第43話 ご友人さんの治療
真面目な先輩がなんだか目を大きく見開いている。私から購入したポーションを確認して驚いているんだろうか。
「わ、これ、もの凄い性能のポーションですね。どこで売ってたんですか?」
まさか褒めてもらえるだなんて思わなかったな。
「ダンジョンフォークのリルリルさんっていう人のお店です。毎日そのお店に卸していますので」
「……え? あなたが作ったんですか?」
「そうですけど、早く治療してあげなくて大丈夫なんですか?」
「ハッ。そうでした」
気になるから私もついていくことにした。
すぐ近くの壁寄りに隠れているらしい。木が少し密集しているところだった。
木々の裏側を見てみるとジャージ姿の女子生徒が三人いた。
みんなボロボロだけど、そのうちの一人が特にひどい状態だ。
腕は折れているし、吐血のあとはあるしで、目をそらしたくなるような痛々しい姿だった。あれはどう見ても動けない状態だ。横になって仲間の一人に膝枕をしてもらっている。
「ひどい……」
私は素直な感想を口にした。あの状態ならポーションに1万ポンは適正かもしれない。いやそれどころか、もっと高い値段だったとしても買ってくれていたと思う。
だってあの状態でモンスターに見つかってしまったら、間違いなく死んでしまうだろうから。仲間の命そのものの値段だと思えば1万ポンはかなり安いよね。
「私たち、うっかりレイジングオークに見つかってしまったんです」
私がさっき死にものぐるいで倒したやつだ。
「本当なら絶対に戦わないくらいのレベル差だったんですけど、不意をつかれてしまって。四人がかりでどうにか倒したんですけど、一人が集中的に攻撃をされてしまってこんなことに……」
四人がかりでこれって……。もしかして私がたった一人でレイジングオークを倒したのは凄いことだったんだろうか。
ポーションを買った女子生徒がしゃがみこむ。動けなくなっている仲間にポーションを飲ませてあげるようだ。
「ほら、ポーションを買ってきたよ。飲める?」
返事はなかった。でも、生きてはいるね。
「飲ませてあげるわね」
ゆっくりゆっくり、瓶を傾けてポーションを飲ませてあげる。すると、重傷の女子生徒がみるみる元気を取り戻していった。折れていた腕も完治したようだ。
私のポーションは性能が高すぎたみたいで、半分くらい飲んだところでHPが完全回復したそうだ。重傷の女子生徒はすっかり元気になって起き上がった。
ボーイッシュで少し肌の色が濃い目な体育会系の女子だった。立ち上がると、仲間の人たちはみんな安堵していた。
「いやー、悪い悪い。もうちょっと上手く立ち回るつもりだったんだけどさ」
元気で軽い感じの人だった。
「本当よ、もう。ポーションがなくなったら逃げるって決めてたでしょ。なんであなたはむしろ攻撃に行くのよ」
真面目な女子生徒に怒られている。でも、ぜんぜん反省した様子はない
「だから悪いって。次からはもっと上手く立ち回るよ」
「そうじゃなくて――」
「あんたがポーションを売ってくれた子? ありがとね」
「あ、いえ、どうも……」
「ちゃんと私の話を聞きなさいよね」
お説教は長くなりそうだ。私はこのへんで退散かな。部外者だし。
「じゃあ、私はこれで」
「あ、うん。ありがとう。本当に助かったわ。いい? 慈善活動で無料奉仕みたいなことは、ダンジョンでは絶対にタブーですからね」
「はい。教えてくれてありがとうございます。私、ダンジョンに来た初日にクラスメイトに裏切られて死にかけたのを思い出しましたよ。ダンジョンには悪い人っていっぱいいますよね」
あ、先輩たちが同情する表情になってしまった。笑い話のつもりだったのに、人が聞いたら暗い話だったのかも。
私はぺこりとすると、そそくさと退散した。
なんにせよ、重傷の人が治ったのは良かったし、私のポーションが役に立ったのも嬉しかった。それに、良い勉強になった。
「これからは慈善活動の無料奉仕はやらないぞっと」
それから5分くらい歩いたところだった。
なんだか顔だけは知っているイヤーなクラスメイトが、誰かを探すみたいな感じできょろきょろしていた。
あれはダンジョンに来た初日に私をレッドゾーンに置いていった一人だね。
見なかったことにしようっと。私は木陰に隠れるように歩いて行くことにした。
「あ、ちょうどいいところにいた。なあ、ちょっといいか? ねえってば。おーい、聞けよ。おい、他人のフリすんな」
ちっ、見つかったか。他人のフリすんなっていうか、私たちってほぼほぼ他人なんだけどな――。
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