第21話 VS赤いトカゲ2

 熱い。熱い。熱い――。

 赤いトカゲが口から吐いた熱線みたいなのに身体が焼かれている。いろいろと焦げ付いていると思う。お肌とか制服とかが――。


 たぶんだけど、火薬花のつぼみにあった火薬を使われたんだと思う。さっき赤いトカゲは火薬花を火薬ごと食べていたよね。それを一部だけでも身体の中に保存できるんだと思う。

 それで牙と牙を打ち付けることでその火薬に火をつけて、爆発的な熱量を発生させて攻撃に使ったんだ。


「逃げ……ないと……」


 熱線はまだ私の身体を焼いている。逃げないと大やけどになってしまう。

 根性を出して右にジャンプしよう。それで攻撃の範囲外へと出るんだ。そう思ったときだった。私のすぐ右側で爆発が起きてしまった。


「うああああああああああああっ!」


 なに? なに? 意味が分からない。そこには何もいなかったはずだよね。

 私は爆発に巻き込まれて吹っ飛ばされてしまった。意識がとびかけて受け身をとれず、そのまま地面に倒れてしまう。


「う……」


 すごく痛い。痛すぎて涙が出ちゃいそう。気を失った方が楽だったのかもしれない。けれど、私はそこまでヤワなタイプじゃなかったみたい。


 泣きわめきたくなるくらい身体が痛い。でも、泣くのはまだ早い。だってHP的にはまだ16も残っているからだ。ここで何もかもを諦めて泣いちゃうのはちょっと根性なさすぎだよね。

 横になったまま、さっきの爆発はなんだったのかを考えてみる。いや、考えるまでもないか。


「火薬花のつぼみの中にある火薬に引火しちゃったんだ」

 引火しちゃうくらいに熱線は高温すぎたんだ。

「制服、すごくボロボロになっちゃってる……」

 確認しなくても分かるよ。スースーするもん。ブレザーもブラウスも穴だらけだ。


「入学してからまだそれほど経ってないのにな……」

 頭にきちゃう。花の女子高生の制服をボロボロにするなんて。

「何もやり返さないでは終われないよね」

 解体スキル、欲しいなー。あいつを倒してあいつを解体してあいつの素材を売ることで制服代金にしたい。


「ゆくゆくは解体スキルをゲットしてもいいかも――。ヒッ……」


 私は何をのんびりと行動しようと思っていたんだろう。ここは命を奪いあう戦場だ。敵が倒れていたら相手がトドメをさしにくるのは明白だ。

 赤いトカゲの両足が私のウエストのすぐ横に立っている。馬乗りに近い状態だ。

 勝ち誇る顔を見せるなんて無駄なことはせず、大きな口を開けて私の首を噛もうと迫ってくる。


「やばい。死んじゃ――」

 わないよ!

 絶体絶命の瞬間だからって私の思考は止まらなかった。一瞬で思いついた。取れる手が三つもあるって。


 一つは、腕を前に出すことであえて赤いトカゲに噛みつかせて首を守ること。

 一つは、ハンマーを横に構えて攻撃をガードすること。

 一つは、すぐ傍にある火薬花を引っ張って防御に使うこと。


「三番目、採用!」


 すぐ傍にあるのが花かつぼみかは分からない。でも、どっちにしろ赤いトカゲの口をふさぐことはできるはず。

 選択を間違えたら死ぬ状況だ。でも、この選択には自信が持てた。


「フガッ!」


 私が手に取ったのは火薬花の茎だった。つぼみじゃなくて花が開いているね。それを引っ張って防御に使ったことで、花弁が上手いこと赤いトカゲの大きな口に入ってくれた。

 この花弁は厚くてぶよぶよしていて重い。だから簡単には噛みちぎれないよ。私はそこに勝機を見い出した。


「うわあああああああああああああっ!」

 私は精一杯の力で花弁を赤いトカゲの口の奥に押し込みながら起き上がった。

「あああああああああああああああっ!」

 さらに花弁を押し込む。


「グッ、ガッ、グアッ!」


 花弁が赤いトカゲの喉を完全に塞いだみたいだ。厚くてぶよぶよしているから呼吸に影響が出たと思う。赤いトカゲが明らかに戸惑っている。

 私は一歩後ろにさがった。そして、力いっぱいハンマーを振りかぶる。


「よくもやってくれたね!」

 ハンマーを赤いトカゲの側頭部に叩きつける。赤いトカゲが頭から地面に倒れこむ。


「グフッ!」

「制服って高いんだよ!」

 私は上からハンマーを振り下ろした。


「ガフッ!」

「ボロボロにした代償は命だからね!」

 もう一度上からハンマーを振り下ろした。


「……」

 赤いトカゲが動かなくなった。生命力を感じられなくなった。念のため、もう一度だけ叩いておく。

 それから私はハンマーを杖みたいにして地面に立てて、思い切り全身の体重を預けた。あー、ダメだ。やっぱり立ってられない。膝をついてしまう。


「あーーーーーーー、しんど。もうやだ。怖かったあああああ。死ぬかと思ったー。なんで私、戦うのを選んじゃったんだろう。逃げればよかったのに。うううう。うあぁぁぁぁぁぁぁぁん」

 ボロボロと涙がこぼれてきた。「あぁぁぁぁあぁぁぁぁ」って情けない感じの声をあげながら一人で泣く。

 命のやりとりの怖さがいっぺんに溢れ出てきて涙が止まらなかった。


 私、はっきりと認識できた。戦うのは苦手だ。でも、矛盾しているかもしれないけど、どうやら私はダンジョンのことが大好きになってしまったみたいだ。そんな気持ちにはっきりと気がついてしまった。

 だって、怖かった気持ちとか悲しい気持ちとか痛い気持ちにまぎれてさ、「やったよ、あんなに強いのを倒せちゃったよ! 楽しかったなー。また明日も絶対にダンジョンに来よう」って気持ちがあることに気がついちゃったんだよね。



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