第37話 レッドゾーンの冒険
1番通路を1時間かけて歩いてきた。もうレッドゾーンって言われている危険なエリアに入っているはずだ。
「トラウマのレッドゾーンか……」
高校に入学してすぐの頃、大きいカエルに追いかけられて本当に大変な目にあったのをイヤでも思い出してしまうな……。
あのとき私をバカにして置き去りにしたクラスメイトたちのことは、絶対に許さないよ。今でも思い出すたびにはらわたが煮えくりかえる気持ちだ。
あれから一人でダンジョンに来るようになっていろいろと経験したなー。大変なことが多かったけど、そのおかげで私は少しばかり強くなれたと思う。
次にあの大きいカエルに遭遇したら、私は絶対に叩き潰してあげようと思ってるよ。あのときのリベンジマッチをしないとね。
周囲を警戒しながらレッドゾーンを歩いて行く。地面の土がふかふかで歩きやすいね。
1番通路のレッドゾーンは木々が多い樹林地帯なんだっけ。あまり遠くまで見通せないね……。木の陰や枝の上にいくらでもモンスターが隠れられるから、いっぱい警戒しないといけなそうだ。
木漏れ日が多くてだいぶ明るいけど、ここには太陽があるわけじゃない。高いところにある天井にはしっかりと土の壁が見えた。
「まるで山とか林の中にいるみたいな感じなんだけど、やっぱりここはダンジョンなんだね」
「ゲコ」
なんか私のひとり言に相槌を打たれたんだけど。右の木の幹のあたりだ。
あ、見つけた。
声の主は木の幹に手をついて目だけを出して私を観察していた。
とても大きなカエルだった。私の身体よりも一回りは大きいカエルだ。皮膚は緑色。アマガエルを二足歩行にして大きくしたような感じだろうか。
そのカエルの口の端からよだれがたらーりと落ちる。
私は怖気が走った。間違いなく捕食されてしまう――。
あと、直感した。私はまだあれには絶対に勝てない――。
というわけでリベンジマッチは忘れよう。勝てないと直感した瞬間に脱兎のごとく逃げ出した。
うおおお、うおおおおお、うおおおおおおお、全力で逃げろーーーー。
走って走って走りまくった。ここは絶対に逃げるに限るよ。
あれ、よく考えたら逃げるためにダンジョンの奥へ奥へと走ったら余計に危ないんじゃない? 普通に考えて奥に進めば進むほど強力なモンスターが増えるだろうし。
ドキドキしながら後ろを振り返ってみる。
……。……。……いない。
よかった。私をわざわざ追いかけるほどにはお腹が空いていなかったみたいだ。
とはいえ気配を殺してついてきているかもしれないから、警戒をゆるめずにいようと思う。
ちらちらと後ろとか横を確認してしまう。緊張感でどんどん疲れていく。
「早くクエストに取り掛からないと」
クエストに関係のないモンスターなんて無視して仕事に集中するのが一番だ。
スリルを楽しむのはほどほどにして、今回はレッドゾーンを冒険した経験だけを持ち帰るつもりでいようと思う。
「というわけで、目的の鉱物、オーシャンメタルを探そう」
5個集めれば終わりの簡単なお仕事だ。
たしか木の根元ににょきって生えているんだっけ? でも、どの木の根元だろう……。
周囲を見てみたら同じような木ばかりだった。
「ひたすら根元をチェックしていくしかなさそうだね」
モンスターの警戒をしつつ、木の根元を確認する。うむむ……、そう簡単には見つからないか。
木の裏側を確認してみる。やっぱりない。次の木にもない。
……。……。……いろいろな視線を感じる。少し遠くの木の陰から、あるいは頭上の枝から、さらには地面の中からも見られている感じがする。
恐怖心が強くて錯覚しているんだろうか。周囲を確認するけど何もいない。
汗が私の側頭部をつたっていく。冷たく感じる汗だった。
私、ものすごく恐怖心が増大しているみたい。たぶんここらへんで私が一番弱い生き物だからだろうね。普段はまったく使っていない危険察知の本能がビンビンになっていると思う。
「ギャア、ギャア、ギャア、ギャア!」
バサバサバサーっと鳥が鳴きながら飛んでいく声が聞こえた。
ヒャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、って大きな悲鳴をあげそうになってしまった。でも、頑張って我慢した。ここで大きな声をあげてしまったらモンスターに私がここにいるよって教えてしまうようなものだからだ。
「まったく。迷惑な鳥なんだから」
どこかに飛び立つのなら静かに飛んでいけばいいのに。すごくびっくりしてしまったじゃない。
ふう、と一息つく。
木の幹に手をついて裏側の根元を確認してみる。
「あっ」
なんかキレイな石みたいなのがある。透明感のある深い青色だ。まるで海みたいな石だね。宝石にもなりそう。
「ん? 海みたいな石?」
木の根元からにょきって生えている。20センチくらいで先が尖っている。そのすぐ隣には10センチくらいの同じ石が二つ並んでいる。土の中ではきっと三つの石がくっついてるんじゃないかな。
「もしかして、これがオーシャンメタル?」
石に見えたけどこれは鉱物なんだね。
中指の関節で軽く叩いてみるとコンコンと硬い音がした。メタルな感じがしたから、きっとこれが目的の物だ。
「じゃあ、掘ろうっと」
スコップを手に持つ。そしてオーシャンメタルの周囲の土を彫り始めた。なるべくスコップで傷つけないように丁寧に掘り進めていく。
「意外と浅かった」
木の太い根っこに寄生するみたいにして生えてるんだね。これ以上はスコップで掘れないから、私は手で引っ張ってみた。するとけっこう簡単に取れた。
「取れたー」
アイテム空間に収納する。名称はオーシャンメタルだった。クエストの進捗を確認すると、残り4個的な表示になっている。
「早めに1個でも見つけられてよかったー」
かなりホッとできた。これならこのクエストは達成できそうだ。
「残り4個、頑張るぞ」
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