第39話 VSレイジングオーク
横になるような姿勢で私は木の根元に倒れた。
一瞬とはいえ意識が飛んでしまったから状況が分からない。
左の脇腹がとにかく痛くて熱い。どこかの骨が折れているのか、身体の中の変なところに骨が当たっている感じがする。
これ、動けるんだろうか。何かがせり上がって喉を通ってくる感覚がある。
「うっ……。ごほっ。がぼぼぼぼっ」
真っ赤な血だった。口から大量に出てくる。少年マンガみたいだ。本当に血って口から出てくるんだね。大量の血の味は苦いばっかりでイヤだった。
目の端でHPを確認する。残り24だ。体力最大だったら128だったから、ごっそり減ってしまった。
すぐにポーションを飲まないと――。
のっし、のっし、のっし……。
「ヒッ――」
ダメ。間に合わない。安全圏に行くのが先だ。でも、身体が大ダメージにびっくりしていて急には起き上がれない。
ダメだこれ。死ぬ。絶対に死ぬ。
「ブルルルルルルルルルゥ」
舌なめずりするような声に聞こえた。顔を見てみたら美味しそうに口からよだれをだらだら溢れさせていた。あれはどう見ても私を食べる気だ。
レイジングオークは私の横に来ると鈍器を捨てた。そして欲望のままにかがみ込んで私に覆いかぶさってくる。
「……っ!」
レイジングオークが私のブレザーを両手でつかんだ。何をするのかと思えば、なんのためらいもなくブレザーをビリビリ引き裂き始めた。
ま、まさか裸にされてしまうのだろうか。ゾッとするなんてものじゃなかった。
あれよあれよという間に制服がどんどん引き裂かれていく。布きれになってしまったものが私の顔の横にどんどん積み重ねられていった。それと同時に私の身体を守るものがどんどんなくなってしまい、心細い気持ちになっていく。
ついにはブラウスに手をかけられてしまった。左右に思い切り引っ張られてボタンが弾け飛ぶ。ブレザーと同じようにブラウスもどんどん引き裂かれていく。
なんとかしなきゃ。なんとかしなきゃ。
指の感覚がある。動く。
とうとうブラジャーがしっかりと露わになってしまった。子供っぽいブラジャーは早く卒業しておくんだったと後悔。ってそんな馬鹿なことを考えてる場合じゃなかった。
レイジングオークは本気で私を食べるつもりだ。私の身体を覆う布地をすべて破り捨てたら、私の柔らかいお肉に牙を立てて力ずくで引き裂いてしまうと思う。生きたままでいいから早く食料を口にしたい。そんな願望に満ちあふれた汚れた目をしていた。
考えろ、紗雪。
人間には頭脳がある。そこに関してだけはどんなに強いモンスターよりも私の方がずっと上だ。この窮地を脱する手段がきっと何かあるはず。だから考えろ。死に物狂いで考えるんだ。
肌がどんどん空気に晒されていく。
私、だんだん腹が立ってきた。女の子をこんな目に遭わせるなんて、たとえモンスターといえども絶対に許せない。
それになにより――。
喰われてたまるか。逆に私が喰い殺してやるわ――。
そんな闘争本能が私の奥底から急激に湧き出てきた。
思い出す。さっき、レイジングオークの顔面をハンマーで叩いてもたいしたダメージにはならなかったよね。だからここで私が素手で応戦しても絶対にダメだ。
とはいえ、ハンマーは気を失ったときに手放してしまった。どこにあるかも分からない。じゃあ、何か別の物を使わないとね。そしてそれをレイジングオークの急所に当てる――。
あ、ピンと来た。これなら絶対にいける。
思いついた瞬間に私は反射行動のように動き出した。
レイジングオークは私のブラウスを引き裂くのに一生懸命だ。わりと神経質なようで、綺麗にぜんぶの服を身体から取らないと気がすまないようだ。
だから、私がアイテム空間から物を取り出しても何も気が付いた様子がなかった。
よし、オーシャンメタルを手に持ったよ。さっきたくさん採集したうちの一つだ。先が凄く尖ってる鉱物だよ。これなら絶対に武器になる。
さあ、いくぞ。私の人生のすべてをかけた大反撃の開始だ。
「うわああああああああああああああああああああああっ!」
私は左手を地面に叩きつけるようにして身体を起こした。
「これはお返しだよ!」
もはや私は瀕死状態だと勘違いしていたんだろう。レイジングオークはびっくりして目を見開いた。
その見開かれた左の目に、私はオーシャンメタルの尖った先端をえぐりこんだ。
「ブギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
レイジングオークの悲鳴だ。悲鳴をあげながら大慌てで背中側に転がっていく。
しっかりとダメージになったみたいだ。どんな生き物でも目は柔らかいし弱点だもんね。ざまーみろだよ。
私は足の裏を地面につけてみた。力が入った。いける。これならまだ戦える。私はレイジングオークを強くにらみつけた。
「よくも好き放題にやってくれたね」
私は力強く立ち上がった。
「ここからは私が反撃するターンだよ!」
言った直後に左側によろめいてしまった。
大ダメージを受けて身体がボロボロ状態なのは変わらない。左足で頑張って踏ん張るけど脇から大きな痛みが返ってくる。その痛みだけでまた意識が飛びそうになるけど頑張ってこらえた。
私は薄く笑った。
私、嬉しいみたい。自分でも知らなかったけど、私ってこういうのを本能的に求めていたみたいだ。身体も心も意味が分からないくらいに喜んじゃってるよ――。
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