第41話 採取クエスト完了!

 あー……。うー……。だーるーいー……。

 うとうとしてきた。ごろんと仰向けになって眠りたい。

 でも、このまま目を閉じたら死んじゃいそうな気がする。HPを確認すると残り1だった。うわあ、1だったんだね。いちおうギリギリまだ生きてるよ。


 ふう……、生きてて本当に良かった……。今日は……ぐっすり……眠れそうだ……。

 ……。……。……。……。……すやあ。

 ……ハッ!


「うっかり眠るところだった! HP1しかないんだよ。気を抜いたら本当に死んじゃうじゃん。危うく天国に行きかけちゃったよ」


 とりあえずポーションを飲もう。命がけで戦ったあとのポーションは格別の美味しさなんだよね。飲むのが楽しみだ。

 アイテム空間からポーションの入った瓶を取り出す。両手でめちゃくちゃしっかり持った。びっくりするくらいに力がぜんぜん入らないよ。瓶を落としてしまいそうだ。


「……あれ? なんかメッセージが出てる?」


 一つは『レイジングオークを討伐しました』っていういつもの報告メッセージだけど、もう一つ見慣れない文言がある。


『条件を満たしましたため、スキル〈逆境時強化〉レベル10をスキルポイント1で習得できるようになりました』


 こんなの初めて見た。なに、新しいスキルを簡単にゲットできるようになったの?


「これって凄いことなのかな。スキルポイント1なら気軽にスキルポイントを使えるけど……」


 ガサガサガサッと、近くの木の高いところにある枝が揺れた。何かのモンスターがいるのかもしれない。

 考えるのは後にしよう。とりあえず、私はポーションを飲んだ。


 ああ~。あああ~。この喉越し最高だ。ひんやりしてて気持ちいい~。爽快な気持ちにさせてくれるよ。うわあ~、胃が気持ちいいよ~。

 キタキタキター。元気が湧き出てくるー。生きてるって感じー。命の喜びを感じるよ。


「ごくっ、ごくっ、ごくっ」


 口の端からちょっとポーションがこぼれてしまった。それが身体をつたっていく。うわあ、それすらも気持ちがいいよ。

 ブラジャーが湿っていくのも気持ちがいい。お腹やスカートが濡れるのも気持ちがいい。身体がひんやりしていくことに刺激的な気持ちよさがある~。

 ああ~、ポーション好き。大好き。


「ぷはーっ。ふう……。戦いのあとのポーション一気飲みは最高だねっ! 全身が気持ちよくて気分スッキリー♪ 最っ高~♪」


 本当に最高の気分だ。これだからポーションはやめられないよ。

 もちろんHPは最大値まで回復してるよ。重傷も完治だ。ポーションって地球の医学を完全に超えちゃってるよね。本当に凄すぎるよ。


「さて、元気になったら恥ずかしくなってきちゃったな」


 私、なんて格好をしてるんだろうか。今さら羞恥心が湧いてきたよ。

 上半身はほとんど布地のなくなってしまったブラウスの残骸と、湿ったブラジャーを身に纏っているだけ。花の女子高生が外でしていい格好では決してない。


 こうなったのは全部レイジングオークのせい。本当にもう。レイジングオークめー。好き放題に私の服を破いてくれちゃってさ。私、お着替えをしないとじゃん。あーあ、またジャージで帰るのかー。ぜんぜん可愛くないんだよね。

 それと――。

 

「破かれた布切れはちゃんと回収しておかないとね」

 

 たしか布切れさえあれば、ダンジョンフォークの伝統技術で服を修復できるんだよね。マルタさんがそう言っていたと思う。

 布切れはたくさんある方がマルタさんのお仕事は楽になるかな。破かれて地面に落っこちている布切れも、できるかぎり回収しておこうと思う。


「まあとりあえずはお着替えだね」


 私はリュックからジャージを取り出した。いつもの学校のジャージだ。

 周囲に誰もいないことを確認する。モンスターもいないね。今なら着替えても大丈夫だ。いちおう木陰に入ってから着替えることにした。

 もはや服の形をしていないボロボロのブラウスを脱ぐ。


「よくもまあ、こんなになるまで引きちぎられたね」


 背中側にはまだ多少の布地が残っているけど、正面側にはほとんど何もない。

 いくら私を食べるのに邪魔だったとはいえ、服を引きちぎるんじゃなくて脱がすっていう発想はなかったんだろうか。まあモンスターにはないか。


「今、私は上半身がブラジャーだけか――」


 可愛いフリルのついた子供っぽい白色のブラジャーだ。私の大きいおっぱいを優しく包み込んでいる。

 私は腕を軽く振ってみたり、腰を回してみたり、軽くストレッチをしたりした。

 あと、深呼吸をした。凄くすっきりする。


「この格好、凄く動きやすいし開放感でいっぱいになれる。すっごく良いなぁ」


 ゲームやアニメに出てくるビキニアーマーの女戦士っているよね。あの女戦士たちはあんな格好で恥ずかしくないのかなって子供の頃からずっと疑問に思っていたんだけど、もしかしたらぜんぜん恥ずかしくないのかもしれない。むしろ闘争本能をむき出しにして戦うのなら、このくらいの格好の方がしっくりくると思う。

 私、ビキニアーマーを着る女戦士の気持ち、分かっちゃうなぁ。


「まあでも、私はおっぱいが大きいし、本気でこういう感じの格好で戦うのならあんまり揺れないような対策は必要か」


 って、なんで私はブラジャー姿で戦うことを考えているんだろう。思考が危なくなってきている気がする。このままじゃあ、いつか下着姿で戦う女戦士になってしまいそうだ。危ない危ない。


 誰かに変態扱いされる前にジャージを着ようっと。

 ジャージの袖に腕を通してチャックを上まであげた。これで私のブラジャーは見えない。理性ある現代人に戻った気分だ。代わりにすっきり感が犠牲になってしまった。それはあまりにも悲しすぎるけど我慢だ……。


 破かれてしまったブラウスとブレザーの布切れを拾い集める。レイジングオークはあまりうまく破けなかったのか、けっこう布切れの数は多かった。


「よし、回収完了~」


 同じ場所にたくさん落ちてたから、ほぼほぼ回収できたんじゃないだろうか。マルタさんならきっと一晩で修復してくれるはず。


「あとは最後のオーシャンメタルを回収するだけだね」


 探してみたら5分もかからずに発見できた。これで5個目だ。依頼された分をゲットできたよ。

 オーシャンメタルを納品するかを問うメッセージが出てきたから、私は『はい』を選択した。これでクエスト完了だ。


「初めてのレッドゾーンのクエスト、無事に完了~!」


 達成感がある。満足感もある。また次もレッドゾーンに来たいなって思った。

 でも、まだまだ私は弱いから――。


「ゲコ」


 大きなカエルが木陰から私を観察している。目がバッチリ合ってしまった。このままだと襲われてしまう気がする。


「ここはおとなしく退散だよっ」


 命がけの連戦なんて絶対に無理。私は脱兎のごとく逃げ出した。


「でも悔しいっ。いつかあのカエル、絶対に倒すからねっ」


 走って走って走りまくって、来た道を戻っていく。息がなかなか切れない。ダンジョンに来てだいぶ鍛えられたんだなって感じた。

 7、8分くらいは走り続けただろうか。カエルはとっくに私を諦めている。だから私も小走りになり始めた。そろそろ走るのをやめて歩いても大丈夫かな。そう思ったときだった。

 私と同じ高校のジャージを着た一人の女子生徒が、泣きそうな顔になって何かを探すようにしていた。



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