第27話 2番通路の小川へ

 2番通路を歩いて行く。

 けっこう歩いたよ。40分近く歩いたかな。道中、私の膝丈くらいの高さのモンスターがけっこう出た。襲いかかってくるのもいたけど、全部スルーしてひたすら歩いた。


「攻略対象のザリガニって大きいのかな」

 大きいザリガニってちょっと想像がつかない。膝丈くらいの高さだといいんだけど。


「あんまり大きいと、怖くて戦えそうにないなー」


 はてさて、どうなることやら。

 道の先の方から人の声がたくさん聞こえてくるね。次の角を左に曲がった先だ。きっとそこがクエストの舞台になる小川だね。私はそこへと行ってみた。

 視界が急に開けたね。人がたくさんいる。同世代の人たちばかりみたいだ。


「キャーッ、そっちに行ったよ!」

 女子高生が六人くらいでパーティーを組んで戦っているみたいだ。


「イヤーッ、ムリムリムリ。私、レベル18だよ」

「おとりになっててよ。後ろから攻撃するからさ」

「ムリって言ってるでしょ。って、ギャーッ。ハサミに腰を挟まれたーーーーーーっ」


 うわ、絶対絶命だ。


「ちょっと。絶対に真っ二つにはされないでよ。グロいから」

「助けてよ。死んじゃう!」

「大丈夫でしょ。しっかり剣を横にしてハサミが閉まらないようにつっかえさせてるじゃん!」

「だけど、もうすぐ折れそうなの!」


 あははは、情けねーとか笑いながら楽しそうに戦っている。

 なんだか……、すごく明るい人たちばっかりみたいだ。みんな楽しそうにクエストをしてるね。

 私、けっこうな覚悟でここに来たんだけどな。テンションがぜんぜん合わないな。


「ていうか、私の場違い感がすごいんだけど……」

 あんなに明るい人たちにまぎれて、こんなに暗い顔の女子がここにいていいんだろうか。


「いや、ダメでしょ。もっと奥に行こうっと……」

 このままここでザリガニと戦っていたら、あの明るい人たちの空気にあてられて具合が悪くなってしまいそうだ。


「ていうか、ザリガニ超おっきい」

 ザリガニの目の高さがちょうど私の胸くらいの高さだ。体長は私が二人分くらいはあるかな。ハサミは大きくて、私の頭を丸ごとグシャッとできそうだった。


「あれは間違いなく強いモンスターだ」

 怖い……。でも――。

「倒しがいがありそうだね」

 武者震いする気持ちだ。身体の奥底から闘志がメラメラと燃え上がってくる感じ。私の野性的な本能が呼び覚まされていく感じがする。


 小川に沿って少し歩いて行く。

 このクエストは20組様限定募集だっただけあって、同じ時間帯にけっこうな数の人たちが同じ場にいた。

 ソロで頑張ってる人もいれば、さっきの女子たちみたいに大勢で挑んでいる人もいる。


 あの女子たちって、きっとこの場にいた人たちと即席でパーティーを組んだんだろうね。さっき広場で見かけた先輩女子たちが別の六人パーティーに混ざってるんだけど、あの人たちは元々は二人組だったはずだから。


「私も混ぜてー。なんて言えるコミュ力は私にはないかな……」


 あるんなら一人でダンジョンに来てないし。はあ……。むなしい。戦って気をまぎらそう。

 水の流れる音を聞きながら歩いて行く。水はけっこう綺麗みたいだ。


 小川って言ってるけど川幅はかなりあるね。真ん中の方まで入っていくと水深はけっこうありそうだ。

 他の人たちを見てみると、みんな靴を脱いで川に入っている。川に入らないとザリガニが出てこないのかもしれない。小川を見渡してみてもザリガニはどこにもいないんだよね。きっと、小川の真ん中の方に潜んでいるんだろう。


「水の中にひきずりこまれないように注意しないと」

 溺れたらポーションを持っててもどうにもならないから。

「ていうか、ザリガニは水に入ってから探さないといけないのか……」


 とてもやっかいだ。水に入るとどうしても動きがにぶくなってしまうから。うまく立ち回れるかどうかちょっと自信がない。

 できるかぎり他の人たちの立ち回りを見ておこう。初見でモンスターを討伐するのは大変だし、事前に得られる情報は得ておかないとね。


 ふむ……。

 だいたい分かったかも。ザリガニの正面にいる人が防御と回避でどうにかしのいで、後ろに回った人たちが攻撃をかけるんだね。


「つまり、何も参考にならないことが分かってしまった……」

 ソロで戦ってる人は男の人だからこれもまた参考にならない。筋肉任せの力技みたいな感じだし。


「私は私らしい戦い方をするしかないか……」

 女子のソロ攻略勢なんて珍しいだろうし。

 そういえば学校一って噂の綺麗な先輩が女子のソロ攻略勢だったっけ。


「いつか会ってダンジョン攻略談義をしてみたいな」


 あと、もしもその先輩がぼっちな人なら……。高校生活をどうやって生き抜いているのかも知りたいかも。ぼっちだとけっこうしんどいし。授業の進み方が中学生のときよりも半端なく早いんだよね。心が折れそうだよ。

 なんてことを考えながら私は足を止めた。

 このあたりでいいと思う。他の人とはわりと距離をとったし。


「ザリガニを探そうか」

 私は小川の水の中へと視線を向けた。



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