第44話 ほんの少しばかりの復讐
見たくもない顔が目の前にいる。
入学早々、私を
相手の武器防具をささっとチェックする。
上半身に西洋の甲冑みたいなのを装着してるね。武器は立派な槍。あと腕には盾がある。どう見てもダンジョン攻略ガチ勢だ。
「なんで無視したんだよ。こっちは困ってるのに」
「別に」
単純に会話をしたくなかったからだよ。会話をしたってロクなことにならないのは分かりきってるし。
……ん? 今、気が付いた。この女子と仲の良い人たちも傍にいた。すぐ横の木に隠れるようにしている。
ただ、一人だけ見るも無惨な様子になってるね。仰向けで倒れている。
顔やお腹や足に殴打された傷があるようだ。肌が紫色になっているし、鼻血がひどい。あとよく見えないけど、歯が折れているかもしれない。
どうしよう。ざまあみろとしか思えないな。
「気がついた?
知らないよ。というか、あの女子は黒鈴っていう苗字だったんだ。知ってた気がするけど、興味ない人たちだったからすっかり忘れてたよ。
「動かしていい状態なのかも分からない」
じゃあ、試してみればいいのに。
「レイジングオークにやられたんだ。めちゃくちゃ強かった」
わあ、よくやった! 本当によくやってくれたよ、レイジングオーク。おかげでちょっとすっきりしたよ。
なんだかレイジングオークは今日、大活躍だね。おかげでこの大嫌いな人たちが痛い目を見てくれた。心から嬉しいよ。
はあ……、でも既視感がすごい……。なんかさっきもこういう展開じゃなかったっけ。これからこの人たちが私に何を求めてくるのか、私にはもう予想がついちゃったよ。
「……みんな大変だったんだね。じゃあ、早く回復してあげたらいいんじゃない?」
先手を打ってみた。
「できないんだよ。ポーションが余ってないの。ということで、ほらほら、ポーションくれよ。1個くらい余ってるだろ」
「お仲間さんのポーションは?」
赤い髪の女子が凄くイライラした様子だ。
「だーかーらー、私たちのはもうぜんぶ使い切ったから、あんたを頼ってるんだって」
え……? 私、頼られてたんだ。「お願い」とか「どうか」とか「頂けないでしょうか」とかそういう言葉は聞いてない気がするんだけど。
まあ、そういう語彙力がない人たちなんだろうな。
「はあ……、1個だけ余ってる」
赤い髪の女子の目が輝いた。他の女子も希望を見つけた目を私に向けた。
「あるなら早く出せよー」
笑顔で手を差し出してくる。当たり前に私がポーションを提供すると思っているみたい。
でもね、よく考えるべきだよ。
なんで私がポーションをあなたたちにあげると思っているの?
あなたたちは私のことを置き去りにした。置き去りにしたんだよ――。危険極まりないレッドゾーンに置き去りにして、あなたたちは笑いながら去っていったんだ。
あれほど怖かったことはない。あれほど心細かったこともない。カエルに追われたとき、私がどれほど惨めな思いだったか分かってるんだろうか。家に帰り着くまでにどれだけ泣いたことか。そんな私の悲しい気持ちをきちんと想像したことがあるのだろうか。
赤い髪の女子の手を私は冷たい目で見つめた。
「10万ポン――」
「……ん?」
「10万ポン。1ポンも譲らないから」
「は?」
「10万ポン出すならポーションを売ってあげる」
「はあ?」
酷い目で睨みつけられた。赤い髪の女子だけじゃない。後ろにいた女子もだ。今すぐにでも殴りかかってやろうかって視線で強烈に言ってくる。
正直、怖い。
モンスターと戦うのとはわけが違う。別種の怖さがある。
私としては喧嘩はしたくない。たとえ勝てたとしても、後味の悪いイライラ感が残るだけだろうし。こんなところで喧嘩をするくらいなら、モンスターともう一戦してすっきりした満足感を得た方が良いと思う。
「買う気がないのなら――。バイバイ」
このまま会話を続けるメリットはなさそうだし、私は赤い髪の女子から視線を外して一歩を踏み出した。
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