第38話 レッドゾーンのモンスター
順調だ。ここまでは本当に順調にクエスト攻略が進んでいる。
採取対象のオーシャンメタルはもう3個もゲットできている。あとたった2個で攻略完了だ。
「レッドゾーンって言っても、意外と大きな危険はないのかも」
モンスターを何回か見かけたけど、すぐに襲ってくるようなことはなかった。お互いに遠目に姿を確認し合うだけで何事もなく通り過ぎたんだよね。
「あ、4個目発見~」
このクエストを選んだのは正解だったと思う。これなら無事に攻略完了できそうだ。
ただ、少しスリルが足りないなって思う自分が心のどこかにいるんだよね。
できれば少しだけでもレッドゾーンのモンスターと戦ってみたかったかも。本能をむき出しにして血をたぎらせて、生き残るために敵に渾身の一撃を叩きつける。そうやってどうにか勝ち残ったときの達成感は、想像するたけでも私をぞくぞくさせてくれるんだよね。
私は自然と笑んでいた。
客観的に見たら絶対に怪しい人だろうなーって思いながら、私は戦っている自分を想像しながらにやついてしまう。
土にスコップを入れる。
オーシャンメタルの採取も4個目ともなると手際よくやれるものだ。土を掘ってオーシャンメタルをむき出しにして、あとは手でポキッと折るように根本から採取する。
「これで4個目――」
……。……。……なんとなくだけど、このままここにいたら死ぬ気がする。いったいなんで? 付近にモンスターはいない。正面は木の幹だし、左右にも後ろにもモンスターはいなかったはずなんだけどな。
ふと、私の真上の木が不自然に揺れたような音が聞こえてきた。つまり、真上にいたんだ。注意がおろそかだった。たしかに私は真上はまったく警戒せずに採取していた。オーシャンメタルを見つけたことで視野が狭まっていたんだ。
「うわわっ!」
相手を確認していたら死んでしまう。私は目をつぶりながら一か八かで斜め右に頭から飛び込んだ。そしてその勢いのまま、中学の柔道の授業で習った前回り受け身を咄嗟に繰り出した。
ドンッ――!
私がさっきまでいたところに重くて鈍すぎる音が聞こえてきた。同時に何かが着地した音も聞こえてくる。
危なかった。すぐに動いてなかったら頭を割られていたかもしれない。
やっぱりここはレッドゾーンだ。命のやりとりが耐えない場所。一瞬でも油断したら、待っているのは死のみだ。
それにしても本当に鈍い音だったね。たぶん私を攻撃したモンスターは鈍器を持っているんだと思う。すぐに距離を取らないとまずいと思う。
私は土に手をついてパッと起き上がった。急ぎ過ぎてバランスが取れていないけど、木の幹に姿を隠すように移動する。
「ブオオオオオオオオオオオオ!」
威嚇の声だろうか。かなり太い声だった。
応戦しなきゃ――。たぶん、逃げても追いかけてくる。あのモンスターは私を倒すって決めている気がする。だから覚悟を決めないと。
「いいよ。相手になってあげるっ」
私はハンマーを構えた。
私の背中を冷たい汗がだらだら流れているのを感じる。本当は逃げたい。逃げたほうが生存確率は絶対に高いのは分かってる。だって私よりも相手の方が格上だってビンビン感じてるから。
でも、身体の芯からふつふつと戦いたいって欲が湧いてきて私の中で暴れてるんだ。私、こういう展開を心のどこかで期待していたんだと思う。だから――。
「私に襲いかかってきてくれてありがとう!」
自分でもまったく意味が分からないけれど、私はモンスターにお礼を言ってしまった。ちょっとだけにやけながらハンマーを振りかぶって木の幹を回り込む。
こっちから攻撃をかけたい。
敵の姿を視認する。
なに、あれ。二足歩行の小さい豚……? 身体は重量がありそうだけど、背の高さは私の胸の下あたり。肌は緑色。腰には何かの獣の皮を巻いている。手には木の枝と重たそうな岩で作った鈍器があるね。
豚のモンスターって、ファンタジー世界に有名なのがいたはず。
『レイジングオークが現れた』
メッセージウインドウにはそう表示された。そう、オークだ。このダンジョンにもいたんだね。
「別に会えても嬉しくなんてないけどね!」
会えて嬉しいとしたら優しいユニコーンとかペガサス、フェアリーとかだ。
さあ、挨拶代わりの一撃だよ。
レイジングオークのわりと醜い感じの顔に向かって思い切りハンマーを叩きつけた。全力のフルスイングだ。
「ブフォ!」
これはきいたはず。レイジングオークの顔にかなりめりこんでるもん。
しかし、本当にきいているんだろうか。レイジングオークは両足でしっかりと立ったままだ。痛そうにしていない。そして――。
「え、嘘っ!」
私のハンマーを手でつかんで横に引っ張った。ものすごい力だ。抗えない。
そしてレイジングオークは復讐心に満ちた瞳をぎらつかせながら、自分の鈍器を片手で振った。
速すぎて動きがよく見えなかった――。
左の脇腹に痛烈な一発をもらってしまった私は、意識を一瞬飛ばしてしまった。
木の幹に後頭部を打ち付けて意識が戻ったけどとても動けない。私はずるずると地面に落ちていき倒れてしまった。
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