第25話 紗雪の日常2
上だけジャージ姿で学校に登校した。
私、激しく後悔中だ……。
「失敗した。失敗したぁ。私はいったい何を考えてたんだろう……」
別にジャージの下にブラウスを着てきてもよかったんじゃないだろうか。
昨日はジャージだけで家に帰ったし、そのノリで今日も同じ格好で登校してしまった。
もし先生が、
「なんでジャージなんだ。脱ぎなさい」
って言ってきたらどうしよう。
クラスメイトみんなの前で、ちょっと子供っぽいブラジャーをした私のあられもない姿がさらけ出されてしまう。
「いや、私は変態かっ」
う……。むなしい。なんで私はひとり言で自分にツッコんでいるんだろうか。バカみたいだ。
ちなみに今日のブラジャーは猫の小さいシルエットがいっぱい描かれているやつだ。とても可愛いと思うんだけど、間違いなく子供っぽいと思う。
「どうせブラジャーを見られるのなら、もっと大人っぽいやつじゃないと恥ずかしいよね」
買わないとなーと思いつつ、まだ大人っぽい下着を買いに行ってないんだよね。
だって、いま持ってるのはまだそんなに使ってないブラジャーばっかりだからだ。もし新しいのを買ったとしても、成長期だからまたすぐにサイズが合わなくなるかもしれないし。そうしたらまた買い換え……。それはちょっと面倒くさい。
「ていうか、大人っぽいのでも見られたら恥ずかしいでしょ……」
またむなしいツッコミを入れてしまった。
「あー、友達が欲しい……」
自分にツッコむのは本当にむなしいから……。
ホームルームが始まった。
担任の先生が適当な話をする。私を見て何か言うかなって思ったけど、別に何も言われなかった。興味の対象じゃないみたいだ。地味な生徒でよかったよ。あやうくクラスメイトに下着を公開させられるところだった。セーフ、セーフ。
あー、というか、恥ずかしくなってきた。私は何をしょうもないことを考えていたんだろうね。ジャージを脱げなんて言われるわけがないんじゃんね……。寒いから着ているだけって思ったりするのが普通だろうし。ああ、自分の想像がむなしい……。
しばらくして、何事もなくホームルームが終了した。授業が始まるまでの休憩時間に入った。
「さーてと、楽しい高校ライフを一人ぼっちで過ごしますかー」
机で眠ったふりをしながら周囲の会話を聞く。
「私、レベル7になったよー」
「わー、おめでとうー。さすが毎日ダンジョンに行ってるだけあるねー」
「すごいでしょー」
「すごいすごい。私、まだレベル3だよ」
「ちゃんと上がってるじゃん。また一緒に行かない?」
「うん、行こう行こう」
レベル7と3かー。私はレベル28。つまり、本当にすごいのは私ということだ。完全勝利だ。
別の会話が耳に入ってくる。むむむ、この声は私をレッドゾーンに置き去りにしたにっくき連中だね。名前は忘れた。名前を覚える価値はないし。
「ねえ、学校一の美人って噂の先輩いるよね? あの先輩、マジでやばいんだけど」
「制服で無双しまくってる人?」
「そう。レッドゾーンでめちゃ強なモンスター三匹に囲まれてるのを見ちゃってさ、どうしようかと思ったんだけどね」
「え、助けようとしたの? さすがにそれはバカじゃね?」
「ああうん、もちろん助けないけどね。だってダンジョンでは何が起きても自業自得って扱いだし。綺麗な人はどうなっても別にいいし」
「だよねー」
やっぱりひどい人たちだった。どう見てもピンチなら知らない人でも助けてあげるべきだと思うんだけどな。
「そのまま先輩を見てたらね。あの人、一人で三匹とも倒しちゃったんだけど」
「え、無傷で?」
「んーん、さすがにそれはない。生傷だらけだし、制服もボロボロ」
「裸になっちゃえばよかったのに」
「性格わるー」
「それはお前もだろー」
あっはっはっはと大笑いする。
あの人たちの性格はまあ救いようがないとして。その先輩、すごいね。レベルはどれくらいなんだろう。私よりもはるかに高そうだ。
「で、オチは? その先輩がすごいっていうだけ?」
「んーん。モンスターの死体を置いて行こうとしてたから、素材もらっていいですかって聞いたんだけど」
「もらえたの?」
「うん。〈解体〉スキルは持ってないんだって。私、初期スキルが〈解体〉って言ったらさ、私の仲間にならないかって誘われたよ」
「え、すごいじゃん。うけたの?」
「まさか。断ったらショックそうにしてた」
あっはっはっはっはとまた大笑いだ。そこ、笑うところなんだ。先輩がなんか可哀想。
おっと、授業が始まりそうだ。先生が教室に入ってきた。
私は寝たふりをやめて顔をあげた。
みんなが会話をやめて席に戻っていく。授業の準備を慌てて始めた。
……。……。あいつの初期スキルって〈解体〉だったんだ。悔しいけど当たりスキルの部類だと思う。
そんな当たりスキルを初期にゲットできてしまったのたら、そりゃーハズレスキルをゲットした人を見たらバカにしてくるよね。私、実際にバカにされたし。
「なんかすごいムカつく……」
誰にも気が付かれないように、ボソッとつぶやいた。
いいもん、いいもん。〈ポーションクリエイト〉は結果的に私に合う当たりスキルだったんだし。あいつらはスキルを見る目がないって私はちゃんと分かってるんだからさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます