第23話 ボロボロのブレザー

 リルリルさんのいる広場へと戻ってきた。


「紗雪さん、おかえりなさーい」

「ただいまですー」

「あれ、服が変わってません?」


 リルリルさんが怪訝そうにする。


「そうなんですよ。フレアリザードっていうのと一戦交えることになりまして。制服が燃やされちゃったんですよね」

「フ、フレアリザード!」

「強かったですよー」


「フレアリザードの攻略推奨レベルは30ですよ。紗雪さん、勝っちゃたんですか?」

「はい、勝ちましたけど。レベル30も必要だったんですね……。通りで強かったわけです……」


 知ってれば挑まなかったよ。私のレベルは28だし。


「推奨よりも低いレベルで勝てたのはすごいことですよ」

「でも、本当にギリギリの戦いでしたよ。最後の最後で選択を間違えていたら死んでいたと思います」

「もしかしたら紗雪さんって戦いの才能があるのかもしれませんね」

「いやいや、そんな」


「フレアリザードは初心者に立ちはだかる最初の壁のようなモンスターです。前情報なしに初見で倒したんですから胸を張っていいと思いますよ。それに――」

「それに?」

「本当に強い人って、たとえ窮地になってもそこからしっかり勝ちきっちゃうんですよね」


 へえー。それじゃあもしかしたら私ってすごいのかもしれないね。


「まあ、胸を張って武勇伝を語る友達がいないんですけどね……。ははは……」

「紗雪さん……。前から聞こうと思っていたのですが、お友達は……」

「作るの苦手なんです」

「少し勇気を出してみては」

「出したところで関係が続かないんです」


 はあ……。暗い空気になってしまった。話題を変えた方がいいね。


「火薬花のつぼみを納品してもいいですか?」

「あ、はい、とても助かります。お友達、できるといいですね。ダンジョンを攻略するときだけでも」

「はい、ありがとうございます。憧れてはいるんですけどね……」


 言われてみれば、学校では疎遠だとしてもダンジョンだけでも一緒に攻略できる関係があれば素敵かもしれない。

 苦楽を共にできる関係になるし、ダンジョンの時事ネタなんかを語ることもできる。


 一週間に一度しか会えないとかでもいいから、友達が欲しいな。

 どこかにいないかな、私とダンジョンを一緒に楽しんでくれる人が。いるといいな。

 私は火薬花のつぼみを納品して、報酬の5000ポンを受け取った。


 5000ポン――、5000ポンかー……。円に換算すると5000円だ。レートはそんなにコロコロ変わるものではないみたいで、たいていいつも1ポン1円だ。

 クエストをやる前は5000ポンって良い稼ぎだと思ったんだけどな。


「完全に赤字になってしまった……」

 どんよりと暗い気持ちになってしまう。


「あれ、報酬が足りなかったですか?」

「いえ、制服を買い直さないといけないなっていう現実を直視してしまいまして」


 制服って無駄に高いんだよねー。量販店とかで買えればいいのに。ていうかむしろ、制服が廃止になって私服になるのでもOKなんだけど。


「ああ、なるほど。それなら大丈夫ですよ」

「……というと?」

「ダンジョンで衣服の損壊は日常茶飯事ですから、そういったときのための商売があるんですよ。ちょっとついてきてもらえますか?」


 リルリルさんが隣の露店の店主さんに「ちょっとお店を見ててもらえますか?」と聞くと、「いいよー」と明るい返事がきた。

 リルリルさんが何やら案内してくれるらしい。きょろきょろと露店をチェックしているみたいだ。「あ、いましたいました」と言っているから見つけたみたいだね。


 リルリルさんの露店から六つ隣へと移動する。

 その露店の店主さんは、リルリルさんみたいな四等身くらいの見た目のダンジョンフォークだった。性別は女性。髪の毛は茶色で、長くて太い三つ編みのおさげを作っている。


「こんにちはー。ちょっと今いいー?」

「いいよー。どうしたのリルリルー」


 その露店はハンガーラックに衣服をいっぱいかけていた。お洋服屋さんだろうか。


「ちょっと紹介したい子がいてー」

「その子ー?」

「うんー。紗雪さんっていうんだけど、服を燃やされちゃって」

「お客さんってことね」


 ダンジョンフォークの女性が私を見た。


「初めまして、紗雪さん。私はダンジョンフォークのマルタといいます。以後、お見知りおきをー」

「初めまして。私は千湯咲紗雪っていいます」


 よろしくお願いしますと軽くお辞儀をした。


「まあ、可愛らしい子ですね」

「そうなのよー」

「ここはどういうお店なんですか?」


 マルタさんがひとさし指を立てた。


「ズバリ、服を修繕するお店なんです」

「修繕?」

「はい、服が布切れ一枚でも残っていれば、ダンジョンフォークに伝わる伝統技術で一晩で修復しますよ」

「え、布切れ一枚から修復できちゃうんですか?」

「できるんです。門外不出の技術なので詳しくは語れませんが。お試しになりますか? きっと新しく買うよりもとてもリーズナブルなお値段だと思いますよ」


 お値段を聞いてみると、ブレザーが3000ポン、ブラウスが1000ポン、スカートだと2000ポンらしい。


「本当に新しく買うよりもリーズナブルですね」

「紗雪さんは初回ですし、リルリルの紹介ということもありますので500ポンで承りましょう」

「わあ、すっごくお得ですね。じゃあ、お願いできますか。この服なんですけど……。修繕できそうでしょうか」


 私はリュックに入れていたブレザーとブラウスを取り出した。穴だらけだし、布面積も半分以下になってしまっている。

 どうせ持って帰っても処分するだけだし、500ポンならダメ元でお願いしてみようと思う。

 マルタさんが丁寧な手つきで受け取ってくれた。


「大丈夫ですよ。これだけ残っていればお茶の子さいさいで修繕できます」

「本当ですか? ダンジョンフォークの伝統技術って凄いんですね」


 えっへんとマルタさんとリルリルさんが胸を張った。すごく可愛かった。

 聞けばハンガーラックにかかっている服は修繕済みのものなんだそうだ。完全に新品みたいだった。これなら安心してお任せできるね。


「では、修繕をお願いします」

「承りました。一晩で直しますので明日の放課後にでも取りに来てもらえますか?」

「分かりました。よろしくお願いします」


 朝はダンジョンに来る人が少ない関係で開店していないんだそうだ。

 朝にブレザーとブラウスを取りに来られたら理想的だったけどね。それができたら学校にちゃんと制服で登校できるから。

 ま、明日はジャージで授業を受ければいいか。ちょっと目立つけど、まあ誰も私のことなんて気にしないでしょ。



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