めしますよ。紗雪さんの命をこれから何度も守ってくれるスキルだと思います」

「たしかにそうですね。いざというときに逃げ足も速くなりそうです」


 まあ私って、戦闘で興奮状態になっちゃうと逃げないで立ち向かっていきそうだけどね。

 なんにしてもこのスキルは役に立ちそうだ。


 持っていて困ることはないし、スキルポイント1なんて破格の条件なら習得しておいた方が絶対に良いよね。

 というわけで、私の心は決まった。


「スキル〈逆境時強化〉、ゲットしましたー」

「わ~、おめでとうございます~」


 リルリルさんが拍手をしてくれた。凄く嬉しい。


「紗雪さん、どんどん強くなっていきますね。頼もしくなってきましたよ」

「リルリルさんが導いてくれたおかげですね」


 お互いにお互いを褒めまくった。

 そうしている間にポーションができたのでそれを売った。売った傍からまたポーションを買ってくれるお客さんが現れた。私はまたポーションを作った。なんだか良い循環になっている気がするね。


 リルリルさんとのおしゃべりを終えて、私はダンジョンの出口へと向かった。

 ダンジョンフォークの人たちが作る美味しそうな料理の香りが漂ってくる。ああ……、激しい戦闘の後の良い香りは空きっ腹に響くね。


 何か食べようかな。凄く後ろ髪をひかれる。

 でも、血の涙を流すような強い覚悟で我慢した。帰ったら晩ごはんが待っているし、食べ過ぎて太るのは怖いから。

 でも、お腹がグーッと鳴いていた。空気をぜんぜん読まないお腹だった。



ステータス

■レベル45

・HP 131

・攻撃 65

・防御 67

・敏捷 85

・魔法 41

・技術 116

■スキル

 〈ポーションクリエイト〉 レベル25

 〈逆境時強化〉 レベル10



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る